見出し画像

ほっといてくれ! 第2話

「そんなことないです。」
えっ?ボク、言葉にしたっけ?
「いえ、してないです。」
(わかるの?)
(わかります。)

 彼女は自分と同じような能力を持ったボクに、興味をもったみたいだった。ボクは滅多に人の心を読むことはしないけど、彼女は勝手にどんどん入ってくるらしい。だから、言葉に出していうのが苦手になったようだった。だけど、言葉にしなくても、この方が普通の速度で話ができている。

(傍からは黙ってるように見えていても、ボクたちにはこの方がいいね。)
(ほんと、いいと思います。)
(だけど、ボクみたいな人がいるとはね。)
(私もびっくりしちゃいました。)
(最初はどうやってわかったの?)
(いろんな人の思いが勝手に入ってくるんで、ほんと嫌気がしてたんです。でも、あなたからの思いは、言うなれば、色が違ったので。)
(色?)
(そう。私と同じ色だったんです。)
(そっか、そういうことか。)
(だから、早く、一緒に話がしたかったんです。)
(その能力は家族とか誰か、知ってるの?)
(いいえ、誰も知りません。)
(ボクんちは両親とも、知ってる。)
(そうなんですか、いいですね。)
(今度、ボクんち、遊びにくるか?)
(いいんですか?)
(全然いいさ。)
(行ってみたいです。)
(歓迎するよ。)
(ありがとうございます。)
だけど、ボクは多分モンスターだ。感情が爆発したら、手が付けられない。そんなことを彼女が知ったら、どう思うだろうか。でも、いつか言わないといけないんだろうな。

 その後、ボクと彼女は結構仲良くやっていたもんで、ゼミの仲間の間では、あの親睦会で「くっつけ大成功!」と思われていた。
「君ら、よかったね。」
「私たちがキューピットよ。」
「お似合いだね。」
好きに言ってくれていいけどね、その通りだから。ボクは今まで、友人はいなかった。彼女は友人なのか、恋人なのか、同じ仲間なのか、自分でもよくわからないけど、まあ、とりあえず仲の良い人ということなのだ。

(夏休みにボクの実家に来るかい?)
(行きたいです。)
そんなわけで、ボクは彼女を連れて実家に帰った。予め、連絡しておいたけど、ボクの両親は興味津々の様子だった。

「あんたが女の子連れてくるなんて、初めてね。」
「かわいい子じゃん。」
「ほっといてくれ。」
「初めまして、お世話になります。」
「あんまり、いじめんといてな。」
晩御飯の時に、ボクは彼女がボクと同じだと、両親に告げた。両親はともに、そんなに気にすることもなかった。

「まあ、あんたが連れてくるなんて、多分、そうだと思ったよ。」
「でも、彼女さん、気にしないでね。」
「この子は大変だったのよ。」
おいおい、その話かよ。まあ、いいか。
「小さい時はいじめられっ子で、よくいじめられてたのよ。」
「そうなんですか。」
「でもね、本当に怒った時が大変だったの。」
「この子ったら、いじめてた子たちをみんなやっつけちゃったのよ。」

(感情が抑えきれなくなると、いじめてた連中みんな、大けがしたんだよ。)
(なんで?)
(その時にしか使えない、能力なんだ。)
(そうなの?)

「そうなんですね。」
「そうそう、だからその後は誰もこの子をいじめたりしなくなるの。」
「からだ中の骨、ボキボキだもの、大変だったのよ。」

(やりすぎね。)
(ボクも制御ができなくて、仕方ないんだ。)
(じゃあ、私がちゃんと抑えてあげるわ。)
(そんなことできるの?)
(任せておいて。)

「すごかったんですね。」

 晩御飯後、コーヒーをふたりで飲んで、ゆっくりしてた。

(まあ、ボクらの能力なんて、ほとんど気にしない両親だから、気が楽だろ?)
(ほんと、いい家族ね。)
(君んとこは?)
(このことは知らないので、多分、知ったらどうなるのかわからないわ。)
(そっか。じゃ、言葉にして話していく方がいいのかもね。)
(うん・・・)
彼女はあんまり、気が進まない感じだった。

 その夜、ボクの母親は、一つの部屋に二つの布団をくっつけて敷いてくれていた。彼女は真っ赤になって、別にしてほしいと懇願してた。ボクは別にどっちでもかまわないんだけどな。近くでも遠くでもそんなに気にならない。だって、距離なんて関係なく、話ができるしね。だけど、彼女の言う通り、別の部屋になった。

(ごめんな。ボクの両親、あんな調子だから。)
(いえいえ、いいご両親よ。多分それが普通だと思うわ。)
(そうかな。)
(だって、息子が女の子を連れてきたのよ。どんな親だってそうするわよ、きっと。)
(そんなもんかな。)
(そうよ。)
明日は、ふたりで近所を散策しよう。

