【官能小説】 Cerberus 第15話 『愛奴の母』
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翌朝、一ノ瀬はトントンと包丁がまな板を
叩く音と焼き魚の匂いで目が覚めた。
乱れたガウンを整えてリビングへ向かうと、
昨日同様に上機嫌な貴美子とまだ眠たそうな
香澄が出迎えてくれた。
挨拶をしてから顔を洗ってからリビングへ
戻ると、和風の朝ご飯が用意されている。
鯵の開き・味噌汁・ご飯・小鉢が5つも
用意されており、本当に旅館に宿泊している
ような気分を味わいながら一ノ瀬はつまらない
事を考えていた。
(なぜこんなに良く出来た女性が
離婚する事になったんだろ… )
朝ごはんをご馳走になった後、
丁寧にお礼を言い、帰り支度を済ませる。
玄関へ向かう廊下を歩く背後で鞄を持って
ついてくる貴美子はまるで束の間の
夫婦ごっこを楽しんでいるかのようだった。
『一ノ瀬さん、とっても楽しかったわ♪
また遊びにいらしてくださいね。』
『部長、いつでもお待ちしてます♪』
『ありがとうございます。
またお邪魔させてもらいます。』
普段、誰もいないマンションで1人慎ましく暮らす一ノ瀬にとって、香澄の家で過ごした時間は
まるで実家に帰ったような懐かしさと安らぎを
感じる時間だった。
それからというもの、月1ペースで夕飯に
招待されるようになり、貴美子とも徐々に
家族のような人間関係を構築していった。
◆◆◆
そんな関係が半年ほど続いた冬のある日、
人事部から香澄に昇進の話が届く。
香澄の働きぶりを見た一ノ瀬の推薦もあり、
キャリアアップを図るための外部研修を
受講するチャンスを与えられたのだ。
しかし香澄はこの研修を辞退した。
想定外の返答に慌てた人事部長は、
香澄の真意を確認してほしいと一ノ瀬に
依頼してきた。
『香澄さん、ちょっと良いかな?』
そう言って香澄を呼び出すと
2人で会議室へ入った。
『香澄さん、人事部長から聞いたけど
昇進の件断ったの?』
『…はい。』
『私としては香澄さんのキャリアアップの事を
考えて推薦させてもらったんだけど… 』
『ありがとうございますご主人様。
でも、今のタイミングではちょっと… 』
『タイミング…?
何か気掛かりな事でもあるの?』
『…はい。 実は… 』
そう言って香澄は事情を話し始めた。
話を纏めると、貴美子がパート先の店長から
ストーカー被害に遭っているとの事だった。
以前から言い寄られていると聞いていたが、
ここ数ヶ月で店長からのアプローチが
エスカレートしてきたらしい。
それが原因で貴美子はパートも辞めて怯える
日々を送っており、そんな母を1人家に置いて
研修を受講するのは気が進まないとの事だった。
確かに研修は地方の施設で3日間缶詰めになり、昼夜を通して行われるため家へ連絡する事も
ままならない。
その間、精神的に不安定な貴美子が1人きりに
なってしまうのを案じて辞退したそうだ。
『なるほど…。
確かにそれは心配だね… 』
『はい…。
だから折角のお話なんですが… 』
『そうか…。
でも本心としては受講したいの?』
『もちろんです。折角ご主人様が
推薦してくださったのですから。』
『わかった。
私としてもストーカーのせいで香澄さんの
キャリアアップが遅れるのは不本意だから
貴美子さんと話し合ってみてよ。
返事は数日待つからさ。』
『はい… 』
その数日後、
朝のお務めを終えて口から溢れた精液を
指で掬って飲み込んだ後、深妙な面持ちで
デスクの下から一ノ瀬を見上げる。
『ご主人様… 先日の昇進の件ですが… 』
『ああ、考えてくれた?』
『私…
やっぱりこのチャンスを掴みたいです。』
『そっか、良かった!』
『それで…
無理を承知でお願いがあるのですが、
研修の間だけ私の家に泊まっていただけ
ませんか… 』
『…。』
『母が心配なんです…
ご主人様にこんな事をお願いするのが
筋違いなのはわかっています…
でも、頼れる人が他にいなくて… 』
一ノ瀬も香澄の母親とひとつ屋根の下で2人きりになる事に問題があるのは当然理解している。
しかし何度も夕飯に誘ってもらい日頃から
お世話になっている恩義もあるため放って
置く事もできないと思い承諾する事にした。
そして11月のとある金曜日、
仕事を少し早めに切り上げて一度自宅へ戻り
着替えを持って香澄の実家へ向かう。
家へ向かう道中、一ノ瀬の表情は物憂げだった。
いくら親交があるとはいえ部下の母親と
二晩を共に過ごす事を考えると気が引ける。
しかもただの部下ではなく香澄は愛奴だ。
普段、娘を調教しておきながらその母親に平然と
接しなければならない事に引け目も感じる。
一ノ瀬の上空を覆う灰色の空はまさに
今の心境を代弁しているかのようだった。
