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80才の童話作家 ④

もみじバアさん (第4話)

 ここは日本(にほん)のある山村(さんそん)
です。そこは、元気(げんき)なおバアさん
たちが、あるおもしろい活動(かつどう)を
始(はじ)めたという所(ところ)です。

 この村(むら)は、かなり前(まえ)から
若者(わかもの)が外(そと)へ出(で)て働
(はたら)きに出(で)たまま、二度(にど)と
戻(もど)らないということが起(お)きて
いました。だから、村に残(のこ)ったの
は、60才(ろくじゅっさい)以上(いじょう)
の老人(ろうじん)ばかりになってしまい
ました。

 しかも、人口(じんこう)が1,000人(せん
にん)と極端(きょくたん)に減(へ)ってきて、
これから先(さき)も増(ふ)える見込(みこ)み
がまったくなくなっていました。

 人(ひと)が減ると職場(しょくば)がなく
なり、働(はたら)きたくても仕事(しごと)
をする場所(ばしょ)がなくなります。毎月
(まいつき)決(き)まった収入(しゅうにゅう)
がなければ、そこでの生活(せいかつ)が
難(むずか)しくなるのは当然(とうぜん)の
ことです。

 なぜなら収入(しゅうにゅう)がなけれ
ば、税金(ぜいきん)を納(おさ)めることが
できず、新(あたら)しい建物(たてもの)や
道路(どうろ)建設(けんせつ)などの計画
(けいかく)も、実現(じつげん)できなく
なるからです。

 また、生活(せいかつ)環境(かんきょう)
はしだいに悪くなっていく状況(じょう
きょう)で、村の中に活気(かっき)がどん
どんなくなっていきました。これでは
村中(むらじゅう)の経済(けいざい)や生活
(せいかつ)も、成(な)り立(た)たなくなって
しまいます。まったく悪循環(あくじゅん
かん)の典型的(てんけいてき)なパターン
だといえます。

 このままでは、村の将来(しょうらい)
が不安(ふあん)な状態(じょうたい)から
抜(ぬ)け出(だ)せません。そこで、村長
(そんちょう)さんは村の人々(ひとびと)
が危機感(ききかん)をいだいて、なんと
かいい考(かんが)えを出そうと、知恵
(ちえ)をしぼることになりました。みん
なの話(はな)し合(あ)いは、もう3ヵ月
(さんかげつ)も続(つづ)けてきました
が、一向(いっこう)にいい考(かんが)え
が浮(う)かんできませんでした。

 きょうも役場(やくば)に集(あつ)まっ
て、話(はな)し合(あ)いを始(はじ)めま
した。みんなおにぎりをほおばり、
お茶(ちゃ)を飲(の)みながら、激(はげ)
しく議論(ぎろん)をしています。

 村長(そんちょう)さんは、
 「みんな知し)っての通(とお)り、
  まず村(むら)の人口(じんこう)を
  ふやすことが大切(たいせつ)なん
  だと思(おも)う」

 と伝(つた)えると、みんなの中(なか)
から、一人(ひとり)手(て)を上(あ)げる
ものがいました。そして、苦(くる)し
そうに口(くち)を開(ひら)き始(はじ)め
ました。

 かとジイ
 「そんなことは、はじめからわかっ
  ておる」

 たなジイ
 「だから、そのためにどうするかを
  考(かんが)えなくちゃならないん
  じゃよ」

 なかジイ
 「残(のこ)っている若(わか)いもん
  に呼(よ)びかけて、空家(あきや)
  を修繕(しゅうぜん)するんじゃ。
  それを買(か)い上げて欲(ほ)しい
  人に安(やす)く提(てい)供(きょう)
  して住(す)んでもらい、ここで働
  (はたら)いてもらうのはどうかい?」

 さとジイ
 「家(いえ)を買(か)うお金(かね)は
  どうするんじゃい。役場(やくば)
  には一銭(いっせん)もないぞ」

 いつもと同(おな)じことの繰(く)り返(
かえ)しで、10人(じゅうにん)ほどがいる
部屋(へや)の中(なか)は重苦(おもくる)
しい雰囲気(ふんいき)がただよっていま
した。すると、いままでほとんど発言
(はつげん)なしにじっと黙(だま)っていた
やまバアさんがボソッと一言(ひとこと)
いいました。

