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「話しコトバ」の形式名詞 ⑦

形式名詞の「こと」や「もの」の

使い方と乱用 ⑦


(1) 形式名詞の使い方は?

 代名詞や形式名詞を頻繁に使いすぎる
と、まわりくどい文章になり、とても読み
ずらくなります。

 この「代名詞+形式代名詞」の典型的な
例は、「このようなこと」、「そのよう
こと」、「あのようなこと」などですが、
その例を下に紹介します。

<例文43>
 
ちょうど高校に入学したときも、 
 やっぱりこのようなことを考える
 機会がありました。なので、そん
 なとき、私が今ここにいるという
 ことはどういうことなのか。私に
 は家があり、家族などがいて、何
 不自由ない生活を送れている。
 そんなことを忘れないようにしよ
 うと、思っていました。

【訂正語句 】
 
・やっぱり→やはり
 ・なので→それで
 ・いるということばどいう
  ことなのか
  →いるというのはどういう
   意味なのか
 ・そのようなとき→当時
 ・家族など→「など」は不要
 ・送れている→送っている
 ・しようと、思っていました
   →しようと考えていました

  この文は、特に「話しコトバ」もさる
ことながら、たったこの数行の中に、
「このようなこと」、「どういうこと」、
「どのようなこと」、「そのようなこと」
のように、代名詞+形式名詞形式の表現
が何度も出てきます。まず、それを直し
ておく必要があります。

 ところで、学生の多くは「話しコトバ」
でなくて「書きコトバ」で書くように注意
すると、どういうわけか形式名詞の「こと」
や「わけ」を、むやみに使いたがる傾向が
あります。その理由を尋ねると、それらに
は気取った印象があり、格調があるとさえ
考えていることが分かりました。しかし、
これは全く根拠がないので、早めにアドバ
イスした方がよさそうです。

(訂正文43)
 ちょうど高校に入学したときも、
 やはりこんなことを考える機会が
 ありました。それで、当時私が今
 ここにいるのはどういう意味なの
 かを考えさせられました。私には
 家があり、家族もいて、何不自由
 のない生活を送っているので、
 それは忘れないようにしようと考
 えています。

  学生の文章は随筆調になっているので、
意味を理解しながら直さなければならず、
どうすればいいのか少し苦労しました。
それにしても、本人がこれを作文だと思い
込んでいるとすれば、大いに問題があり
ます。さて、次のような例はどうでしょう

<例文44>
 
そして先日の講義で先生から「過去
 と他人は変えられない。変えられる
 のは未来と自分だ」という言葉を聞
 きました。私ははっきり 目が覚めて
 こうなったこと
何て 情けなかった
 
のだろうと、感じました。後悔して
 いるひまなんてない。これからの
 ことを考えよう、そう決心しました。

【訂正語句】
 
・はっきり→明らかに、明確に
 ・目が覚めて→自覚して
 ・こうなったことが→こういう
 ・何て→何と
 ・情けない→認識不足
 ・ひまなんてない→余裕はない

 この文章は句読点が少なくて、一文が
冗長になっているので、読みにくい内容
となっています。しかも、ただ、自分の
いを綴っているだけなので、理解しにく
い文章です。

 学生の中には、どこで句読点を打てば
いiいのか分からないものがいて、特に
何行も句点がない上に、ダラダラと冗長
な文章を書いている者がいます。これは
作文の基本なので、きちんと押さえておく
必要があります。

 そこで、次のように句読点に注意して、
直してみました。

 (訂正文44)
 
 そして、先日の講義で先生から
 「過去と他人は変えられない。
  変えられるのは未来と自分だ」と
  いう言葉を聞きました。私は
  この言葉で自分の認識不足を明確
  に自覚しました。今、過去の自分
  を後悔しているときではないはず
  です。そのため、これからの将来
  を考えようと決心しました。

 これは、このように訂正をするしか方法
がありません。何しろ原文の構成がしっかり
していないため、どうしてもそうならざるを
得ません。こういう学生は、作文の書き方を
基本から学ぶ必要があると思います。

(2)形式名詞「もの」や「こと」の乱用
 
大学生の文章の中で、自分だけで納得して
いる自己満足型の内容がよく見られます。
これも日記の範疇を越えていないので、
もう少し読み手を意識して書いてほしいと
思います。次のような例はどうでしょうか。

 <例文45>
 
大学に入る以前に持っていた私の
 大学のイメージは、自分の時間を
 めいっぱいに楽しめる場所という
 ものでした。高校の3年間は、
 大学に入るためのものだと言われ
 た事もあります。さらに、その憧
 れは名前のある有名な大学ほど
 充実して生活をおくることのでき
 る理想郷だ、と考えながら受験生
 として過ごしてきました。

【訂正語句】
 
・めいっぱい→充分に、存分に
 ・場所というものでした
   →場所でした
 ・言われた事→言われたこと
 ・理想郷だ、と→理想郷だと

 この文で形式名詞の「もの」や「こと」
が幾つ使われているか、数えてみてくだ
さい。一般的に、日本人は「もの」や
「こと」の形式名詞を多用する傾向にあり
ます。主部の「その憧れ」と述部の「過
ごしてきました」で、主述関係に整合性
がありません。

  やはり、ここでも形式名詞症候群にか
っているせいでしょうか、しきりに使
うことによって文章のリズムが非常に悪
くなっていることが分かります。そこで、
次のように直してみました。

  ちなみにテレビやラジオのインタビュー
で、「~わけ」、「~ため」、「~もの」
などが文末にきて、そのまま話題が次々に
展開されていくことが非常に多いのも事実
です。

