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そして1977年はプログレバンド最後の豊作年

 1977年というのは、わたしには大変な年でした。というのは、この年に高校3年生になり、大学入試に直面した年なのです。それまでかなりのんびり遊んでいたために、4月に受けた初めての駿台模試なるもので、「偏差値ってこんな低い数字ありえるんだ…」という成績を突きつけられて、とんでもない状況におちいっていたのです。そういうわけで、この年は音楽聞いてるか、受験勉強してるか、模試受けてるかくらいの記憶しか残ってないのですね。

 それでもこの年は、今で言うプログレ5大バンドのうち、解散状態だったキング・クリムゾンを除いて、のこりの4バンドは全部新譜を出していますし、ジェネシスを脱退したピーター・ガブリエルの最初のソロアルバムもリリースされていて、プログレ的には久々の豊作年でして、けっこうレコードは買っていたのです。

 この年、一番最初に聞いたのは、ジェネシスのWind & Wuthering(邦題:静寂の嵐)でしょう。英米では76年12月リリースですから、2月くらい、つまりまだ高2のうちに聴いていたはずです。

Wind & Wuthering(邦題:静寂の嵐) / Genesis 1976

  このアルバムは、前作(A Trick Of The Tail)の衝撃的な感動冷めやらぬうちに、もうやってきたと言う感じの新生4人ジェネシスの第二弾なんですが、やはり前作の衝撃が大きすぎて、内容は割と良かったのですがそこまでの感動は受けなかったのです。

 前作で、ジェネシスサウンドの要はキーボードのトニー・バンクスだということに誰もが気づいたわけですが、当の本人もこの結果に大いに自信を深めたのでしょうね。そのためか、続く本作では、どうもトニー・バンクスの発言権が強くなりすぎてしまい、ちょっとバンドとしてのバランスが崩れたような気がするのです。これは、のちのインタビューなどでも、トニー・バンクスがこのアルバムを一番好きなジェネシスのアルバムと公言してるのに、他のメンバーがそれにあまり同意してないということからも感じられましたし、何よりも、やはり前作からのわだかまりを抱えたままのスティーブ・ハケットの存在感がさらに希薄になってるんですよね。結局これも彼の脱退につながってしまう第二の伏線なのですね。でも、ジェネシスとしては、前作に続いて、一定以上のクオリティのアルバムを立て続けにリリースしたことには違いなく、彼らの勢いは続いていたというわけです。

 さらにジェネシスは、この年の終わり頃にこの2枚のアルバムのツアー音源からなる2枚組ライブアルバム Seconds Out(邦題:眩惑のスーパーライブ) を発表するのです。このライブアルバムが、これまた衝撃的だったのですね。バンドが4人となり、Trick Of The Tail のツアー時はビル・ブルーフォードが、Wind & Wuthering のツアーのときは、チェスター・トンプソンがサポートドラマーとして加入して、ライブではツインドラム構成になり、このことでライブバンドとしてのジェネシスは一皮むけることになるのですが、そのライブ音源をついに聴くことができたのですね。

Seconds Out(邦題:眩惑のスーパーライブ)/ Genesis 1977

フィル・コリンズとビル・ブルーフォードのツインドラムバトルが堪能できる The Cinema Show は、すべてのロックファンにおすすめの名演です!

 これはYESSONGSにも匹敵する、ロックの歴史的名ライブアルバムだと思うのです。とにかくジャケットの写真の雰囲気から完璧で、わたしはとにかく「一度でいいからジェネシスのライブを見てみたい」と、このアルバムを聴きながらいつも悶絶することになるのです(その望みが案外近い将来に実現することになるとは、このとき夢にも思ってませんでしたが)。

 さらに、この年、ジェネシスを脱退したピーター・ガブリエルも待望のファーストアルバムをリリースしています。このアルバムは本当に楽しみに待っていて、わくわくして聴いたのを覚えています。ところが、それを聴いた第一印象は「よくわからない」だったのです。結構いい曲も多いのですが、アルバムとしての統一感があまり感じられなくて、当時は「いったい何がやりたくてジェネシスを辞めたんだ」という感想だったのですね。