 実家の近所は、歩けばすぐに自然が広がっている。だから、誰もいない林の中に入っていける。まあ、人に出会わない方がいい。特に、ボクの能力を発揮する場合はだ。

(物を動かすことは少しならできるかな。だけど、感情が爆発するとえらいことになるんだ。)
(そうなんだ、あんまり無理しなくていいわ。)
(うん、だからこんなふうに話をするだけにしよっ。)
(これで十分じゃない?)
(そうだね、これがいいかも知れないね。)

 こんなふうにゆっくり話をしたのは、初めてかもしれない。言葉で話をするより、ボクらにとってはこの方がとっても楽でいい。周りに人がいると、なかなかこんなふうにはいかない。彼女も声に出してのおしゃべりは、得意ではない。

(ボクらって、なんでこんなことができるんだろうな?)
(どういうこと?)
(普通の人たちみたいに、こんな能力なくたっていいのに、なんでこんな能力があるんだろうね?)
(あんまり考えたことなかったわ。)
(そうか。)
(これが当たり前かと思っていたわ。)
(普通の人が持っていない能力を持っているのに?)
(多分、生まれながらにして、難聴とか、目が見えないとか、腕がなかったとか、そんなことの一種だと思っていたから。)
(なるほどな。)
(そういえば、ボクの感情爆発の能力を止めれるって言ってたけど?)
(うん、できるわよ。)
(それは、どういうこと?)
(人の考えが勝手に入ってくるんで、その人の感情の動きもわかるの。)
(そうなんだ。)
(でね、その感情を沈めてあげることもできるみたいなの。)
(ほんとに?)
(以前、ある人がやっていることにものすごく腹を立てている人がいたんだけど、その人、危害を加えそうなくらい、感情が高ぶっていたの。)
(それで?)
(だから、私、なんとかしなくっちゃと思って、その人の感情を抑えてあげたの。)
(すごいな。)
(多分、お馬さんをドウ、ドウと静める感じ?だと思うわ。)
(そっか。じゃ、ボクはお馬さんなんだな。)
(決して、嫌な意味じゃないわよ。)
(わかってるって。)

 ボクはこの子と一緒にいれば、自分を制御してもらえるから、他人を傷つけることはないってことだよな。まあ、最近はそんな激怒することもないけどね。でも、抑えが効かないことが、もしあったら、ちょっとした爆弾が爆発したみたいになってしまうだろうな。ボクには彼女の存在が重要なのかも知れないな。そう思うと、彼女との出会いはボクにとってラッキーだったというしかない。

 家に帰ると、ボクがトイレに行っている隙に、母親が彼女と話をしていた。
「ねぇねぇ、あなた達は黙っている時が多いけど、言葉にしないでしゃべっているんでしょ?」
「あ、はい、そうです。」
「やっぱりねぇ、そうだと思った。」
「でも、いいねぇ、そんなふうに話ができたら、まわりがたくさんいたって、関係ないでしょ。」
「はい。」
「ところで、いつから付き合ってるの?」
「いえ、まだそんな・・・」
「え~、そうなの?」
「はい。」

「おいおい、ボクのいない間にどんな話をしてるんだ?」
「あんたとのなれそめを聞いていたのよ。」
「残念でした、友人同士です。」
「ほんとにそうなの?」
「はい。」
「なぁ~んだ、つまんない。」
「困った親だぜ。」

(楽しいご家族ね。)
(うるさいだけだけどね。)

 まあ、そんなこんなで、また大学近くのアパートへ戻った。ゼミはやっぱり、にこやかな顔をしている教授だったが、内容はかなり厳しかった。夏休みもしっかりやっていかないとヤバい感じなのだ。ボクたちは何回か、予習のような、復習のような、とにかく、勉強していかないと無理と感じていたので、ふたりで示し合わせて、大学の図書館で勉強した。

 休みが終わって、授業が再開したが、やっぱり、あの厳しいゼミについてこれるのは、ボクたちだけだった。
「なんで、あんたたちだけ、教授の話がわかんの?」
「だって、夏休みに勉強してましたから。」
「マジ?」
「ありえないよ。」
「だって、何もしてないと絶対ついていけないと思ったからね。」
「あんたら、おかしいんじゃない?」
「逆に、何もしないなんて、ありえないでしょ?」

 いくら言ってもこの話は平行線だ。でも、夏休みにやっただけのことはあった。ボクらふたりだけ、前期は「優」をもらった。この教授のゼミで「優」は、ほとんどいないらしい。むずかしさのあまり、何人かはこのゼミをあきらめた。だから、このゼミはしっかり勉強しないとどうしようもないのだ。それが普通だよな。学生の本分は勉強なのだから。

(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?