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神様の椅子にまったり30分座った話

仕事休みの水曜日
洗濯物を干しながら、
冬晴れの空を見ていたら
どこかに出かけたくなった。

身支度をして家を出る。
行き先は神戸異人館のひとつ
山手八番館
その中にある「サタンの椅子」。
椅子に座って願い事をすれば叶えてくれる。

10年以上前にテレビの人気番組で取り上げられ、平日でも行列のできる観光スポットになった場所だ。

ずっと行ってみたいと思いながら、
行けずじまいだった。
その気になれば電車を乗り継ぎ、2時間ほどの場所だというのに。

異人館通りを目指し、北野坂を上る。
神戸は30年ほど前に働いて暮らしていた街だ。
生まれ故郷ではないけれど、いつ来てもふんわりと包んでくれるような風が吹いている。
第二のふるさと。
心地よく風がほほを吹き抜けていく。

とか、言うてる場合ではない。

いや、コレ思いのほか坂キツイやん。
真冬とは思えぬ、サンサンと降り注ぐ太陽に汗が噴き出る。
1月やし、寒い思うてヒートテックにウルトラライトダウン。
ガッツリユニクロ装備やで。
めっちゃ暑いんですけど!!

 お目当ての山手八番館は、坂を上り、さらに坂を上り、そんでもってまだまだ上った高台にあった。

やっと到着


「お、大人1枚・・」
汗だくだく息絶え絶えでチケット売りのお姉さんに告げると
「ありがとうございます。550円です」ニッコリ笑顔で渡してくれた。



ふゥ~やっと着いた・・。遠すぎるでコレ。
50超えてのこの坂、シャレんならんしマジで!
心臓止まるがな。


山手八番館の入り口


こんなシンドいのに、こっからまた並ばなアカンのか・・と思いつつ
緊張して中に入ると・・。

あら?

誰もおらんやん。
拍子抜けして、しばらくたたずむ。

入ってすぐ右側に女性用の椅子。

女性用

左奥には男性用の椅子。
パッと見、椅子の見分けはつかないが
後ろにかかったカーテンの色が違う。
女性は赤で、男性は青。


男性用

間違って座ると、とんでもない事が起きるらしいので慎重に確認。
右側に一礼して、恐る恐る腰かけた。

おっ、思ったよりも固めの座り心地。
数えきれない人々が座ったとは思えない程のしっかりとしたクッションが、尻を包んでくれている。

さすが神様の椅子やな。
ああ~なんか落ち着くわ~。
ここ、リビングみたいやん・・。
座ったら最後、尻に根が生えたがごとく、一気に体が重くなる。
そして瞼も重くなる。

ハッ!

本来の目的、完全に忘れとる!
今日ここに来たのは、神様に願い事をするためやん!

お願いはただひとつ。
難航している娘の就活!
トンネルの出口が見えずに右往左往している彼女に、ひとすじの光が差しますように。
神様、どうかお願いいたします。
目を閉じ手を合わせ、必死に祈った。


目を開ける。

さて・・・と。

「なんか、あっさり終わってもたな・・」
「え、帰る?」
「いやいやまだ来て5分と経ってへんやん!」

脳内の私と私がせわしなく会話。


誰もおらんし
しばらく座っててもエエかな…
立ち上がろうにも腹の中には、
ここに来る前に食べたチャーハン(小)と豚まんが消化されずに残っている。

まるで自宅にいるような心地よさに
ボンヤリと座っていると、
本気で眠たくなってきた。

 
途中、20代とおぼしき青年が入って来て、男性用の椅子に座り手を合わせて願う事10秒。
すっと立ち上がり、椅子に一礼すると静かに出て行った。
謙虚で真摯、願い方のお手本。
すがすがしい。
神様も、快く彼の願いを聞き入れたに違いない。



私はといえば、椅子をひとり占めしたのをいいことに「家族の健康」だの「宝くじ当たりたい」だのと、ぐだぐだと連続でお願い。
欲深い事この上ない。



最初の緊張感は秒で溶け、まるで自分家でくつろぐように座り続けること、たっぷり30分
入り口辺りに数人の来館者の声がした。

中華ランチで満腹だった腹も落ち着き、えげつない坂を上ったせいで笑っていたヒザも元に戻った。
潮時やな・・。
立ち上がる。

帰ると思いきや、隣の部屋に移動し、
たくさんの展示物や絵画などをじっくりと堪能。

隣の部屋の展示物。
目が合って、ちょっとビビった!どなた?


遠い目をした哀愁のドン・キホーテ様
サンチョ・パンサさんの
ボタンの留め具合がステキ

550円のチケット代では安すぎるほどの時間を堪能させてもらった。
「やっと帰るんかい・・」という神様の声がどこからか聞こえた気がしたが
きっと気のせい。
夕暮れ迫る神戸の街を見ながら、山手八番館を後にしたのだった。


「サタンの椅子」と聞いて、「サタンて悪魔でしょ?そんな椅子に長く座って大丈夫なん?」と思った方もいるのではないでしょうか?

実は「サタンの椅子」のサタンは悪魔ではなくローマ神話の五穀豊穣の神。
サターンのことなのでご安心を。

椅子の背もたれの上部真ん中に彫刻されているのが、サターンの神の顔だそうです。

これはコロナの影すらなかった2019年の1月の話。
その年の12月から世の中が変わっていった。
私が訪れた時、平日でも開館していた山手八番館(サタンの椅子)は、
今は土日のみの営業となっている。
コロナ禍から変遷、その後の状況はよく分からないけれど、私のように、ボ〜っと30分も座る事は出来ないでしょう。

その後、娘の就活は何とかトンネルの出口が見つかり、巣立っていった。
面の皮厚く、30分もダラダラ居座った母親のことも、神様は広い心で許して下さったようだ。

コロナ禍で足止めをくらっていたが、願いを叶えていただいたお礼参りに行きたいと思っている。

その時はあの、すがすがしい青年のように謙虚な態度に終始したい。
しかし、また欲深な願い事をしてまいそうである。

神戸は、ひとりでプラプラ歩くのがとても楽しい街。
美味しいものもたくさんありますしね。

口福、口福、幸せやな~

「一貫楼」のチャーハン(小)と豚まんもね。


※「三宮一貫楼」・・・「さんのみやいっかんろう」
神戸元町にある老舗の中華料理屋さんです。




















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