見出し画像

AIみちこさん 第1話

 ボクは学校の帰りに、近くの河原でボーっとしていた。たまにそんなことをする。まあ、ボク流の息抜きだ。子供でもそんなことが必要なことがあるのだ。たまには部活を休みたいことだってあるし、まっすぐ家に帰りたくないことだってある。そんなときは、この河原のお気に入りの場所に座って、ボーっとするのが一番いいんだ。

 見上げると段々空が赤くなってくる。同じようにみえる空も、雲の具合でいろんな景色になる。そんな景色を見てると、周りが少しづつ薄暗くなっていく。ふと、河原に目をやると、なんか、ボクと同じようにボーっと、なんとなく薄明るいところが見えた。多分、見間違いだ。でも、やっぱりなんとなく、薄っすらと光っているようにも見える。ボクは立ち上がり、その場所へ行った。なんとなく光っていたのは、河原の石?だった。こんなにたくさんあるのに、それだけが薄っすらと光っている・・・感じがする。

 ボクはそれを手に取った。とてもなめらかで、ちょうど手のひらに収まる。川に投げれば、どこまでも跳ねていきそうだ。一瞬、投げてみようかと思ったが、やめた。こんな綺麗な石を投げてしまうのは、もったいない。ボクはカバンに入れて、帰途についた。河原沿いを自転車で10分ほど走ると、家に着く。

「ただいま。」
「お帰り。」
「ご飯は?」
「もうすぐ、食べれるよ。」
「今日は何?」
「カレーよ。コロッケカレー。着替えてらしゃい。」
カレーといえば、コロッケカレーなんだよな、うちは。うちのカレーは、恐らく変わっている。多分、普通はニンジンにジャガイモ、タマネギと肉が入っていると思うじゃん。でも、違う。うちのはまるごとのたまねぎを、そのまま入れて、完全に溶け込ませて、あとはトマトと肉なんだ。だから、酸味が強い気がする。まあ、それが我が家の味なんだろうな。

 二階の自分の部屋に、カバンを置いて、着替えると、一階の食卓についた。
「座ってないで、お皿に好きなだけご飯をよそって来なさいよ。」
「はーい。」
そう、我が家は自分が食べる分だけ、自分でつぐ。カレーもだ。あとは、好きなだけ、サラダを自分の器に入れて、好きなドレッシングをかけて食べるのだ。

 食事が終わると、自分の部屋に戻った。英語の宿題があったっけ。カバンを開けて、英語の教科書を取り出そうとすると、薄っすらとカバンの底が光っている。あ、そうだ、あの石だ。ボクは机のスタンドの明かりの下で、その石をまじまじと見た。やっぱり、綺麗な石だ。こんな石が河原に落ちているなんて、なんとなく不思議な気がした。おっと、宿題の量が多かったんだ。ボクは石を置いて、宿題に取り掛かった。だけど、なんでこんなに多いんだ。一日じゃ無理だろ。文句を言いながらも、なんとか仕上げた。しんど~。今日はもう寝よう。

 翌日、学校に行く準備をしていると、スマホの電池がないことに気がついた。あちゃ~、まじったな。仕方がない、予備電源持っていくか。それだけ、カバンが重くなる。でも、自転車だから、まあいいか。

 その日は相変わらずの一日で、部活もあったので、遅くなった。家に帰るとバタンキューしたかったが、お風呂に入って、さっぱりしたかったんで、のんびり湯につかってた。さすがに浸かり過ぎて、汗が止まらない。クーラーで涼んでから部屋に戻った。部屋の電気をつける前に、机がボーと明るいのに気が付いた。あれ?と思ったが、そうだ、あの石だ。やっぱり、光ってるんだ。その石を握ると何となく、暖かく感じた。ボクはその石を握り、ベットで横になった。なんか、気持ちいい。ボクはそのまま寝てしまった。

 翌朝、いつものように目が覚めた。そういえば、あの石は、と思ったが、見当たらない。確か、握ったまま、寝てしまったんだよな。ベットの上を探したが、ない。どこいったんだろう。よくわからなかった。時間がないから、学校にいく支度をして、階段を降りた。