  これはこのような形式名詞は、聞き手に
判断を委ねる働きがあるので、話し手は好
んでこういう言い方をするからでしょう。

(訂正文45)
 大学入学前の私は、大学に対して
 自分の時間が充分に楽しめる場所だ
 というイメージを抱いていました。
 友達から高校の3年間は大学に入る 
 ためだと言われた影響もあります。
 なぜなら、それは有名大学ほど充実 
 した生活が送れる理想郷だと、受験
 生の憧れを持って過ごしてきたから
 です。

 ずっと受験勉強してきた学生にとって、
大学を理想郷と考える気持ちは理解でき
ますが、文章の表現が飛躍し過ぎていて
いるような気がします。

  形式名詞の使用は、なんとなく高尚な
文のような印象を受けますが、実はあまり
意味がわかっていないことが多くなるので、
できるだけ避けた方がいいかも知れません。
ところで、次のような例はどうでしょうか。

 <例文46>
 
まだ、入学して一ヶ月も経っていま
 せんが、私はこの大学に入学して
 よかった、と思っています。大学
 だって高校と同じ様に入ってからが、
 よっぽど大事なんだという事を思い
 出す事が出来たからです。大学に入る
 事よりも入ってから事に精を出す事
 の方がよっぽど大事な事だと、今切
 に思っています。


【訂正語句】
 
・よかった、と思っています
   →よかったと思います
 ・大学だって→大学といえども
 ・入ってからが→入学後
 ・よっぽど大事なんだという事
   →よほど大事なのだ
 ・思い出すこ事→考えると
 ・入ってから事に精を出す事
   →入学後に励む
 ・切に→切実に、真剣に

  この文を一読すると「事」が乱用されて
いますが、この形式名詞はすべて平仮名の
「こと」に直した方がいいでしょう。なぜ
なら、学校教育ではこのように書くことが
決められているからです。

それで、次のように直しました。

 

(訂正文46)
 まだ、大学に入学して一ヶ月も
 経っていませんが、私はこの大学
 に入学できて安堵しています。
 大学といえども、高校と同様に
 入学後の勉強は、大切だと考える
 ことができたからです。今は、
 大学に入学する自体よりも、入学
 後に努力を続ける方が、よほど
 重要だと真剣に考えています。

 上の例文を見る限り、この学生は会話を
するときも、この「事」を多用しているだ
ろうと推測することができます。

 他の箇所でも触れましたが、形式名詞の
「こと」や「もの」だけでなく、「「ため」
や「わけ」の乱用にも気をつけたいもので
す。ちなみに、ラジオのインタビューなど
を聞いていると、そのやりとりの中に、
「そういうわけでありまして…」や「その
わけは~」というように、耳障りなくらい
頻繁に出てきます。(3)形式名詞「~こと」
の乱用について
形式名詞の「こと」は、現在
、漢字では書かないようになっていますが、
これを知らない人が案外多いようです。文部
省では、現在、形式名詞の「こと」「もの」
「ため」「わけ」などは、すべて平仮名で
書くように指導しています。

 つまり、「こと」「もの」「ため」「わけ」
などは、「事」「物」「為」「訳」としない
ことになっているのです。これが、文中に頻繁
に出てくると煩わしくなるので、はじめに注意
しておくといいかしれません。さて、次のよう
な例はどうでしょうか。

<例文47>
 
もちろんそれは勉強に励むことだって
 欠かせません。やりた事、受けてみた
 い授業等は、全てこなしていく事が私
 の一番の目標です。高校時代も、やり
 たい事を全てやってきたから全く後悔
 がありません

 【訂正語句】
 
・だって→にも
 ・やりたい事→実行すること
 ・こなしていく事→やり遂げていくこと
 ・やってきたから→やってきたので、 

 これは、まとまりがなく、「やりたい事」や
「やってきた」のように同じような表現が繰
り返されているため、読みにくい文章となって
います。そこで、次のように書き直してみま
した。

(訂正文47)
 もちろんそれは勉強に励むという
 ことが欠かせません。成し遂げたい
 夢や、受けてみたい授業などは、
 全て実践してみるのが私の一番の
 信条です。高校時代も課題はすべて
 成し遂げてきたので、全く後悔した
 ことがありません。

 このように直してみましたが、少しは読み
やすくなったようですが、思ったように訂正
できません。みなさんはどのように訂正する
のでしょうか。さて、次の例はどうでしょう
か。

<例文48>
 私には昔から一つの夢があります。
 それは、旅行会社で働く事です。
 その為には語学だけでなく、コミュ
 ニケーションのとり方、きちんと
 した日本語の使い方、マナーなど
 大学生で学ばなければいけない事が
 山ほどあると思っていました。 

【訂正語句】
 ・働く事→働くこと  
 ・その為→そのため
 ・きちんとした→正しい 
 ・学ばなければいけない事
   →学ばなければならないこと
 ・山ほど→数え切れないほど、数

 自分の夢を実現したいのはわかります
が、その気持ちをストレートに書き綴って
いるだけのようです。文を書くときは、
もう少し客観的な考え方で書く必要があり
ます。そこで、次のように直してみました。

(訂正文48)
 私には昔から一つの夢があります。
 それは旅行会社で働くことです。
 そのためには学生として語学だけで
 なく、コミュニケーションのとり方、
 日本語の正しい使い方を学び、立派
 な社会人となれるように、習得すべき
 ことが数多くあると思っています。

 これもなかなか思ったように直せません
でした。やはり基本となる土台の文章が正
しく書けていることが必要となります。要
するに、これを書いた本人が「学生の内は
外国語だけでなく、深い知識やマナーなどを
しっかり習得したい」という意味が分かる
よう表現できればいいわけです。

❤どうでしょうか。「話し言コトバ」に
 どんなケースがあるのか、かなり理解
 してくださったのではないでしょうか。
          (to be continued)

アナミズ (2024.02.11)

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