第5話 メーカー面接巡り 2日目
11月中旬、メーカー面接巡り2日目。この日もまず、メイクスタジオでメイクをしてもらい、面接に向かった。
AV女優になることが不安になった1社目
1社目。年季の入った小さなビルの2階だった。面接官はおそらく食べることが大好きそうな体の大きいおじさんだった。面接は動画を撮りながら行われた。
序盤はこれまでのように履歴書に沿って、「へー大学院卒の理系なんですね。インテリ理系ってエロいよねー」や「AV女優になったらどんなプレイしてみたいですか?」などの会話をした。
面接中盤になって、
「じゃあ、このカメラの前で、いやらしく舌を出してみてください」
と言われた。私は少し嫌悪感を覚えた。なんだろう。面接官の私的な感情が垣間見えたような気がして、”なんか、やだな”と思った。
面接終盤は写真撮影。顔写真や、全身の写真、服を脱いだ写真などを撮り、面接は終了した。
正直、1社目の面接は全くエンジンがかからなかった。昨日の疲れかとも思ったが、それを理由にはできない。”今日のこれからの面接、大丈夫だろうか”、と少し不安になった。そして面接中に感じたあの嫌悪感も、私を不安にさせた。
AV女優になれば、どんな人とも、どんなシュチュエーションでもセックスをすることになる。それなのに今「いやらしく舌を出してください」と言われたくらいで嫌悪感を感じていて、この先、AV女優なんてできるのだろうか。AV女優に挑戦しようとしていることは、やはり間違っていたのかな・・・。
「エイトマンは女優さんが嫌がることはさせません!」
2社目。外からは見えないが、中からは外の様子が見える魔法の車のメーカーだった。その車はもちろん私も知っている。そして、一度は乗ってみたいと思っていた憧れの車である!さっきまでの暗い気持ちは薄れ、気持ちに少しエンジンがかかってきた。
面接中、私は部屋の様子を観察した。部屋には発売されたDVDが天井から床までズラーっと陳列されていて、その中のあるシリーズが目にはいった。
「人生初の黒人解禁!・・・」
「黒人デカ○○串刺し、・・・」
「グラスより太い肉棒を・・・」
「肛門解禁!極太サンドイッチで・・・」
いわゆる『黒人もの』である。DVDパッケージを見て、私は恐怖心を抱いた。
”痛いの、やだな。それにお尻も、やだな”。
2社目の面接の後、私は山中さんに聞いた。
「黒い人とも共演しないといけなくなるんでしょうか。お尻とかもあるんでしょうか」
「女優さんが希望しないなら絶対ないです!女優さんがNGとするプレイは、絶対してはならないんですよ。それにエイトマンは、そのような偏った、というか、視聴者を絞るシリーズに、女優を出演させることはあまりないですね。幅広い視聴者に見てもらいたいので。女優が上品で綺麗であることを大切にしています」
私は少し安心した。しかし売れなくなってきたら、NGプレイも解禁しないといけないのではないか。それがビジネスの道理だろうし、この業界もそんな優しくはないと思う。私はまた少し暗い気分になってしまった。
バレエの話ができて元気になった3社目
3社目。面接官は初めての女性だった。その人も小さい頃からバレエをやっていたらしく、面接ではバレエの話でとても盛り上がった。
「かんなさんがバレエ教室開いたら絶対通いますよ。週8で通いますよ!でも仕事忙しくて行けないことも多いと思うので、パーソナルでレッスンしてもらえますか?」
「バレエしてて胸が大きくなるの嫌ですよね。ジャンプのたびに揺れるだろうし、男性との練習も気になりそう。なんでバレエってペチャパイばっかりなんでしょうね。胸の大きい人がもっといても、良いと思うんだけどな」
「かんなさんアンダーヘアない?そうですよね!バレエやってたらレオタードからのはみ出しとか気になって、脱毛しちゃいますよね!」