 やまバア
 「みんなやる気(き)があるのかね」

 たなジイ
 「なんだと、誰(だれ)だ、今いった
  のは!」

 やまバア
 「わたしじゃよ、なんか聞(き)いて
  いるとバカらしくなるわ」

 なかジイ
 「なに、もう一度(いちど)いって
  みな」

 やまバア
 「ああ、何度(なんど)でもいって
  やる。バカバカしいといったら、
  ありゃしないよ」

 かとジイ
 「バアさん、そんなこといって何
  (なに)かいい考(かんが)えがある
  のかい?」

 やまバア
 「ないね、もうこの老人(ろうじん)
  村(むら)もおしまいさ、みんな死
  (し)んじまえばいいのさ」

 さとジイ
 「そりひどいよ、バアさん、いつ
  だって厳(きび)しいんだからな。
  でも、バアさんのことだから何
  (なに)か考(かんが)えがあるんじゃ
  ない?」

 やまバア
 「ないことはないよ。この村(むら)
  にはもう何もないだなんて、おか
  しいじゃないの? 草(くさ)や花(
  はな)は季節(きせつ)ごとに咲(さ)
  くし、空気(くうき)はきれいだし、
  水(みず)も最高(さいこう)におい
  しいはずだよ」

 かとジイ
 「そんなことは当(あ)たり前(まえ
  )じゃ」

 やまバア
 「だから、それを最大限(さいだい
  げん)に利用(りよう)することを
  考(かんが)えたらどうなのかしら」

 かとジイ
 「利用(りよう)するったって、こんな
  自然(しぜん)環境(かんきょう)のある
  所(ところ)なんて、なにも珍(めずら)
  しくないじゃないか」

 やまバア
 「いや、あるわよ。モミジ、…」

 かとジイ
 「モミジ?もみじなんか、どこに
  だってあるじゃないか」

 やまバア
 「だからいいんだよ。もみじなん
  か 何(なに)も利用できないと
  みんな思(おも)っていないかい?」

 さとジイ
 「当(あ)たり前(まえ)じゃ。落葉
  (おちば)が何に使(つか)えるん
  じゃ?道(みち)に落(お)ちてしま
  えばゴミになるだけじゃないか」

 やまバア
 「そこがミソだわ、ゴミだと思(
  おも)うからだれも利用(りよう)
  しようと考(かんが)えないわけさ」

 さとジイ
 「ゴミじゃなければ、いったい何
  (なに)に使(つか)えるというんじゃ」

 やまバア
 「うーん、そうだね。たとえば、
  高級(こうきゅう)料理(りょうり)の
  皿(さら)の中(なか)に、真(ま)っ赤
  (か)なもみじを飾(かざ)り物(もの)と
  して添(そ)えるのはどうかしら?」

 なかジイ
 「添え物(もの)? 添え物か……。
  ウン、そりゃおもしろい。そん
  なこと考えたこともなかったよ」

 やまバア
 「葉(は)っぱは、あくまで葉っぱさ。
  だからそれをどのようにして、
  商売(しょうばい)に結(むす)びつけ
  るかというのが、新(あたら)しい
  アイデアってもんでしょう」

 たなジイ
 「なんだ、そんなことか。それじゃ
  とても商売にならんよ。もみじ
  なんてしょせんゴミだからな」

 村長さん
 「みなさん、やまバアさんの考
  (かんが)えはおもしろいと思(おも)
  いますが、まだ具体的(ぐたいてき)
  にどうするかは……、では、次回
  じかい)までまた何(なに)か考(かん
  が)えてきてください」

 ということで、きょうの集会(しゅうかい)
はおひらきになりました。

 やまバアの提案(ていあん)は、ほとんど
問題(もんだい)にされなかったが、この
「もみじ発言(はつげん)」はアッという間
(ま)に村中(むらじゅう)にひろがりました。
しばらくすると「もみじバアさん」という
あだ名までついてしまったのです。

 せっかく、みんなから賛成(さんせい)
してもらえるかと思ったのに、逆(ぎゃく)
に冷(ひや)ややかな目(め)でみられ、中
(なか)にはヒソヒソと陰口(かげぐち)を
たたく者(もの)も出(で)てくる始末(しまつ)
でした。

 (こまったもんじゃ、せっかく意見
  (いけん)を出したのに、だれも真剣
  (しんけん)に聞(き)いてくれんわい)

やまバアさんは心(こころ)の中(なか)で苦々
(にがにが)しくつぶやいていました。

 バアさんは長年(ながねん)連(つ)れ添(そ)っ
たジイさんを三年前(さんねんまえ)に亡(な)
くしてからは、村(むら)の一番(いちばん)奥
(おく)まった高台(たかだい)の家(いえ)に一人
暮(ひとりぐ)らしをしていました。だから、
家(うち)では誰(だれ)にも遠慮(えんりょ)
することなく自由(じゆう)にふるまってい
ました。ただ、65才(ろくじゅうごさい)で
一人(ひとり)ぼっちの生活(せいかつ)はさび
しいので、つがいのカナリアを飼(か)って
いました。

