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クラゲになりたい夜もある

始まりは3月30日の職場の飲み会。
「年度末のお疲れ&派遣事務員Aさんの送別会」だった。

職場は

所長(男性)
副所長(男性)
派遣事務員(Aさん・20代男性)
パート職員4名(男性2人、女性2人)

の計7人。 
私とAさん以外はみな60代半ば。

女性パートのBさんが
「孫を預かる予定だから」と
早々に欠席する意思を示していた。



なので参加は6人だ。
私はコロナ禍2年目に勤務し始めたので、飲み会は初めてだった。


てっきり、飲み放題付きコース料理だと思っていたら
違った。

「それぞれ好きなもの頼んでや~」という所長の声にメニューを見るが
単品メニューは驚くほど少なく
サラダなんて
「店長おすすめサラダ」
「からだに優しいヘルシーサラダ」

しかない。

あまりの少なさに、皆あんぐり口を開けてる状態なので
所長が適当に頼み始めた。

「このヘルシーサラダと、本日のおススメ、刺身盛り合わせね~」

おいおい。
唐揚げとか、焼き鳥とか。
ポテトフライとか。
ガツンとくるものも、一品くらい入れようよ。
送別会の主役Aさんは20代やで!と思ったが言えない。

チラ見したら、Aさんはうつむいて何やらスマホを見ている。


私以外は、みんなビール。
ビール、日本酒、ワイン、焼酎、ウイスキーすべてダメな私は
チューハイカルピス。
(甘い酒しか飲めない・・)


私の席は、所長の真ん前だ。
この時ちょっと嫌な予感がした。
注文した飲み物が全然来ない。

当然、一緒に頼んだ料理も全く来ない。

どうやらコース料理の予約客が
最優先の店らしい。

30分くらいして、やっと酒がきて乾杯となった。
所長のあいさつが長い。
料理が全然来ないので、間を持たせようとしてるのがわかる。


私以外、酒だけおかわりの連続。
ビールやハイボールを頼みまくる。

1時間近くたって、刺身やサラダが来たが
圧倒的に量が少ない・・。
けっこういい値段してるのに。

サラダなんて6つに取り分けたら、ひとり、豆皿1つ分くらいだ。
水菜と豆腐、海藻で名前の通りヘルシー過ぎるし。
体に優し過ぎやろ・・。

しまった。こんなんやったらパンでも食べてくりゃよかった。


所長のメニューチョイスも、どーなんだ・・。

本日のおススメ「おでん」
大根、たまご、ガンモ、牛すじ串、ちくわ。

所長が、生真面目に6等分していたが、私は見て見ぬふりをした。


「1杯のかけそば」の話より悲しいぞ。
たまごなんて原型ないし。
ガンモは落して踏まれたみたいにデロデロやし。

この量 普通なら一人分やで…(悲)


なんで、コース+飲み放題にせんの?
2時間で終わるし料理もさっさと来たはず。

コースには、このボロゾーキンみたいなガンモのおでんは入ってへんやろ!

心の中でしか叫べない。


突然、本日の主役Aさんが立ち上がる。

「すみません。次の派遣先の人事の方から連絡があって・・。
ちょっと込み入った話になりそうなんで、私はお先に失礼します。
1年間本当にありがとうございました。お世話になりました。
皆様お元気で」

開始から1時間ほどしてAさん、スマートに去っていった。(いや、逃げた)
そうか。

Aさん、早々に見切りをつけて帰るタイミング計ってたんか。賢い!
パートのBさんも、おそらく過去に
これを経験済みやな…。
それで欠席か。賢い!

所長たち男性4人は、いい感じに酔っぱらい、政治、経済、投資、孫の自慢、それぞれが言いたいことを言う。

よくわからないままに頷いていたら、所長が私をガチ見でしゃべり出した。
ロックオンてヤツか…。
政治への不満を延々とブチまけ続ける。


3人のオヤジはこちらを背にして、勝手に盛り上がって話してる。
約2時間。
周囲から見たら、私だけ説教されてる人に見えただろう。

この時ほど「クラゲになりたい」と
思ったことはない。


クラゲは脳がないらしいから
ストレス感じんよね‥多分

興味ない話題に相槌を打ちながら、
店員さんに追加の飲み物を頼んだ。
スクリュードライバーだ。

私が食べなかったゴミみたいなおでんの皿も、いつの間にか空になってた。
よかった。

結局、ずっとサシで所長の話を聞いた。
普段は物静かな人なのに。
酒が入るとこうなるのか・・。
会計は2万850円。

上機嫌な所長。

「はい、一人4000円ね~。850円は僕が出しとくわ~」


やっと終わった。


長かったな・・。


帰り道の電車の窓から、暗い街並みを見ていたら
お腹が鳴った。
ちょっと悲しくなった。





月曜の職場は、派遣のAさんがいない事以外は何も変わりなかった。

所長はいつも通り、静かだ。

他の人も静かだった。



昼休み
みんなが
「次の飲み会は、夏頃にしようか!」と話してるのを聞こえないふりして
外に出た。



空を見上げたら、ボンヤリとしたクラゲみたいな雲。


脳を持たないクラゲは
本当にストレスを感じないんやろか…?



そんなことを考えながら、コンビニに向かって歩き出したのだった。

















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