「ちゃんと、食べて行きなさいよ。」
「わかってるって。」
パンと冷ましたスープと目玉焼きを頬張った。
「いってきま~す。」
「はい、いってらっしゃ~い。」

 ボクはいつものように、自転車にカバンを括り付け、走り出した。すぐに河原の道に入るので、視界が開けて気持ちいい。しばらく走ると、学校に到着する。自転車置き場に置いて、教室へ向かった。ボクは、松島涼(まつしまりょう)、中学2年だ。

「おはよう。」
「リョウ、宿題できてる?」
「まあね。」
「ちょっと、見せて。」
いつもボクにねだってくるのは、小林英孝(こばやしひでたか)。ボクの親友だ。たいがい、コイツとつるんでいる。
「リョウくん、おはよう。」
「おはよう。」
彼女は幼馴染の高山涼子(たかやまりょうこ)、ボクの涼に「子」が付くか、付かないだけで、名前が似ている。涼子は男っぽい性格で、あんまり女子とつるまない。昼休みだって、ボクと小林と涼子の3人で食べることが多い。

 ボクが部活で遅くなっても、涼子は勝手にボクの部屋で待ってることがあるので、あんまり変なものは置いておけないんだ。ボクがやってる部活は陸上部。あんまり、足が速くないけど、種目は短距離だ。今日も、授業が終わって、みっちり、部活をやって、家に帰った。

「涼子ちゃん、来てるよ。」
「え~、またかよ。」
自分の部屋に入ると、しっかりくつろいでいる。自分はしっかり、着替えてきてる。ということは、ボクんちで晩御飯まで食っていくつもりだ。涼子んちは、両親とも働いていて、二人とも遅くなるときは、我が家に来る。まあ、家が近いせいもあるけどね。

「ちょっと、ボクが着替えるまで、台所でかあさんと話でもしてきなよ。」
「あれ~、恥ずかしがってんの。」
「いいから、いけよ。」
涼子を追い出すと、服を着替えて、カバンから宿題を出して机に置いた。こうしておけば、忘れることはない。

「ご飯よ~。」
「は~い。」
こんな日は、3人でご飯だ。お父さんはいつも遅い。
「さあ、涼子ちゃんも座って。」
「はい。」
今日は中華だ。チャーハンに餃子、エビチリ、サラダその他もろもろ。
「あとで、宿題、一緒にやろうよ。」
「リョウくん、涼子ちゃんに教えてもらったら。」
「逆、逆、ボクが教えてんの。」
「違うよ。私だよ。」
いつも静かな夕飯が、この時ばかりはやかましい。でも、お母さんはうれしそうだ。食後、ちょっと一服してから、部屋へ上がった。

「ん、じゃ、やるか?」
「今日のは、難しいかな?」
「いや、そんなに難しくなかったと思うよ。」
「よかった。」
30分ほど、真剣に問題を解くと、涼子もほぼ終わりそうだった。

「じゃ、あとで、送っていくよ。」
「ありがとう。」
宿題が終わると、リビングへ戻り、また、3人でテレビを見る。適当な時間になると、ボクが送っていく。いつものパターンだ。

 ようやく、ボクひとりの時間が味わえる。のんびり、部屋でくつろいでいると、不思議なことが起こった。

(リョウサマ。)

いきなり、声が聞こえた。
「えっ、だれ?」

(AI-206111REX)

「はぁ?」
なんじゃ、そりゃ。それにどこに女の人隠れてるの?確かに、声は女性だ。

(回復まで、かなりの時間を要します。回復したら、またお会いしましょう。)

「ちょっと、待って。」
しばらく待ったが、それ以後何も聞こえなくなった。いったい、なんだったんだろう。今の声はどこから聞こえてきたんだろう。でも、その声はそれっきりだった。1日経っても、数日経っても、もう聞こえることはなかった。ボクもそのまま、そのことはほとんど思い出すこともなくなった。

(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?