 ところで、やまバアさんは3日前(みっか
まえ)の集会(しゅうかい)で、思(おも)いつき
から発言(はつげん)したわけではありません
でした。この季節(きせつ)にカナリアを肩
(かた)に乗(の)せて、一緒(いっしょ)に家の
付近(ふきん)の道(みち)を散歩(さんぽ)する
のが好(す)きで、燃(も)えるような真(ま)っ
赤(か)なもみじの色(いろ)をみるのを楽(たの)
しみにしていました。

 もう秋(あき)も深(ふか)まり、道(みち)には
赤(あか)い絨毯(じゅうたん)のようにビッシリ
ともみじがしきつめられていました。あん
まりきれいなので、落(お)ちているもみじを
とても踏(ふ)みつける気(き)にはなりません
でした。散歩するときいつもキレイなもみじ
を袋(ふくろ)にいっぱいつめて、家に帰(かえ)
ると押(お)し葉(ば)にして楽(たの)しんでいま
した。

 けさもいつも通(どお)り散歩をしていると、
横(よこ)からサッと風(かぜ)が吹(ふ)き抜(ぬ)
け、もみじはカサカサとダンスを踊(おど)って
いるようでした。バアさんはなるべく踏(ふ)
みつけないように土(つち)の部分(ぶぶん)を
探(さが)しながら歩(ある)いていると、突然(
とつぜん)頭上(ずじょう)から話(はな)し声(
ごえ)が聞(き)こえてきました。

 もみじA
  「ねえ、ぼくらこんなにきれいな
   赤(あか)い色(いろ)で、いつも人間
   (にんげん)の目(め)を楽(たの)しませ
   ているんだよね」

 もみじB
  「でも、下(した)に落(お)ちてしまう
   と誰(だれ)も見(み)ててくれないじゃ
   ない?」

 もみじC
  「うん、それって、すごく悲(かな)
   しいわね」

 もみじD
  「でも、もっと悲しいのは、ゴミに
   なってはき捨(す)てられること
   だわ」

 もみじA
  「ええ?捨てられちゃうの?
   するとどうなっちゃうの?」

 もみじB
  「捨(す)てられるのはまだいいよ。
   焼却場(しょうきゃくじょう)で
   焼(や)かれちゃうんだよ」

 もみじC
  「焼かれるとどうなるの?」

 もみじB
  「焼かれて終(お)わりだね!」

 もみじA
  「ええ?じゃ、死(し)んじゃう
   の?そしたらぼくらバラバラ
   になるじゃない」

 もみじD
  「そう、みんなお別(わか)れする
   のよ」

 もみじA
  「なんでだよ、ぼくらこの一年
   (いちねん)ずっと家族(かぞく)
   だったじゃない。この木(き)の
   中(なか)から生(う)まれ、春(はる)
   に新芽(しんめ)に育(そだ)って夏
   には青々(あおあお)とした葉(は)っ
   ぱになって、秋(あき)にようやく
   赤(あか)いオーバーを身(み)につけ
   たというのに」

 もみじC
  「わたしたちの命(いのち)なんて、
   しょせんそんなもんよ」

 もみじA
  「いやだ、いやだ、せっかく仲
   (なか)よくやってきたのに、
   もうお別(わか)れなんて、……」

 そんな会話(かいわ)が聞(き)こえてきた
ので、バアさんは風(かぜ)のせいで人(ひと
)の会話(かいわ)のように聞こえたのだと
思(おも)っていました。しかし、そのおか
げで、もみじを見(み)る目(め)が少(すこ)
し変(か)わり、もっと注意(ちゅうい)深
(ぶか)く見つめることにしました。すると、
どうでしょう。もみじの様子(ようす)が
今(いま)までとはまったく違(ちが)って見
(み)えてきたのです。

 さて、枝(えだ)のもみじたちがふと地面
(じめん)を見ると、下(した)に落(お)ちた
みんなは泣(な)いていました。朝(あさ)
つゆのせいで光(ひか)っているだけでは
なく、それはみんなの涙(なみだ)だった
のです。路上(ろじょう)に散(ち)らばる
もみじたちは、みんな手(て)をつないで、
必死(ひっし)に離(はな)れないようにもが
いているようです。

 一方(いっぽう)、枝(えだ)のもみじたち
は、もうすぐ離(はな)ればれになるという
現実(げんじつ)みがなくて、みんなのん
びりしていたようです。地面(じめん)の
もみじたちの深刻(しんこく)な様子(よう
す)を見て、みんなとても恐(こわ)くなり
ました。そこで、子(こ)どもたちはこの
木(き)で一番(いちばん)偉(えら)いもみ
ジイさんに相談(そうだん)してみました。