同性同士ならではのキャッキャした会話で面接は進み、そのまま写真撮影に移った。面接官は「私のバレエは絶対活かしたい」と言ってくれ、I(アイ)字バランスや、180°開脚をした写真を撮ってくれた。私の強みをしっかり把握してくれているようで、嬉しかった。最後に面接官はこう言った。
「かんなさんはバレエをしていて、理系の院卒なんでしょ。うちのメーカーはそういうの大好きなんですよね。いいなぁ、こんな女子に、朝起きて横にいてほしいな」
”この人、いつか私のバレエ教室をプロデュースしてくれないかな”
私はそう思い面接は終了した。
ついに本命の4社目『マドンナ』
4社目。人妻・熟女No.1メーカー『マドンナ』である。ついに面接巡りの集大成だ。
応接室に通され履歴書を書き、面接官の男性が2人やってきた。髪型センター分けで眼鏡をかけた『富山さん』と、キャップをかぶってつぶらな目をした『安村さん』だ。富山さんが基本的に進行してくれた。
「社内の男性の同僚とも、体の関係を持ったことがあるんですか?え、社内で○○人?!うーわ、なんかエッロいね。それだけでVになりそう」
「理系の大学院卒で、今もバレエをしているんですね。もう喋り方から知性を感じますもんね。そして圧倒的な品。それなのに!性に奔放だなんて・・・。もうズルすぎますね」
富山さんはとてもポップな感じで面接を進めてくれた。なので、私も調子に乗ることができたし、楽しんで会話することができた。しかし面接を受けながら、私は富山さんに得体の知れなさを感じていた。富山さん、目が笑っていないのよ。
面接の中盤、NGプレイの内容を確認してもらった。
「『お尻さん』はNGということですが、『お尻さん』を指で触るとか、『お尻さん』を舐められるとかは大丈夫ですか?」
「かんなさんが男性の『お尻さん』を触ったり、舐めたりすることはどうですか?」
富山さんはアナルのことを『お尻さん』というのだ。これが気になって気になって仕方がなかった。私は「この人少しサイコパスなんじゃないか?」と思った。
後々教えてもらったのだが、この富山さんは、マドンナのプロデューサーのトップの方で、恐ろしく仕事のできる、キレ者らしい。私はマドンナ専属女優になってから、富山さんと撮影現場で何度かお会いすることがあった。話によると、とてもすごい人なのに、実際会うととても腰が低く、何より女優のことの大事に思ってくれている人、ということが分かってきた。
今は富山さんに対して大きな信頼感と安心感を抱いている。富山さん、サイコパスとか思ってごめんね。
面接の最後に写真撮影をした。ここでもI(アイ)字バランスなどをして、私の軟体さを見てもらった。撮影をしてくれていた安村さんは、途中でこう言った。
「ちょっと舌を出してもらえますか?」
私が言われた通りに舌を出すと、安村さんは舌の写真をむちゃくちゃ撮りだしだ。
「いいですね!この舌はエロい!!」
舌がエロいと言われたのは初めてだった。だが、どうやら私は本当に舌が良いようで、今現在、撮影の現場でも「舌づかいがエロい」、「なんか舌がかっこいい」などと褒めてもらうことが多々ある。ちなみに安村さんから「舌を出してください」と言われても、どこかで感じたような嫌悪感は全く感じなかった。
写真撮影の最後に富山さんはこう言った。
「上品で知的で綺麗な体で、こんな女性に誘われたら最高よね」
富山さんはやや興奮しており、楽しそうだったので、私もここはふざけていいところかなと思い、
「やだぁ、もぉ♡」
と返した。
すると富山さんは、
「きゃーー!!」
と、ぴょんぴょん飛んで悶絶するふりをしてくれた。楽しい面接だった。
こうして2日間に及ぶメーカー面接巡りが終わった。帰りの新幹線、8社の面接を振り返りこう考えた。
”普段、人に言わないようなことたくさん喋って、服も脱いで。なんか自分の大部分を晒した2日間だったな。でも実際AV女優になったら、セックスを大衆に晒すことになるのよね。それってもう、全部やん・・・”。
面接の高揚感が冷めやらぬ一方で、そんな拭いきれない不安が、心に暗いモヤを作っていた。