インターホンを鳴らすと、
いつも通り綺麗に着飾った貴美子が
玄関扉の隙間からこちらを覗き込む。
訪問者が一ノ瀬だと確認できると周りを
きょろきょろ見回して中へ入るよう促す。
『ご無沙汰してます。
大丈夫ですか…?』
『ほんと無理を聞いてくださって
すみません… ありがとうございます。』
『いえ、私は構いません。
ストーカー被害に遭われているとか… 』
リビングに通された一ノ瀬はソファに腰掛け
貴美子の話に耳を傾ける。
掛け持ちしていたパート先の1つだった喫茶店の店長からずっと好意を持たれており、
最初の頃はセクハラじみた言動だけだったので
我慢してきたが、ここ数ヶ月に至っては
胸の形がくっきり出るような小さい制服を
支給されたり、すれ違いざまに尻を触られたりとその行為はエスカレートしていったようだ。
そんな環境に嫌気がさし辞める事にしたのだが、別のパート先に押しかけたり、家のインターホンが押されても誰の姿も無かったりと、
ストーカー化してきた事から全てのパートを
辞める事にしたそうだ。
もちろん警察にも相談したそうだが、
確実な証拠が無いとして対策もパトロールの
強化に留まっており、決定的な抑止には
繋がっていないとの事だった。
事情を飲み込んだ一ノ瀬が今夜と土日は
この家に留まる事を約束すると、
貴美子は安堵の表情を浮かべ、
いつもの明るい貴美子に戻った。
いつも通り貴美子が作った夕飯をご馳走に
なりながら晩酌を楽しんだが2人きりの食卓は
なんだか落ち着かず、テレビをつけると
昔流行った映画が放送されていた。
夕飯を終えた後にソファで映画を観ていると、
後片付けを終えた貴美子がワインとチーズを
持って一ノ瀬の隣に座る。
部下の母親でもこうして隣に座ってワインを
飲みながら映画を観ていると、
夫婦になったかのような錯覚に陥る。
普通、何気ない会話が止まると気まずい空気が
流れるものだが、不思議と一ノ瀬は気まずさを
感じる事無くリラックスして過ごしていた。
貴美子もまた男性が家にいる安心感からか
久しぶりにリラックスした時間を過ごす事が
出来ており、気が緩んだのか一ノ瀬の隣で
うとうとし始め、映画が中盤に差し掛かる頃には一ノ瀬の肩に頭を寄せて眠ってしまった。
ふと一ノ瀬が貴美子の方へ視線を落とすと、
胸元の開いたワンピースから豊満な谷間が
広がっている。
スースーと小さな寝息をたてながら眠る
貴美子の呼吸に合わせて胸も小さく前後に動く。
眠り辛かったのか、貴美子は腕を抱きかかえる
ように寝相を直し、一ノ瀬の腕は胸の谷間に
包まれた。
香澄も貴美子と同様に一ノ瀬の腕を抱きかかえて眠る癖があるため、親子揃って同じ癖なんだなと
少し微笑ましい気持ちになった。
香澄よりも一段柔らかい感触を腕に感じつつ
理性を保とうと映画のストーリーを追いかける。
そんな折、突然家のインターホンが鳴った。
身体をビクッとさせて起きた貴美子は
インターホンの音が恐怖の対象になっている
ようだった。
左腕に抱き付いたまま不安げな顔で
一ノ瀬を見上げ固唾を飲む。
『大丈夫です。私が出ます。』
そう言うと長い廊下を通り玄関へ向かう。
犬のレオも何かを察したのか一ノ瀬の後を
追って玄関へついてくる。
玄関の電気をつけると磨りガラスになって
いる玄関扉の向こうに誰かが立っているのが
見える。
背丈や体型から推察するに恐らく男性だ。
『どちら様ですか?』
そう呼び掛けると、
男性の声で応答された事に驚いたのか
その人影は無言で立ち去ってしまった。
念の為、警察へ連絡を入れて事情を説明すると
重点的に警備を強化してくれる事になった。
リビングへ戻ると貴美子は震えるように
縮こまっていたので一旦落ち着かせようと
『大丈夫ですよ。私がついていますから。』
と言葉をかけると、一ノ瀬の元へ駆け寄り
胸の中へ飛び込んだ。
『ごめんなさい…
少しだけこうしてて良いですか…?』
一ノ瀬は微かに震える貴美子の身体を
何も言わずに身体を抱き締めた。
少しの間、背中をとんとんしながら抱いていると落ち着きを取り戻した貴美子。
『ごめんなさい…
お風呂用意しますね。』
そう言って気丈に振る舞いながら
風呂の支度へ向かう。
か弱い女2人がこんな恐怖に毎日晒されながら
過ごしているのかと思うと怒りが込み上げて
くるが、変に事を荒立てては犯人を余計に
刺激してしまう可能性もあるので極力この家に
通ってあげようと心に決めた。
やがて風呂が沸き、貴美子に促されて
一番風呂をご馳走になる。
頭からシャワーを被り、ボディソープをプッシュしたその時、風呂場のドアをノックする音が
聞こえた。
『一ノ瀬さん… 』
第15話 『愛奴の母』 終わり
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