 もみじA
  「ねえ、ぼくたちどうすればいい
   んですか?」

 もみジイ
 「 そうじゃねえ、いずれわかること
  じゃが、みんなに話(はな)しておいた
  ほうがいいかもしれんな」

 もみじB
  「ええ?どういうこと?」

 もみジイ
  「詳(くわ)しくはそのときに話
  (はな)すことにするから。さっ
  そくじゃが、あした集会(しゅう
  かい)を開(ひら)くのを、みんな
  に伝(つた)えておくれ」

 もみジイさんから頼(たの)まれて、子(こ)
どものもみじたちは、みんなに、

 「明日(あした)の午後(ごご)、 緊急
  (きんきゅう)の集会がある」

 という連絡(れんらく)を、口々(くちぐち)に
もみじの葉(は)っぱの先(さき)を震(ふる)わせ
て伝えました。一本(いっぽん)のもみじの木
には何万枚(なんまんまい)ものもみじたちが
住(す)んでいます。集会(しゅうかい)があると
伝(つた)えたところ、大変(たいへん)な騒
(さわ)ぎになりました。

 (おやおや、まあ大変なことになり
  そうだね。これじゃ、村(むら)と同
  (おな)じようにもみじの世界(せかい)
  も、いろいろ問題(もんだい)があると
  いうことだね)

 やまバアさんは、何(なん)とこの会話(かい
わ)がずっと聞(き)こえるようになっていたの
です。どうしてかわかないけれど、ここ数日
前(すうじつまえ)から急(きゅう)にもみじの
カサカサという音(おと)が声(こえ)として聞
(き)こえるようになったのです。

 不思議(ふしぎ)なこともあるとはじめは
気(き)にしなかったけれど、これはひよっと
したら、例(れい)の「もみじ発言(はつげん)」
と何(なに)か関係(かんけい)があるようでした。

 実(じつ)はそうなのです。やまバアさんは
まったく気がついていませんでしたが、
これは山(やま)の神様(かみさま)の仕業(しわ
ざ)だったのです。日(ひ)ごろ、やまバアさん
の真面目(まじめ)な生活(せいかつ)ぶりをご
覧(らん)になって、この村(むら)を救(すく)う
ことのできる者(もの)はこのバアさんしか
いないと判断(はんだん)されたのです。そこ
で、神様は自然界(しぜんかい)の生き物(いき
もの)の話(はなし)が聞こえるように、やま
バアさんが夜(よる)寝(ね)ている間(あいだ)
に、耳(みみ)に細工(さいく)をされたのです。

 緊急(きんきゅう)集会(しゅうかい)は午後
(ごご)一時(いちじ)から始(はじ)まることに
なったので、やまバアさんはもみジイから
の依頼(いらい)で、特別(とくべつ)に参加
(さんか)することが認(みと)められました。

 もみジイ
  「ええ、きょうみんなに集(あつ)
   まってもらったのは他(ほか)でも
   ない。緊急(きんきゅうの事態
   (じたい)が発生(はっせい)したから
   で、よーく聞(き)いてほしい」

 ペチャクチャと話(はな)していたもみじ
たちは、もみジイの言葉(ことば)で何事
(なにごと)かと不安(ふあん)になり、みんな
肩(かた)を寄(よ)せ合(あ)いました。

 もみジイ
 「ええ、みんなは、この木(き)で
   一年(いちねん)近(ちか)く家族
   (かぞく)として仲(なか)よく暮
    (く)らしてきたはずだ。じゃが、
   その時間(じかん)がまもなく終(
   お)わろうとしているのじゃ」

 もみじ一同(いちどう)が
 「ええ?どうして?………」

と言葉(ことば)がつづきませんでした。

 みんなあまり急(きゅう)な話(はなし)なの
で、まだ深刻(しんこく)な事態(じたい)が
理解(りかい)できないようでした。一瞬
(いっしゅん)シーンと静(しず)まり返(かえ)っ
ただけで、すぐサワサワ、ザワザワと手先
(てさき)を揺(ゆ)らして騒(さわ)ぎ立(た)て
ました。

  もみジイ
  「静かに、静かに、大事(だいじ)な
   ことだから、よく聞(き)いてもらい
   たい」

 もみジイは、いかにも苦(くる)しそうに言葉
(ことば)をかみしめながら、話(はな)しはじめた
内容(ないよう)は次(つぎ)のようなことでした。

 