Peter Gabriel 1 : Car / Peter Gabriel 1977

もともとこのアルバムには peter gabriel としかクレジットがなく、ジャケットのイメージから Car と呼ばれるようになりました。アルバム通して、ちょっと一貫性のない多様な曲が並んでいるのですが、ラストを飾る Here Comes The Flood (邦題:洪水)は、やはり彼の天才性が感じられる楽曲だと思うのです。ちなみに Excuse Me では、ロバート・フリップが何故かバンジョーを弾いています。どうもこの時期キング・クリムゾンが解散状態だったフリップは、ピーター・ガブリエルに可能性を感じていて、何か一緒にやりたかったような感じなんですね。

 一方、ピンクフロイドも2年ぶりとなる新作をリリースしました。前作 Wish You Were Here(邦題:炎〜あなたがここにいてほしい) で、狂気路線からすこし脱却したわけですが、ここにきてピンク・フロイドもかなりプログレから脱した聴きやすい路線になっていくわけです。彼らも変わりつつも、それでいて段々と新しいファンも獲得するという離れ業を続けていたわけなのです。

Animals / Pink Floyd 1977

 また、イエスもリック・ウェイクマンが復帰して、Going For The One(邦題:究極)がリリースされました。

Going For The One(邦題:究極) / Yes 1977

 このアルバムも、「やっぱりイエスはリック・ウェイクマンだよなあ〜」と感じて嬉しかったし、出来としては悪くなかったと思うんです。ただ、前作のリレイヤーに比べてすこし聴きやすいというか、ポップな曲がふえてまして、これが緊張感がちょっと緩んでるような感じをうけたのは事実なのですが。

 こんな感じで、わたしとしてはまだまだ「プログレは死なず」みたいな意識だったのですが、これにちょっと水をさしたのが、わたしをプログレ沼に突き落としたEL&Pだったのでした。この年、EL&PはWorks(邦題:ELP四部作)という2枚組アルバムをリリースするのです。

Works, Vol.1(邦題:ELP四部作) / EL&P 1977

 イエスのソロアルバムプロジェクトに影響を受けたのでしょうか。A〜C面をそれぞれメンバーのソロとして、D面だけがEL&Pの作品という変則構成のアルバムだったのですね。ところが、メンバーソロがどれもかなり微妙だったのです。キース・エマーソンは、18分を超える大曲を収録しましたが、これがなんとガチのピアノ協奏曲でして、完璧なクラシック作品。そりゃキース・エマーソンがクラシック出身の凄腕ピアニストというのはみんな知ってるわけですが、「それ、誰も期待してないよ…」というのをやってしまったわけなんです。グレッグ・レイクは歌ものが中心で、いい曲もあり、これはまさにソロアルバムの雰囲気ではあったのですが、いかんせんなんか甘すぎる。カール・パーマーに至っては、イエスのアラン・ホワイトのソロアルバムとおんなじで、「自分のやりたいことをいろいろやってみました」みたいな感じだったのです。EL&Pサイドに辿り着く頃にはもう疲れ切ってしまい、ようやくはじまったFanfare For The Common Manもちっともグッとこないという有り様だったのでした。EL&Pは、この年の暮れにさらにWorks Volume2(邦題:作品第二番)という作品までリリースするのですが、とてもそんなの聴く気にならないほどの状況に落ち込んでしまったのでした。この時点でわたしは、ほぼ完璧にEL&Pについての興味を失ってしまったのです。

Works, Vol.2(邦題:作品第二番) / EL&P 1977

 最初に、「プログレ豊作の年」と書きましたが、歴史的に見ると、この年がまさに「最後の」豊作の年なのですね。この年、イギリスではセックス・ピストルズを筆頭にパンクムーブメントが起きていたわけでして、従来からのプログレ的なものが、大きな転換期を迎えた時期というわけです。(日本ではあんまりパンクの風圧は感じてなかったんですけどね…)そして、翌78年になると、プログレの死を象徴するかのような、「あの」アルバムがリリースされるのですね。



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