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【官能小説】 Cerberus 第14話 『温かな団欒』


▼第13話はこちら▼


多少のハプニングはあったものの、全体的には
和やかな雰囲気のまま今年のBBQ大会もなんとか無事に終幕を迎えた。


会の最後に一ノ瀬が締めの挨拶で参加者への
感謝を伝え、参加してくれた家族を社員総出で
お見送りする恒例行事がある。


一人一人に社員一同日頃の感謝を伝え、
お見送りするのだ。


列の最後には香澄の母・貴美子が並んでおり、
主催者である一ノ瀬の前へ歩み寄る。


『一ノ瀬さん、今日は助けていただき
 ありがとうございました。』


『いえ、うちの中島が失礼をはたらいて
 申し訳ありませんでした。』


『あの… 助けていただいたお礼に
 ご迷惑でなければ今度我が家で
 夕飯でもいかがですか?』


『あ、ありがとうございます。』


『良かった♪
 では、失礼します。』


その時は単なる社交辞令として捉えていた
一ノ瀬だったが、後日、香澄を介して夕飯の
お誘いを受ける事になる。


◆◆◆


GW明けの火曜日。


いつも通り早めに出社した一ノ瀬のデスクの下で朝のお務めをしている香澄が口を開く。


『ご主人様…
 ちょっとご相談があるのですが… 』


『ん?どうした?』


『あの… 母が先日助けていただいたお礼に
 来週の金曜日にご主人様を夕飯へ
 ご招待したいと申してまして… 』


『…。』


お礼も何もむしろ迷惑をかけたのはこちらだと
考えていた一ノ瀬は、謝意を伝えつつ丁重に
断ったが、どうしてもと食い下がる香澄の熱意に負けて申し訳ないと思いながらも承諾した。


◆◆◆


そしてGW翌週の金曜日。


課員の面々に勘付かれぬよう会社を後にした
一ノ瀬は香澄の自宅のある最寄駅で合流して
腕を組みながら香澄の家へ向かった。


『ご主人様とこうやって腕組みしながら
 歩かせていただくの久しぶりですね♪』


『そうだな〜。
 首輪嵌めてやろうか?(笑)』


『今日はダメですっ(笑)
 本当はそうしていただきたいですけど… 』


そんな会話をしながら途中で酒屋に寄り、
香澄の母がハマっているというワインを
手土産に購入して19時頃に到着した。


香澄からは母と2人暮らしと聞いていたが、
予想外に大きな純和風のお屋敷だった事に
一ノ瀬は少し面食らった。


後に聞いた話では香澄は名家の出で、
貴美子の離婚を機に実家である現在の家へ
出戻りしたとの事だった。


玄関に入ると、正面には和風旅館のエントランスを思い起こさせるような大きな銘木の切株が
飾ってある。


玄関の中は檜の心地良い香りが漂っており、
建築に疎い一ノ瀬にも贅沢な造りである事は
理解できた。


まさか香澄がこんな家にするでいるとは
思ってもみなかった一ノ瀬が少し呆気に
取られながら香澄へ目をやると、
香澄は照れたような苦笑いを浮かべていた。


カツカツカツカツ…


長く伸びる和風の廊下の奥へ目を向けると、
純和風の家屋には若干不釣り合いな
ゴールデンレトリーバーが
舌を出しながら駆け寄ってくる。


『レオ♪ ただいま〜。』


犬は一目散に香澄の元へ駆け寄って
ピョンピョンと跳ねながら出迎える。


一通り出迎えの儀式を終えた後、一ノ瀬の周りをぐるぐると歩き回りながら匂いを確認する。


ひと通り確認し終えた犬は問題無しと
判断したのか、尻尾を振りながら一ノ瀬の前に
座って頭を撫でられるのを大人しく待っている。


『香澄みたいだね(笑)』


『ん〜っ、ご主人様っ💦』


『ふふふっ。』


レオの頭を撫でながら小声でそんなやり取りを
していると、廊下の奥から笑顔の貴美子が
出迎えに現れた。


胸元の広く開いたTシャツにカーディガンを
羽織りプリーツスカートという装いは、
BBQ大会の時のスポーティーな印象とは
うって変わって名家のお嬢さんらしい気品を
漂わせている。


『あら〜、お待ちしてました一ノ瀬部長♪
 先日はお世話になりました♪』


『こちらこそ。
 本日は夕飯にお招きいただきありがとう
 ございます。』  


『ささ、どうぞお上がりになって♪』


挨拶もそこそこに手土産のワインを手渡し
靴を脱ぐと家の奥へと案内される。


前を行く貴美子の腰にはプリーツスカートが
ぴったりとフィットしており、歩くたびに
揺れる艶かしい尻肉の動きを楽しみながら
一ノ瀬は後を追った。


リビングに着くとテーブルには貴美子の手料理が所狭しと並べられており、その豪華さからも
料理の腕前を伺う事が出来る。


『わぁ、凄いな。
 香澄さんはいつもこんな豪勢な料理を
 食べてるの?』


『まさか。部長がいらっしゃるから
 特別気合い入れて作ったんですよ(笑)』


『こら香澄っ!余計な事言わないの!』


『ははっ、仲良いんですね。』


そんな和やかな雰囲気で食事はスタートし、
終始笑いの絶えないひとときを美味しい
手料理とお酒を酌み交わしながら過ごした。


香澄が小さかった頃の話、会社の話、
中島のセクハラの話、互いの家庭の話など、
様々な話題で盛り上がったが、
香澄のバックボーンを理解する上で
とても有意義な時間となった。