   ***

 もみじの葉(は)は、成長(せいちょう)する
期間(きかん)が非常(ひじょう)に短(みじ)かく、
その一生(いっしょう)はわずか一年(いちねん)
しかない。

 しかし、この一年(いちねん)は人間(にん
げん)の世界(せかい)であれば、10年(じゅう
ねん)以上(いじょう)に相当(そうとう)すると
いえる。ただ人間の成長(せいちょう)には、
個人差(こじんさ)があるが、我々(われわれ)
の成長は限(かぎ)られていて、大人(おとな)
も子(こ)どももお互(たが)いに生存(せいぞん)
期間(きかん)の個人差(こじんさ)がほとんど
ない。

 ここにいるみんなが赤(あか)いコートを着
(き)ているのは、もみじとして最期(さいご)を
迎(むか)えているわけで、神様(かみさま)から
のプレゼントだと考(かんが)えればよかろう。

だから、今(いま)、ちょうど晴(は)れ着(ぎ)て、
地上(ちじょう)に向(む)かう準備(じゅんび)を
しなければならないのだ。しかし、いったん
地上(ちじょう)に落(お)ちると誰(だれ)も振(ふ)
り向かなくなり、ゴミとしてこの世(よ)から
消(き)えていく運命(うんめい)にあるのだ。
つまり、それはわれわれの最期(さいご)を
意味(いみ)していることも、知(し)っていな
ければならない。

 もみじたちにとっての大敵(たいてき)は、
強(つよ)い風(かぜ)に吹(ふ)かれたり雨(あめ)
にぬれることである。そういう日は足元(あし
もと)が枝(えだ)から離(はな)れないように
十分(じゅうぶん)注意(ちゅうい)してほしい。

何(なに)かの拍子(ひょうし)に足(あし)が離
(はな)れると、一瞬(いっしゅん)の内(うち)に
仲間(なかま)とお別(わか)れということに
なる。誰(だれ)が先(さき)に落(お)ち葉(ば)に
なるかは、誰(だれ)にもわからない。だから、
決(けっ)して油断(ゆだん)しないでほしい。

  ***

 と、いうものでした。

 この話を聞いてもみじたちは一斉(いっせい)
に泣(な)き出(だ)しました。ほとんど全員(ぜん
いん)が葉(は)をブルブルと震(ふる)わせたもの
だから、真(ま)っ赤(か)に染(そ)まった山(やま)
全体(ぜんたい)がまるで生(い)き物(もの)ように
揺(ゆ)れ動(うご)きました。もみじたちは自分
(じぶん)たちの運命(うんめい)をのろってお互
(たが)い強(つよ)く抱(だ)き合(あ)いました。

 そのとき、ある勇敢(ゆうかん)な子(こ)ども
のもみじAが手(て)をあげて、もみジイに向
(む)かって叫(さけ)びました。

 もみじA
 「もみジイ、質問(しつもん)があり
  ます!」

 もみジイ
  「ううん?なんじゃ」

 もみじA
  「みんな死(し)んじゃったら、この
   もみじの木(き)はどうなるんです
   か?」

 もみジイ
  「そうじゃな、みんな新(あたら)
   しく生(う)まれ変(か)わるのじゃ」

 もみじA
  「じゃ、ぼくたちがいつまでもいる
   と、邪魔(じゃま)になるの?」

 もみジイ
  「そうじゃな、いいところに気(き)
   がついたな。命(いのち)というの
   はずっと受(う)け継(つ)がれるもん
   じゃ。
   足元(あしもと)をよく見(み)てみな
   さい。小(ちい)さな芽(め)があるじゃ
   ろう。
   そこに新(あたら)しい命(いのち)が
   生まれるのじゃ」

 もみじA
  「そうか、ここにボクらのキョウダイ
   が生(う)まれて来(く)るんだ!」

 もみジイ
  「そうじゃ、その通(とお)りなのじゃ」

 みんなは自分(じぶん)たちがむだに死(し)
ぬのではないと知(し)って、少(すこ)し明
(あか)るい表情(ひょうじょう)になりました。

 もみジイ
 「みんな聞(き)いておくれ。きょうは
  特別(とくべつ)な客(きゃく)さんに来
  (き)ていただいている。やまバアさん
  じゃ、ぜひ話(はなし)を聞いてもらい
  たい」

 すると、みな一斉(いっせい)に木(き)の
下(した)にいるバアさんを見下(みお)ろし
ました。毎朝(まいあさ)、散歩(さんぽ)を
する姿(すがた)は見覚(みおぼ)えがあった
ので、いったいどうしたんだろうと思い
ました。

 もみジイ
  「実(じつ)は、やまバアさんにある
   考(かんが)えがあって、きょう
   ここへ来(き)てもらったが、とっ
   てもありがたい話(はなし)なん
   じゃ」

 やまバア
  「みなさん、こんにちは。よろしく
   おねがいします」

 やまバアさんは、さっそく自分(じぶん)
の考(かんが)えを、みんなに説明(せつめい)
することになりました。その内容(ないよう)
は次(つぎ)の通(とお)りでした。

