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【短編小説】お前ってやつは

「おーい!梓(あずさ)~、今からラクダに乗りに行かない?」「はぁ???ラクダ?あんたここがどこだかわかってんの?」「うん!東京!」「東京のどこにラクダがいるってのよ」「うん、だから今からエジプトに行くの!!」「エジプト!?鳥取砂丘とかじゃなくて?」「じゃなくて!」今日も今日とて分からない。本当に分からない。この訳の分からないことを言っているのは幼馴染の棗(なつめ)。小さいころから家も隣、小、中、高、大学まで一緒だが、いまだに何を考えているのか分からない。まあ、それが彼女のいいところではあるのだが。「んで、エジプトにどうやって行くのよ。お金だってないわよ」「そもそも、なんで急にラクダに乗りたいのよ」「んー、気分!お金は任せて!!この前宝くじが当たったの、2等」「はあああ??」なんでこんな自由奔放に生きてる棗に宝くじが当たるのよ。運までいいとか、もしかして棗って何気にすごいヤツだったりする?―数時間後、「え、本気で今日行くんだ、エジプト」気づいたら私はエジプト行きの飛行機の中だった。「うん!楽しみだね~ラクダ!」「いや、まあ楽しみではあるけど…」「私、エジプトの言葉喋れないよ?棗話せる?」「なーにいってんの梓!そんなの、喋れないに決まってるじゃん」すっごい満面の笑みを浮かべ楽しそうに笑っている。え、バカなの?こいつ、ばかなの?それじゃあ、どうやってラクダに乗せてもらうのさ。英語だって通じるかもわからないのに。これじゃあラクダにも乗れず、ホテルにも泊まれず、知らない土地で野宿…??オワッタ。私の人生、幼馴染のせいでおわったわ。そう絶望している横で棗は「大丈夫!!私たちにはボディーランゲージと言うものがあるから!」とかなんとかいってガッツポーズをしている。うん、不安しかない。どこからくるの?その自信は!!…棗よ、世界はそんなに甘くないぞ。「そんなこんなで、到着しちまったよ、エジプト」「やったーー!梓、行くぞ。いざ、ラクダへ乗りに!!」「はいはい、もうどうにでもなれ…」既に疲れ切ってしまった私を引っ張りながら「ラクダに乗れるとこありますかー?」と日本語でゴリおす棗、マジでなんなんだよ、コイツ。ボディーランゲージはどこいったよ、ボディーランゲージは。「そんな、日本語で通じるわけないでしょ。今スマホで翻訳アプリ開くから待っ「あっちにあるって!」…え??」「だから、あっちでラクダに乗れるって、このおじちゃんが教えてくれたよ」「いやいや、なんで通じた?そして、なんであんたもこのおっちゃんの言ったこと理解できてんのよ」「勘!!」野生の勘ってやつなのか?いや、言語だぞ?うん、もう考えるのやめよう。時間の無駄だ。この自由奔放娘の考えることは何十年一緒にいてもわかんないんだから、今更考えたところでわかるわけないや。「ほんで、本当にいたし、ラクダ」「やっとラクダに乗れるね!」「そうだね。私はもう疲れたよ、主に頭が。」「これからが楽しいところだよ!!」「まあ、そうだね。ラクダに乗るなんてことはめったにないし、楽しむか」「そうそう」「ふぉーー!!楽しい!!」「思ってたより高いな」砂漠の中をゆったりと進むラクダの乗り心地は案外悪くなかった。―数十分後「梓~」「何~?」「もう満足したから帰ろ~」「そうだね、どっかホテル予約できたの?」「いや、日本に!」「は?!泊まらないの?エジプトにまで来て、現地のおいしいごはんとかも食べず?え?」「え、うん。だって、ラクダに乗ることが目的だったからね!」こうして私と棗の突飛な日常、エジプト旅行(日帰り)が終わったのである。

作者: あきふゆ

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