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学会遠征編ショート版 第7話 海鮮と渦

抜け出し


ガストに吸い込まれるサンタさんを見て、仲介人は逆に羨ましそうにしていた。ここまでの長旅でご馳走を食べ続けていると、逆に普段食べている慣れ親しんだものが恋しくなるという。確かに、モドキも仲介人もこの時点から1週間くらい前に出発し、未だ旅路という状態である。超絶級の美女と結婚できた人が二流以下の人と不倫してしまったというスキャンダルはたまにあるようだが、これと似たようなものだろう。こうして後輩の車と合流、店へと向かった。その景色は、地元の岐阜と同じく、街中は車道沿いに店が並ぶものの、少し外れたら自然が豊かという感じであった。違うのは、海があるかないかである。こうして海鮮料理屋のあらしさんに入店することになった。この時点で昼の1時半ごろだが、まだまだお客さんの列は多い。先に番号だけ取ったら、車の中で待っていてよいとのことだった。さすが車社会だ。時間が来たので、店員が車の番号をもとに探し、呼びに来てくれた。店内に入ると、これが磯の香りというのだろうか。海鮮屋特有の店内のにおいであった。そして出迎えるのは、単品のショーケースだ。サバの塩焼きや数々の唐揚げたちが、自由にとっていい形で置かれている。お皿で金額を設定しているのだろうか。見るだけでも面白そうだった。そしてお座敷の席に案内され、メニューを見ることになった。メニュー表の冊子の他には、壁にもいろいろ張り出されており、特に旬の魚についてはカードで説明もしてくれた。どれも字面だけでおいしそうである。いろいろ悩んだが、やはり複数種類食べたいものだ。金額も、平均してどれも高いが、昨日の反省も込めてそこそこの物にしておきたい。そういうわけで、僕は刺身定食を選んだ。少しして提供されたものは、やはり豪華であった。はまちといかと鳴門鯛。申し分ないメンバーだ。そしてそれ以上に驚いたのがみそ汁の大きさだった。みそ汁の熱狂的なファンである僕からしたら感極まりない喜びであった。どうやらわかめも特産品らしい。そして、てんぷらも気になっていたので、単品を分けた。エビはなんと丸一匹が揚げられていた。見た目の迫力はばっちりだ。久しぶりの本格的な海鮮。ぷりぷりの刺身とサックサクのてんぷら。どれもおいしく、一口一口が幸福であった。それにしても、モドキと仲介人はなぜここでビールを飲むのか。後輩は運転するので飲めないが、僕は何かあった時の運転手交代に備え、飲まないということにしておいた。実際の理由としては、今日の夕方に徳島に来た研究室メンバー一同で飲み会を開くのだが、教授二人の仲を取り持つことが主な目的なので、決して気楽な会ではないからだ。これは仲介人とモドキが発案したのだが、この2人がもうどうでもいいやという雰囲気になってしまっている。食べ終わったのが2時半ごろで、その解が6時から。お腹が空くかも怪しいのでそう思うのも仕方がないのだろう。退店の際は、アルバイト募集に目が行った。こんなにおいしいものが賄いとしてもらえるなんて最高ではないか。残念ながら愛知からの交通費は出せないらしい。後輩の分は3人で割って払ったので、若干財布が圧迫した。この後は鳴門公園まで車を走らせ、渦潮を観に行くことにした。ちょうど干潮から1時間ほど経つ時間で、見頃だそうだ。駐車場もぎゅうぎゅうだった。外に出ただけでも絶景だが、実際に徒歩で渦の真上まで見に行けるらしい。4人とも入場し、橋の上を歩いてみた。学会から直接来たのでスーツなのだが、暖かいのでジャケットはいらなかった。海なんて見るだけでも興奮するのに、今日は人一倍渦を巻いてくれたようだ。その近くを遊覧船が走っているようだったが、さすがにそれには乗れなかった。それでも、自然の景色を見るというのは心が癒される。本当は徳島の学会に出すのは迷っていて、直前になって慌てて提出したのだが、この景色はその忙しさをねぎらってくれるようだった。人生初の四国上陸。遠くまで来てしまった感覚が今日になってこみあげてきた。時々足元がガラス張りになっていて、空中浮遊間を味わえる。しかし、やはり急にそのガラスは表れるので落とし穴のようにも思えてしまう。実際、小さい子が足がすくんで泣いていたので、その恐怖は大きなものといえるだろう。もしこの瞬間橋が崩れたら助からないなぁ。それくらい高いところに架かっているので、むしろ一周回って恐怖感はなかった。飛行機みたいなものだ。技術力を信頼すれば大丈夫なはずである。橋の中には双眼鏡も設置されていて、船の走った後を頼りに渦を差がいてみる。本当に渦巻いているようだった。そして、無効に見える島はもしかして淡路島なのか?あの島も意外といったことがないので気になるところではある。

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