 

  ***

 もみじは最後(さいご)に地面(じめん)に
落(お)ちると、土(つち)に返(かえ)って肥料
(ひりょう)となるか、ゴミとなって焼却
(しょうきゃく)されると考(かんが)える人
が多(おお)い。

 しかし、ゴミなんてとんでもないことで、
こんな美(うつく)しい葉(は)っぱは、いくら
でも世(よ)の役(やく)に立(た)つ方法(ほう
ほう)がある。それはその美(うつく)しい
姿(すがた)をそのまま保(たも)っていれば、
多(おお)くの人(ひと)に見(み)て喜(よろこ)
んでもらえるからだ。だから、地面(じめん)
に落(お)ちる前(まえ)に、みんなきれいに
全身(ぜんしん)を洗(あら)えば、いくら
でも人間(にんげん)の前(まえ)に出(で)て
役(やく)に立(た)つことができる。

 たとえば、きれいに消毒(しょうどく)し
たあと、料理(りょうり)の添(そ)え物(もの)
皿(ざら)となれば、日本中(にほんじゅう)の
料理店(りょうりてん)からきっと歓迎(かん
げい)されるはずだ。そうなれば、みなさん
はいままで通(どお)りの真(ま)っ赤(か)な
ドレスを着(き)て、再(ふたた)び人生(じん
せい)最高(さいこう)の時間(じかん)を飾(
かざ)ることができることになる。

 

   *** 

 これはもみじたちの予想外(よそうがい)
の考(かんが)えだったので、みんなは大変
(たいへん)驚(おどろ)いて葉(は)っぱの拍手
(はくしゅ)で周(まわ)りの空気(くうき)が浪
(なみ)のように、大(おお)きなうねりとなっ
て左右(さゆう)に揺(ゆ)れました。   

 すると、先程(さきほど)、意見(いけん)
を言(い)ったもみじ少年(しょうねん)がまた
大声(おおごえ)で叫(さけ)びました。

 もみじA
 「じゃ、ぼくらみんな死(し)なずに
  すむんだね!」

 やまバア
 「もちろんだよ。それどころか、
  人間(にんげん)の役(やく)に立(た)
  つことにもなるのよ。なにより、
  この村(むら)の人々にとってても
  助(たす)かりますよ」

 もみジイ
  「みんな、いま聞(き)いた通(とお)り
  じゃ、われわれのこれからの将来
  (しょうらい)は決(き)まったぞ。いま
  一度(いちど)、足元(あしもと)をしっ
  かり見て、その準備(じゅんび)をする
  のじゃ」

 もみじたちは「オー!」と大(おお)きな
勝(かち)どきのような歓声(かんせい)を上
(あ)げて、自分(じぶん)たちの不安(ふあん)
がなくなったことを喜(よろこ)び合(あ)い
ました。

 やまバアさんは、もみじたちの了解
(りょうかい)を得(え)て、勇気(ゆうき)百倍
(ひゃくばい)だった。しかし、このことは
あくまで、バアさんともみじたちとの間
(あいだ)だけの了解だったので、これから
急(いそ)いで村人(むらびと)たちを説得
(せっとく)するため、大仕事(おおしごと)
が残(のこ)っていました。

 ところで、ここのところ風(かぜ)の強
(つよ)い日(ひ)がつづいているので、少(
すこ)しの時間(じかん)もむだにできません。
そこで、村長(そんちょう)にかけあって
緊急(きんきゅう)集会(しゅうかい)を開
(ひら)いてもらうことになりました。

 きょうの集会(しゅうかい)の出席(しゅっ
せき)は前回(ぜんかい)の三倍(さんばい)ほど
で、三十人(さんじゅうにん)ぐらいになり
ました。村長さんが心配(しんぱい)して、
村人(むらびと)に声(こえ)をかけてくれた
おかげです。

 村長さん
 「ええ、それではさっそく始(はじ)
  めることにする。この前(まえ)の
  続(つづ)きで、やまバアさんに口火
  (くちび)を切(き)ってもらうかな」

 やまバア
 「ええー、それでは例(れい)のもみじの葉
(は)っぱのことですが、なんとかみんなで考
(かんが)え直(なお)してもらえんだろうか」

  「なんだ、まだもみじの葉っぱのことか」

 とみんなが気(き)のない反応(はんのう)を示(
しめ)しました。

 すると、やまバアさんは昨日(さくじつ)も、
みじたちと話(はな)し合(あ)った内容(ないよう)
を真剣(しんけん)に説明(せつめい)しました。
みんなは最初(さいしょ)とても信(しん)じられ
ないという顔(かお)で聞(き)いていました。