貴美子の両親は6年前に他界しており、
香澄と4つ年の離れた妹は数年前に結婚した
タイミングで家を出たため現在はこの広い
屋敷に香澄と2人きりで住んでいるそうだ。


貴美子に関しては、両親から多額の資産を
相続したため働かなくても充分暮らして
いけるそうだが、社会との接点を絶たぬよう
パートをいくつも掛け持ちしており、
パート先の店長からアプローチを受けて
困っているとの事だった。


『は〜、久しぶりに楽しい時間だったわ♪』


ほろ酔いになり上機嫌な貴美子と
飲み過ぎで上機嫌な母を心配する香澄。


その微笑ましい様子を一ノ瀬が目を細めて
眺めていると、振り子のついた大きな柱時計が
ボーンと10回鳴った。


『あ、もうこんな時間だ…
 すみません、楽しくてついつい
 長居してしまいました。』


『あらほんと!
 あっという間でしたわね… 』


『お料理もお酒も美味しかったです。
 素敵なお母さんだね、香澄さん。』


『だいぶ猫被ってますけどね(笑)』


『も〜、香澄っ!』


再び笑いに包まれる食卓。
2年前から妻と別居している一ノ瀬にとって
家族と食卓を囲んだ時のような温かい気持ちが
久しぶりに湧き上がるのを感じた。


『一ノ瀬さん、今日お泊まりになれば?』


『いや…
 それは流石にご迷惑になりますので… 』


『良いのよ遠慮なんて。明日はお休みだし
 帰ってもお1人なんでしょ?』


『まあ、そうなんですが… 』


『良いじゃない♪
 ねっ、香澄もそう思うでしょ?』


『うん♪ ご主っ…
 一ノ瀬部長さえ宜しければ是非泊まって
 いってください。』


『じゃ決まりね♪
 あ!今お風呂の支度してきますね♪』


そう言うと一ノ瀬の気持ちが変わらぬうちに
風呂場へ向かっていった。


『すみませんご主人様…
 本当にご迷惑じゃなかったですか…?』


『私は全然ありがたいけど
 むしろご迷惑じゃ無い?』


『いえ、母も喜んでますし。
 女所帯なのでご主人様に居ていただくと
 母も安心なんだと思います。』


貴美子の好意に甘えて一番風呂をご馳走に
なり、脱衣所の扉を開けるとタオルと
紺色のガウンが用意されていた。


普段一ノ瀬が使っているくたびれたタオルとは
違いふわふわで良い匂いがする。


こんな時、仲睦まじかった頃の家庭を
思い出して少し寂しい気持ちになる。


身体を拭き終えた後、肌触りの良いガウンに
袖を通しリビングに戻るとテーブルに
並べられていた皿は綺麗に片付けられ、
手土産で持ってきたワインがセッティング
されていた。


『あ、湯加減いかがでした?』


チーズやピンチョスの乗った皿を運びながら
上機嫌に問いかける貴美子はきっと良い奥さん
だったのだろうと想像してしまう。


『とても気持ち良かったです。
 久しぶりに脚を伸ばせるお風呂に
 入らせてもらいました(笑)』


『良かった♪
 それにガウンもよくお似合いですわ♪
 ささ、どうぞお掛けになって♪』


『はい、ありがとうございます。』


『香澄〜、ビールお持ちして〜。』


パタパタとスリッパの音を鳴らしながら
お盆に乗せたビールとグラスを運んでくる。


『はい!どーぞ♪』


先程以上に上機嫌な貴美子にお酌され
再び宴会が始まる。


宴会は24時まで続き、一ノ瀬がうとうと
し始めたのでお開きする事となった。


すっかり酔いの回った一ノ瀬は香澄に
連れられて10畳ほどある和室へ案内される。


部屋の真ん中には綺麗に整えられた
布団が敷かれており、枕元にはお盆の上に
水の入ったデキャンタまで用意されている。


まるで旅館に宿泊しているかのような
おもてなしに一ノ瀬は心が安らいだ。


『ご主人様… 奥様と別居されてたんですね。
 私、全然知りませんでした… 』


『ああ、実はそうなんだ。
 君のお母さん聞き上手だから
 つい話してしまったよ💦』


『もし良かったら、
 また泊まりに来てくださいね。
 ご主人様なら母も喜ぶと思いますし。』


『うん… ありがとう。』


『約束ですよ♪
 じゃ、おやすみなさい。』


そう言ってキスをすると部屋から出て行った。



第14話 『温かな団欒』 終わり


▼第15話 『愛奴の母』▼


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