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学会遠征編ショート版 第18話

淡路島へ

 結局、数十分は待合室でじっとすることにした。とはいっても、持ってきた本は昨日の時点で読了してしまっている。まさか、2冊目が本当に必要になるなんてと思いながら、その2冊目を少し読んだところで約束の時間がやってきた。今度は自分の名前が名簿に書いてある。券を買うときに支払いも済んでいるので、スーツケースをはらわたに詰めて指定された席へ乗り込んだ。通路側で、隣は寝ぼけたおじさん。ここが始発ではないので既に何人も乗っていたということだ。ひとまずは安心だ。これでやっと移動ができる。この高速バスは約80分後の舞子で降りる予定だ。つまり、一度本州に上陸するということである。淡路島では降りないようなので仕方がないだろう。そこから逆向きの各停バスに乗り換えて目的地に着くという作戦だ。少しばかり非合理に見えるが、最初から各停に乗ると3時間ぐらいかかりそうなので意外とこれが早いのである。こうして、一度淡路島を通過することにした。その道のりはさぞかしきれいだったことだろうが、眠っていたので記憶がない。それに通路側の席では写真に残すのも難しい。大人しく舞子で降ろしてもらった。ここまで忘れ物は何もしていない。優秀だ。高速バスの乗り換えのために、舞子駅は立体的な構造になっている。下にJRが走っており、上の階で高速バスの乗り降りができるのである。また反対方向に向かうので一度下に降り、反対方向の乗り場でバスを待った。停留所の番号は1番と2番だけなので、その二つを確認すれば間違えることはない。自分の他に外国人の親子もバスを待っていた。意外と淡路島も海外受けがいいのだろうか。こうして半ばヤケクソで淡路島へと向かうことになった。
 バスを降りたのは淡路夢舞台。ここは、高校の友達クゥちゃんが以前におすすめしてくれた場所である。きれいな場所だから是非見てみてほしいとのことだった。おりたすぐそばの建物に入ってみたら、びっくりするほどきれいなホテルで、とても出張のついでに観光する半端者が入っていいようなところではなかった。
「チェックインですか?」
「いえ、見てるだけです。」
というよくよく考えてみれば意味の分からないやり取りを済ませ、そのホテルの内装を見て回った。2Fの広いスペースで食事を提供しているようだが、お昼時の営業はなさそうだった。ピアノも置いてあり、とめどない清さが滲みだしていた。その他の料理店は、淡路島特産の牛やサクラマス、黒毛和牛などを使った豪華なコース料理の店であり、とても学生には手を出せるようなものではなかった。持たざる者は門前払いということで、悔しみを背負うこととなったが、何年後かの成長した自分にこの敵を討っていただきたいと託し、いったん外に出た。外に出て、何となく察しがついてしまった。国際会議場があったので、ビジネス利用する人を対象にしているのである。それなら、会社にツケてしまえるので高くても構わない。むしろ、高い方が積極的に消費してくれるかもしれない。ここでは観光地と見せかけて企業相手に商売しているのだろう。
 外に出て少し歩いてみよう。車道しかなく、本当に歩いていいのかわからないが、看板の指示通りに向かってみたら夢の舞台が広がっていた。一面に咲き誇る花々と幾何的にに整備された建築。歩きやすさと見やすさを兼ね備えた舞台であった。スーツケースをころころ転がしている自分にとってはすごくありがたい。たいていの観光客はそこのホテルにチェックインをしているだろうから荷物なんてないのだろうが、僕は通りすがりの一般人なので荷物が多い。階段を上るときは赤子のようにスーツケースを抱えた。建物の2階に上がって、施設のマップを見てみた。13時半を過ぎたので、そろそろお腹が空いてきたのでお手頃な飲食店を探すことにしたのだ。どうやら飲食店が2店舗入っている。一つはお高い飲食店、もう一つがカウンターで先に注文する方式の店となっていた。予算を考えて後者にしたが、やはりそこは並んでいた。少し気力が無かったのですぐ近くのお土産コーナーを見て回ることにした。サングラスが売っている。これからタイに行くなら、あった方がいいのだろうか。それなら帽子も必要だ。しかし、そんなものを買ったところで家で使わないものが増えてしまうだけである。先のことを考えれば必要だが、もっと先を考えると不要。どうすればいいのだろうか。悩んだ挙句、とりあえずご飯を食べることにした。オムライスが気になったのだ。列では少し待ったが、カウンターではまず「提供が遅くなる」と言われた。だいたい40分くらいだ。僕としては15時過ぎには出ていきたいので、あまりここでグダグダしたくない。かといって、何も食わずでは生きて行けそうにもない。ソフトクリームだけは提供が早いと言われたが、それでも食べたいものは食べたい。デミグラスソースのオムライスを注文し、4番の呼び鈴を受け取った。お土産店内やそとの席くらいの距離なら音は鳴るということだそうだが、どうせ40分も待つならと遠くへ足を伸ばした。
 目的地はできるだけ高いところ、この建物なら5階だ。とはいえ、エレベーターでは4階までしか登れなかったので、それ以上は外に出て上ることにした。緩やかな高低差を利用して、水の流れと花壇を作る。そこに舗装された会談が格子状に張り巡らされており、右へ上へ左へ上へと上っていく。頂上の5階に到達したときに感じた。見たかった景色はこれだ。クゥちゃんが教えてくれた景色と同じだったので、すかさず報告することにした。これには僕の赤ちゃん、しましまもご機嫌である。ここまでスーツケースを抱きかかえてきて来るようには設計されていないが、この見応えなら重労働にも及ばない。頂上直通のエレベーターがあったが、乗ろうと思ったらファミリー層が乗ろうとしていて狭くなりそうだったので、来た道を戻ることにした。乗ったところでどこに通じているのかわからないので、知っている道でいい。まだ40分も経っていないが、あまりここで長く過ごすと店員に怒られそうなので戻ることにした。少し時間が余ったのでソフトクリームをかじった。もうそんなに列はなかったのだ。席も空いていたのでそこで少しゆっくりしていたが、一向にベルが鳴らない。40分、いや50分経ってもだ。仕方がないので店員に聞いてみたら、「4番さんは何度も呼んだんですけど、来なかったんですよ。」と言われた。なんだ、もう出来上がっていたのか。ということですぐに用意してもらい、オムライスにありつくことができた。たぶん、淡路島産の玉ねぎなどを使っているのだろう。とろける甘味。デザートの後にメインなのは変かもしれないが、それでもおいしく食べることができた。普段、たまに自分でもオムライスを作ることはあるが、デミグラスソースまでは作らない。ケチャップブシャーで満足するからだ。こうして食べ終わったのは14時過ぎごろ。まだ時間はある。もう少しだけ奥の方へ行ってみることにした。

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