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本には交流がある  戯作1-2 風船から始まった。

孫の持った風船が手を離れて空高く舞い上がっていった時に、老人の長い人生からずっと忘れられていた記憶が突然、蘇ったように思い出された。老人は思い出すままに物語りを記しはじめた。どうしても書いておきたかった。なぜならそれは、懐かしいそして豊かな時間に満ちていたからだ。

『コアの物語』ー戻る、この言葉の不思議さ、何に戻るのか?

それは、めざめました。その球体に守られたものは、ゆっくりとゆっくりと目覚めていきました。棚田の丘のいっとう上にある桜の木の蕾のなかで目覚めました。その(いのち)は桜の木で目覚める前は、雲の上の原っぱで遊んでいた。雲の上には風船がいっぱいです。光のエネルギーで膨らんでいるようです。彩雲のようにあざやかに輝いていました。
そのとき雲の一カ所に穴が開きました。そこからひとつの風船が落下していきます。綿毛のように軽さを楽しみながら落下していく。風船は棚田の頂にある一本の桜の木にとまりました。風船はしぼんで蕾のかたちになっていった。その蕾には(いのち)が眠っていたが、ゆっくりとゆっくりと自然にめざめていきました。
ところで雲の上にだけ風船があるのではなく、川のなかを風船が流れている。海を潮流にのって風船が回遊している。おおぜいの(いのち)のきょうだいが、空でも水のなかでも息づいている。
蕾はめざめて色を変え、小さな花をつけた。桜の花が咲き出すと田植えの準備がはじまるので棚田で働く人たちを日なが見ていたり、夕暮れまえの西の空にかかる谷川のようなかたちの雲が赤く染まるのを見て、懐かしさを感じながら咲いていました。少しの雨には負けません。蕾の仲間があるうちは散りません。
けれども、舞うときも知っています。花嵐の風に乗って、花弁は思い切って飛び、花吹雪となって宙に舞いました。
その花弁の一つ、コアのことを書きます。





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