 バアさんの話(はなし)がひと通(とお)り終(お)
わると、さっそく何人(なんにん)かが質問(しつ
もん)をしました。例(れい)のいじわるジイさん
たちです。

 かとジイ
 「あんた、なにいいかげんなこといっ
  とるんじゃ、もみじと相談(そうだん)
  したって?」

 さとジイ
 「そうじゃ、もみじが話(はな)すわけ
  ないじゃないか」

 たなジイ
 「だいたい、ゴミが売(う)れるはずは
  ないと思(おも)うよ」

 他(た)の村人(むらびと)もほとんど前
(まえ)の集会(しゅうかい)と同(おな)じよう
な意見(いけん)でした。でも、今度(こんど)
はもみじが味方(みかた)についているので、
やまバアさんは何(なに)も恐(こわ)くあり
ませんでした。

 そこで、やまバアさんは小(ちい)さな箱
(はこ)に入(い)れてきた、葉(は)っぱのもみじ
少年(しょうねん)を大事(だいじ)そうに取(と)
り出(だ)してテーブルの上(うえ)に置(お)き
ました。すると、もみじ少年(しょうねん)は
ピョンと立(た)ち上(あ)がって、みんなに 
ていねいにお辞儀(じぎ)をしました。

 「みなさんこんにちは。葉(は)っぱの
  もみじ少年です」

 さあ、たまりません。テーブルを囲(かこ)み、
息(いき)を殺(ころ)してじっと見(み)ていた村人
(むらびと)たちは、口(くち)をきいたもみじ
少年を見て、腰(こし)を抜(ぬ)かさんばかりに
驚(おどろ)きました。

 「みなさん、驚かせてごめんなさい。
  でも、やまバアさんのおっしゃた
  ことは、すべて本当(ほんとう)の
  話(はなし)なのです。ですから、
  信(しん)じていただけないでしょ
  か」

 いままで、なにかと疑(うたが)っていた
人々(ひとびと)はもみじ少年の登場(とう
じょう)で、すべての状況(じょうきょう)が
理解(りかい)できたのです。

 それで、やっとバアさんの話(はなし)に
乗(の)ってくるようになりました。バアさん
は、さっそく昨晩(さくばん)寝(ね)ないで
考(かんが)えた具体的(ぐたいてき)な加工
(かこう)の工程(こうてい)を説明(せつめい)
することにしました。

 やまバア
 「もみじは、葉(は)っぱの大(おお)
  きさ、形(かたち)、色(いろ)などが
  様々(さまざま)だから、同(おな)じ
  サイズのものをそろえて、きちん
  と仕分(しわ)けしなければならない
  ね。そして、きれいに表面(ひょう
  めん)をみがいて、型(かた)くづれ
  しないように固形(こけい)液(えき)
  の中につけてから乾燥(かんそう)
  させることだと思う。最後(さいご)
  にそれを10枚(じゅうまい)ずつの束
  (たば)にしてパックづめにすれば、
  立派(りっぱ)な商品(しょうひん)に
  なるんじゃないかね」

 かとジイ
  「なーるほど、そういうことだった
   のか。」

 なかジイ
  「うーん、まいったな、そいつは気
   (き)がつかなかったわい」

 さとジイ
  「材料(ざいりょう)はもみじだから
   一銭(いっせん)もかからないという
   わけか」

 みんな口々(くちぐち)にやまバアさんの提案
(ていあん)に感心(かんしん)すると同時(どうじ)
に、少(すこ)しやる気(き)になって来ました。

 やまバア
  「問題(もんだい)は、落葉(おちば)に
   なってからでは遅(おそ)いわ。枯葉(
   かれは)になる前(まえ)に手(て)で
   つまなくちゃならない。もう一刻
   (いっこく)も待(ま)てないのよ」

 それから、みんなは村中(むらじゅう)の
もみじを集(あつ)めるにはどうするかを相談
(そうだん)し始(はじ)めました。はじめはもう
反対(はんたい)だった人(ひと)が、逆(ぎゃく)
にすっかり賛成(さんせい)にまわって積極的
(せっきょくてき)にもみじ摘(つ)みを考(かんが)
えはじめたのです。それから二時間(にじかん
)ほど、みんなはいろんな意見(いけん)を出(だ)
し合(あ)いました。

 村長(そんちょう)さんは話(はなし)をまとめる
タイミングを見計(みはか)らっていました。

 村長さん
 「みんな、静(しず)かにしておくれ。
  どうやらわしらにもやれそうな気
  (き)がして来(き)たと思う。ここは
  やまバアさんの顔を立てて、ひと
  つやってみようじゃないか」

