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学会遠征編ショート版 第22話

出国に向けて

 いろいろあったが無事関西空港に到着することができた。三ノ宮での迷いもあったので予定時刻の21時よりは遅れてしまったが、フライトは翌0:45なのでまだまだ3時間もある。焦る必要などないのだ。ちなみに、タイの学会には研究室から僕とCRAZYの2人が参加する。CRAZYはケニアからの留学生で、現在は博士(ドクター)だ。彼はまだ日本語が完璧ではなく、普段は僕が日常の生活において言語的な補助をしているので、仲はいい。僕は今回初めての海外渡航だったので英語に強い見方を備えておきたいと思い誘ったのだ。CRAZYは英語を母国語の一つとしているのでこの点は問題ない。この後半のたびにおける最強の助っ人だと信じて呼んだのだ。とはいえ、彼は論文執筆はおろか、学会へのエントリー手続きやホテル・飛行機の予約をギリギリまで放置していたため、それのサポートにはかなりてこずらされた。もちろん予約というのは直前であるほど取りにくく、かつ金額も跳ね上がるものだができる限り安いものがいいともめていた。支払いのためにクレジットカードが必要だが彼は持っていなかったので3月の頭に急いで作らせたりもした。ケニア人はビザも必要だということで東京まで行ってこいとも指示した。挙句の果てには、飛行機が関空から直接スワンナプームまで行くのではなく、一度羽田まで行って羽田から関西を経由してスワンナプームへ向かうという意味の分からない便を予約していたのだ。彼も名古屋に住んでいるので、中部国際からの便が無ければ、陸路で関空まで来た方が安くなると誰もが思うところだが、全然そんなことはないと予約のサイトも言っていたのはにわかに信じがたい出来事であった。学会出発前からCRAZYはCRAZYであったのだ。そんな彼は今日、新幹線で東京まで行き、羽田から関空まで飛んできたのである。22時に着陸するらしいので23時に集合することにした。とりあえず僕はチェックインや手荷物検査等を済ませておくことにした。空港ではひとまず荷物の確認をした。僕の親戚は昔バンコクに行ったときに預けていた荷物が手違いで違うところに飛ばされたと言っていたことを思い出し、念の為パソコンは機内に持ち込めるようリュックに移し替えた。国際便と書かれた案内板を辿れば間違いないだろうということで、自我もなくただ導かれるがままに歩いた。入り口っぽいところがあったので受付をしようとしたら、「ANAの便しか乗れない」と言われたので引き返した。これはハズレのようだ。気を取り直して正解ルートへ。手順はよくわからなかったが荷物検査までは国内便とそう変わらないだろうと考え、順番にことを進めた。今はまだ日本語が通じるので、わからないなら聞けばいい。そこまで難しい手続きはないので問題なく通過することができた。もちろんパスポートも持っている。これはなくしてはいけないということで、手荷物預かり証とともに袋に入れておいた。ここでいったんスーツケースとはお別れだ。再会するのは空の向こう側である。そのときは"しましま"が僕を呼んでくれることだろう。税関に気にすることなく出国審査へ。パスポートをかざして顔認証・指紋認証を済ませた。この手順はタイでも最後にやるだろうから忘れないでおきたい。この時点でまだ22:30ぐらいなのでまだまだ暇は長い。とはいえ空港は空港で広いので待合室のギリギリまでは行くつもりだ。道中、色鮮やかなワインショップやSUSHIと書かれた飲食店など、暇を忘れるには申し分のない施設が多数備わっていた。特に日本食の店が多く、日本に名残惜しい外国人観光客を最後までもてなし尽くす作戦が感じ取れてしまった。お腹は空いていないのでスルーだ。ここで買い物するつもりもない。少し進んで、ターミナルに通ずるシャトルバスに乗った。この乗り物は無人で感情のない乗り物に思えた。一緒に乗った老夫婦は何人なのだろうか。当たり前だが、空港に来てから外国人率が多くなっていた。こうして指定のターミナルまでは来ることができた。後はおとなしく搭乗案内を待つのみである。少ししてCRAZYから連絡がきた。今こちらへ向かっているとのことだった。関空から同じ便に乗るのでターミナルも同じはずだということで、シャトルバスを降りたところで待っていたら、合流することができた※1。一言目が"How are you?" のCRAZY。今日も満面の笑みをもっての登場だ。彼は僕や教授にかけた迷惑を自覚しているのだろうか。本当に羽田経由で来たらしい。スーツケースを引いていたので預けないのかと聞いたが、小さいから持ち込めるとのことだった。確かに僕のスーツケースより二回りくらい小さい。ここからは2人で飛行機を待った。ラウンジは利用しないので雑多な庶民椅子に腰かけて待つことにした。その間僕もCRAZYもスマホを充電するので、盗まれないように見張っておくことにした。一方CRAZYは自前のパソコンを開いていた。電源を入れた瞬間、ヴォーンとファンが激しく荒れ狂っている。だいぶ熱を持った古いパソコンのようだ。壊れたのか、どうすればいいんだと困っていたので再起動するよう指示したが、再起動してもけたたましかった。それでもどうしてもパソコンを開かなければいけない。まだタイでの発表資料が完成していないからだ。今の今まで彼は何をしていたのだろうか。徳島に行っていない分僕よりも時間はあったはずである。そんなこと言っても仕方がないので時間の許す限り黙々と作業することにしたらしい。僕は資料ができているので問題なしだ。あとは発表本番で機材トラブルが起きても対応できるようにしておくくらいだろうか。今は休む時間だということで、入念にストレッチした。寝ると充電中のスマホが心配なので、起きていて急速になるのはやはりストレッチである。向かい側に座っている男性はあまり気にしていなさそうだった。すると突然CRAZYがその男性に話しかける。もちろんHow are you? からだ。彼はアジア系の顔をしているが、どこの国出身なのだろうか。英語で雑談をすることになった。彼は大阪に住んでいて、出張でタイに行くのだと言う。これで3度目のタイ出張で、観光地についてよく知っていそうだったので彼におすすめの場所を聞くことにした。何を隠そう、僕もCRAZYも向こうでの旅行計画は一切立てていなかったのである。ワットプラケオとアイコンサイアムを教えてくれた。面白そうなので是非行ってみたいと思った。先ほど気にせずモブだと思って目の前で柔軟していたのが嘘だと思えるほどの重要人物だったのだ。ちなみに、その観光地を彼のスマホから見せてもらったが、英語で調べていたようだった。東南アジア系の人なのだろうか。自分たちは名古屋から来たと言ったが、それは大阪ではないところ?と聞き返してきたので純粋な日本育ちというわけでもなさそうだった。なんでもいい。ここで人一人と仲良くできたのはいいイベントだったのだろう。そんなこんなでついに飛行機に搭乗する時刻となった。3人とも席が違うのでここで分かれ、スマホを回収し、列に並んで飛行機へと入った。

~学会遠征編 前半の部 終幕~
次回以降は後半の部、激熱の土地タイでの冒険が繰り広げられます。ぜひ楽しみにしていてください。

※1 以降、CRAZYとの会話はすべて英語で行ったが、ここでは内容を日本語で載せておく。

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