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学会遠征編ショート版 第21話 パパ活の生態観察

移動中の出来事

 現在地明石から関西空港までは、在来線で行くとざっと見積もって2時間くらいかかるようである。行き方は何通りかあるようだが、その中でも安いものを使うことにした。僕の調べた中では1,800円で空港まで行けるようだったが、他の高いルートがあると言っても300円程度である。時間的な余裕に関しては気にすることはないので、落ち着いて乗ることにした。JRで三ノ宮まで行き、私鉄の阪神本線に乗り替えだ。とはいえ阪神本線が見当たらない。決め打ちでこれだと潜った改札は行ける駅が違うようだった。どうしたものかとよくよく案内を見ると神戸本線であることが判明した。仕方がないので改札の駅員さんに話してここから出て、本物の阪神本線へと向かった。
 その阪神本線での出来事だ。乗客率はそこそこで、長椅子の席に腰かけていた時のことだった。隣に座っている男女がかなり特徴的だったので少しの間観察しておくことにしたのだ。女性側は若い学生だが、男性側は若くは見えなかった。頑張って若作りした30台といったところだろうか。カップルというには少し年齢差があるように思えた。その会話の中身としては、主にその若い女性に対して男性側が問い詰めるといった形だった。その会話から、女性は
① 勉強のやる気はあまりないためそこそこの実力で行ける私立に合格、現在(3月時点)ではそこの大学生。
② 高校から大学へストレートで進学かつ留年は無し。→22歳
③ 4月からとある企業に勤める。
④ 本来は3月に卒業式のはずだが、単位がひとつ足りていないことが判明して卒業できなかった。そのため、今年の9月までは1単位取るために大学に通いながら会社にも出勤してよい(と会社側から許可された)。
⑤ 大学ではサークル等は入っていない。友達もあまりいない。
⑥ 一人暮らし。
という情報をつかめた。夜の時点でこの会話をしているということは、この2人は昼からではなく夜から、何なら会ったばかりという可能性が高い。1回目のご対面だろう。対して男性側はこのような踏み込んだ話に気遣いなくヅカヅカと踏み込み、さらには大学の卒業式に参加できなかったという点に対して「友達が少なくてよかったな。」と言う始末であった。確かに、その世代ならちょうどコロナで色々潰れたから仕方がないのだろうが、「あの時はテレビを観るくらいしか娯楽が無かった」だとか「今の若い子は…」だとか発言の節々からおじさん臭さが抜け切れていなかった。そのおじさんは自分の発現のターンでは必ずと言っていいほど腕を組んでおり、似合っていないワックスの髪形と仰々しいスーツに革靴と、その女性に対して無意識のうちから尊大な態度をとっているように見受けられた。女性は常に距離感を感じさせるような丁寧語で話していた。カバンを男性との間に置いていたのは無意識に男性から距離を取りたいと思っているからなのかもしれない。こちらが勝手に決めつけるのはよくないが、あれはおそらくパパ活であろう。女性のカバンも服装も、決して安そうには見えない。女性はマスクを外すことはなく、その上男性に対して微笑みかけるときも第三者目線からは不自然に思えた。交わることのない性欲と金銭欲、深まることのない愛情か友情を真横で観察する分には面白くて仕方がなかった。僕が横から槍を飛ばすのは野暮なので終始観察するだけではあったが、乗り換えの大阪難波では彼らも降りることになっていたようだった。本来、男性はもっと前で降りて海苔かっる必要があったらしいが、会話が盛り上がりすぎて(露骨な建て前)難波まで来てしまったらしいのだ。女性は若干戸惑いながら、電車を一緒に降りてしばらく歩いていた。やっぱり横槍を入れた方がよかったのだろうか。下半身の脳みそで動いているようにしか見えなかった。とはいえ、これが本当にパパ活なら、女性側はうまい立ち回り方を知っているのだろう。それを信じ彼らを見送らないことにした。
 しれっと書いたが、今は大阪難波駅にいる。初日に近鉄から降りた駅だ。本旅行二度目の登場である。南海線に乗り換えるのだが、これも初日にりんごと乗った線である。そういえば確かに和歌山まで行くときの電車で、関西空港を通過したなと思い出した。一度経験しているので臆することはない。南海線まで向かうことにした。同じ難波でも、その改札までは少し歩く必要があることを思い出した。直後に来る便には乗れそうにないが、到着時点で乗れそうな便には漕ぎつけることができた。ここ出発点なので、電車の出入り口が空きっぱなしで出発時刻まで停車している。よく目を凝らし、座れる場所を探してゆっくりした。それなりに人が乗っていたのだ。ようやく落ち着けたところで疲れがやってくる。結局あのパパ活コンビの行く末はどうなったのだろうか。この電車に乗ったばかりのときは気になっていたが、次々と駅に停まる度にどうでもよくなっていった。この後は人生初の国際便に乗る。JALで予約したので快適さには不安はないが、エコノミークラスなので窮屈ではあるのだろう。果たして、機内では休めるのだろうか。その点に関しては不安だったのでここでは休んでおくことにした。荷物を取られないように抱えながら目を瞑る。隣にはギャルが座っているが、こちらに危害を加えてくるようなタイプではないだろう。各駅停車なので頻繁に停まったり進んだりしているが、今の睡魔には差し支えるものではなかった。こうして貝塚を過ぎたあたりからどんどん人が少なくなっていった。気が付けばあのギャルもいなくなっていた。最後の2駅くらいは長椅子を大きく使って横になることもできただろうが、座って落ち着く程度にしておいた。

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