 村長さんの一言(ひとこと)で、みんなの
考(かんが)えは賛成(さんせい)にまとまり、
さっそく次(つぎ)の日からもみじ摘(つ)みが
始(はじ)まりました。みんな脚立(きゃたつ)
に乗(の)ってもみじが痛(いた)まないように、
マスクと手袋(てぶくろ)をしました。背中
(せなか)には竹(たけ)篭(かご)を背負(せお)っ
て村のあらゆるところで収集(しゅうしゅう)
した結果(けっか)、数万枚(すうまんまい)の
もみじの葉(は)っぱが集(あつ)まりました。

 でも、実際(じっさい)に使(つか)えそうなの
は半分枚ぐらいしかありませんでした。集め
てみるとそれを商品化(しょうひんか)するの
は難(むずか)しいこともわかりました。もみじ
摘(つ)みはみんなでやったので、どんどん
仕事(しごと)がはかどりました。

 すべてがはじめての経験(けいけん)だった
ので、作業(さぎょう)は各家(かくいえ)任
(まか)せでなく、役場(やくば)に集まり、
その前(まえ)の広場(ひろば)と倉庫(そうこ)
を使(つか)って一斉(いっせい)にしました。

 もみじの水洗(みずあら)いをするグループ、
乾(かわ)かすグループ、形(かたち)をそろえる
グループ、消毒(しょうどく)するグループ、
パックづめにするグループなど、みんが手分
(てわ)けしてやりました。はじめは要領(よう
りょう)がわからなくて、作業中(さぎょう
ちゅう)にあちこち葉(は)っぱが飛(と)んでいき
ました。でも、ありったけのテントや天幕
(てんまく)などを持(も)ち出(だ)して、作業
(さぎょう)をしたかいがあり、立派(りっぱ)な
「もみじパック」ができあがりました。

 あとは、これを商品(しょうひん)として
どう売(う)り込(こ)むかということです。まず
役場(やくば)で写真(しゃしん)を撮(と)ったり、
資料(しりょう)を作(つく)ったりすることで
した。

 次(つぎ)にパソコンでホームページを立(た)
ち上(あ)げて、広(ひろ)く宣伝(せんでん)する
ことにしました。これには、時間(じかん)が
かかるので、みんなでセールスの営業係(えい
ぎょうがかり)を組織(そしき)して、近隣(きん
りん)に向(む)けて足(あし)で宣伝(せんでん)
活動(かつどう)をすることにしました。

 しかし手(て)っ取(と)り早(ばや)いのは、
町(まち)の料亭(りょうてい)やレストランに
直接(ちょくせつ)持(も)ち込(こ)むしか方法
(ほうほう)がありませんでした。そこで、
役場(やくば)の観光課(かんこうか)の担当者
(たんとうしゃ)が交代(こうたい)でセールス
に出(で)かけ、サンプルのパッケージを
無料(むりょう)で配(くば)り、試(し)作品
(さくひん)として使(つか)ってもらいました。

 はじめはほとんど反応(はんのう)がありま
せんでしたが、ホームページが出(で)てから
は、アクセスが増(ふ)えて始(はじ)め、ボツ
ボツと注(ちゅう)文(もん)が入(はい)って来
(く)るようになり、次第(しだい)に知(し)ら
れるようになりました。

 特(とく)にマスコミが取(と)り上(あ)げて
くれたのが大(おお)きく、やまバアさんは
「もみじバアさん」として報道(ほうどう)
され、一躍(いちやく)有(ゆう)名人(めいじん)
になりました。

 ところが、数年前(すうねんまえ)に風邪
(かぜ)をこじらせて肺炎(肺炎kなり)なり、帰
(かえ)らぬ人(ひと)となりました。

 村(むら)のみんなは、やまバアさんの思
(おも)い出(で)を記念(記念)して、真(ま)っ赤(
か)なもみじを形(かた)どったお墓(はか)を、
村(むら)役場(やくば)の入口(いりぐち)に作
(つく)ったときうことです。

もみじの木(き)の下(した)で、「もみじバア
さん」は、ときどきもみじたちと楽(たの)し
そうに語(かた)らっているそうです。

 今(いま)では、この村(むら)は「もみじ村」
として、地図(ちず)にも登)録(とうろく)され
ており、全国(ぜんこく)から多(おお)くの観光
客(かんこうきゃく)が訪(おと)れる場所(ばしょ)
になったというお話(はなし)です。

              おしまい

❤みなさん、「もみじ村の」のお話は、いか
がでしたか。もみじバアさんさんは大活躍
でしたが,いつかこの村に行って行ってみた
くなったでしょうか。

アナミズ (2024.02.04)

 

 

 

 

 

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