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学会遠征編ショート版 第6話 学会発表

発表時間

こうして発表の時間がやってきた。前のセッションが終わったタイミングで人の入れ替わりに乗じ、スムーズに席を取ることができた。後ろから見ていちばん左の窓際、前から3番目。まるで高校のときの新年度の僕の席のようだった※。1人目の発表が始まろうとしたその時、とめどない違和感があふれかえる。もしかして…慌ててプログラム表を確認してみた。そう、部屋を一つ間違えたのだ。急いで静かに部屋を退き、隣の部屋へ移動した。発表者は出席確認のため入り口で一筆書く必要があるのだが、その紙をまさに今回収されるところだったので、慌てて存在をアピールした。これで一大事にはならなかっただろう。もはや席がないとかはどうでもいい。入り口付近で立っているしかできなかったので、まるで気分は参観日の保護者のような感じではあったが、無駄にパソコン作業せずに済むので心の負担にはならないのだろう。僕の発表の番は3人目。つくづく1番でなくて救われたと思った。その発表の様子はというと、1人目は声が小さく、何を言っているのか聞き取りづらかった。内容としては自分の研究に近いだけにもったいない。質疑応答もあまり盛り上がらなかったので、予定より1分早く終わっていた。次は2人目である。この人も声が小さくてわかりにくかったのだが、ふと自分の手前に座っている人のパソコンが目に入った時、そのパソコンには自分が書いた論文が映し出されていた。やめてくれ、恥ずかしいじゃないか。そう心が叫びつつも、いまはそんなことを気にしている場合ではない。この2人目は持ち時間があふれそうになったので、途中で座長が質問を打ち切った。こうして僕の発表時間になったわけである。教室内は混みあっているので、一度外へ出た方が前へ出やすいのだが、一瞬発表者がいない時間を作ると混乱を招くかと思ったので、狭い通路をかぎ分けて前へ出た。USBからデータを移して、いざ発表の時間である。パソコンの画面が見にくかった時のために原稿を紙にしてはいたものの、以外にも画面が見やすかったのでその必要はなかった。会場には僕の研究に詳しいHKDも来ていた。こちらは何かあれば味方になってくれそうであるが、助け舟を出してしまうと審査の対処として大きな原点を食らいそうなので、極力見守るだけとなるのだろう。そう考える暇もなく、自分の喉はオート機能で運転していた。前の2人よりかは大きく聞き取りやすいボリュームで話していることだと思う。時間もほぼぴったりの8分で発表は終わり、そのまま質疑応答となった。こちらは3分間だが、質問の挙手はそれなりにあった。4つほど質問を投げかけられたが、脳がオートモードで動いてくれているので、考える時間もなく勝手に答えてくれる。すべてこたえられる質問だったので、感触としては非常に良かった。変な罵倒や鋭い意見もなかったので、いやな気分にもならなかった。時間もちょうどで終われたので、この発表は大成功だ。決してちょろくはなかったが、この出来なら自信をつけても良さそうだ。あとはほかの人の発表を聞くだけ。とりあえず発表が無事終わったことを彼女に報告しようとスマホをカバンから取り出そうとしたとき、不審に思った。あれれ、どこにもないぞ。すべてのチャックを確認し、細かいポケットにも手を突っ込んでみたが何もない。入り口でわちゃわ茶していても邪魔なのでいったん外に出て確認してみたが、やはりどこにもない。もしかしてスマホをなくしてしまったのか。最後に確認した場所といえば、1階の座ったところだろうか。急いで降りたが、そこにはスマホがない。緊急事態だと思い、2階の本部に行き、問い合わせた。今のところそのような落し物の報告はないらしい。見つかった時の連絡のためにメールアドレスを教えてくれと言われたが、それを確認する媒体がないのである。午後もここに拘束されるのだろうか。とりあえず、1階にいる時点ではまだ手元にあったことを覚えているので、そこから記憶を辿ることにした。上ったのはエレベーターだから会談で落としたことはなくて…となれば5階のどこかか? わかった。あの待合室だ。既にほかのだれかが使っているだろうから気まずいかもしれないが、このまま大事なものが手元にない方が気持ち悪いので、思い切ってそこに向かってみた。案外すぐに見つかってしまった。ここが日本でよかった。海外なら一発ゲームオーバーともなりかねないので、次からは気を付けようと反省したのと同時に、つい数分前まで青ざめた表情で本部に問い合わせた自分が恥にも思えてしまった。必死に探した感を出すために少し時間をおいていくのもありだが、それでは多くの人を捜索隊として借り出してしまうことになるかもしれないので、すぐに見つかったことは報告した。あまりにも早い発見だったので、顔を忘れられるということはなく、よかったぁ、ほっとしてもらえたので、一件落着である。お騒がせして申し訳ない。これで結構時間を使ってしまったが、まだ自分のセッションの時間は終わってないので、会場の教室へと戻った。残り2人くらいだったが、後ろの席が空いていたので座ることができた。緊張することなく聞いても難しい内容だった。学生だけでなく、企業からも参加しているので、この発表者はおそらく某有名企業の人なのだろう。こうして自分のセッションは終わった。無事というにはアクシデントもいくつかあったが、発表自体はうまくいったので悪くはないだろう。教室を出て、モドキたちと合流する。その前に仲介人と再会した。彼はJAが座長を務める教室で聴講していたようだった。ここには彼の知り合いが多いらしい。数日前の発表で、ボコボコにしてきた人がいたので挨拶してきたそうだ。なかなかの度胸の持ち主だ。少しして、モドキもサンタさんも合流した。これで一区切りだ。これから、サンタさんはまだ発表が残っているので午後も参加するのだが、発表の終わったモドキと16日発表の仲介人は、後輩と一緒に美味しい海鮮を食べに行くとのことだった。そういえば、今の旅行計画では、海鮮を食べられないまま終わってしまいそうだ。ということなので、車に座れる空間があればご一緒したいということでついていくことにした。ちなみにサンタさんはガストで小休憩、黒は発表が16日なので一日1人でスーパー銭湯巡りに出かけているらしい。

※ 出席番号が前の方だったので、だいたいこれくらいの席になることが多かった。

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