鮮やかな色 #2

 月曜日のキャンパスは少し白けた感じだ。大学生という生き物が、週のはじめから頑張るはずがないのだから、それは当たり前なのだけど。学食に出向くと、友人がいたので隣に座る。

「よっす」
「おーーおつかれさん」
彼は熊田聡。同じ学部の友人だ。宮城県出身で、吹奏楽に傾倒している。パートはフルートだ。私は彼の演奏を二度三度見たことがあるが、彼はかなりの腕前なんじゃないかな。真面目で優しい性格の彼は、よく私の勉強を手伝ってくれる。いいやつだ。

「課題はやった??」
「もちろん。ほれ」

彼は何も言わずに私にノートを見せてくれる。字がきれいだ。そして見やすい。私は

「ノートきれいだなやっぱ。」
「あ~ありがとう。受験の時の唯一の成果だな」

熊田は今在籍している大学の三つ上くらいの大学を志望していた。だから、学歴に対してコンプレックスがあるのだ。満足のいく大学でなくても、彼は一生懸命授業を受けている。こういうやつが、社会に適合していくんだろうなと思った。

「この後カラオケでも行く?」
「あ~~~いいね。ちょうどストレス発散したかったところ」

おそらく彼女の件だろう。熊田は少し厄介な女性を侍らせている。いわゆるメンヘラチックな女性だ。私は別れればいいのにと思っているが、彼はそうしない。そうしないところが彼のいいところだし、彼は人生の四分の一程度を彼女に捧げているだけなので、ほかの人生の要素で安息を得ているのだ。

「じゃあ、佐藤も誘うか」
「いいね」

正直言って佐藤は好きでない。はやりのJ-POPしか歌わないし、話していて面白くない。表向きは普通の態度で接しているので、断る理由もなかった。嫌だけど。

カラオケ2時間。

私たちのカラオケは各々好きな曲を歌うだけだ。お互いが好きなお互いの知らない曲を歌いあう。割と楽しい。私は適当なオルタナティブロックを順繰り歌い、熊田は懐メロ、佐藤はJ-POP。佐藤のことがあまり好きではないので、J-POPはいつまでも好きになれそうにない。

一通り歌い終えた後、私たちは帰路についた。不運なことに、佐藤と帰り道が一緒だ。静寂は苦手なので適当に話す。

「どう?最近」
「まぁ、ぼちぼちって感じかな」
「佐藤は、なんかサークルやってるんだっけ」
「あーーダンスやってたけど、やめたねーーー」
「なんで?言いたくなかったら言わなくていいけど」
「なんかみんなダンス本気でやってないんだよね。」
「飲みサーみたいになってるのか」
「そうそう。一番詰まんない奴。セックスのはなしばっか」
「それは災難だな。」
「まぁ、一人でも踊れるしいいかなぁってかんじ」

このくらいの歩み寄りで私は心を開かない。何ならむかつく。ダンスなんてやってる奴は群れてなんぼだろ。踊る楽しさっつーのはみんなでやることにより倍増されるんじゃないの?一人で踊るって、それはもうスポーツじゃん。スポーツにも芸術にもどちらにも振り切ってないダンスは、友情をはぐくむ場所として最適じゃないか。なんでお前は芸術としてのダンスをやるんだ。大学生ならおとなしく、目先の楽しいに、目先のみんなの夢に向かって走ればいいだけだろ。

そのあとも適当な会話をして、適当に分かれた。

そしてルーチン。

私の部屋には、やっすいMIDIキーボードがある。作曲に使いデバイスなのだが、まだ使ったことはない。これからも使うことはないだろう。私は作曲する気があるというポーズをとるための置物だ。ギターもまた同じ。

キーボードをパソコンにつなぐ。最初にやったチュートリアルも半端に覚えていない。おぼつかない操作で、ドラムの音を打ち込む。ドラムの音くらいなら打ち込める。音階がないからだ。ある程度適当に打ち込んだ後。満足する。満足して、ピアノを触ってみる。音程がわからない。自分の頭の中にあるメロディを機械に落とし込むことができない。ここでいっつもあきらめる。しぶとくChatGPTに聞き続け、何とかメロディらしきものが完成
した。それで満足した。負けは回避したと、そう思い込んだ。


疲れたので今日はここまで。続きそうなら続く。




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