【超短編小説】 Lady Smart
目の前には、クラスメイトの男子数名と、サッカーゴールがある。
足をかけられて得た、フリーキック。
ボールを胸の前で抱えて、思いを込める。
直接フリーキックは技術がものをいう瞬間。この瞬間は、男も女も関係ない。
休み時間をもて余した女子たちが、運動場の端でこちらを見ている。ボールの奪い合いで、競り合う時、彼女たちはヤジを飛ばしてくる。女の子らしくない。男子とひっつきたいだけだって。
ゴール前では、男子が小競り合いをしている。次の動きに続く一歩のための小競り合いだ。
先生は言った。男に混じってサッカーができるのも、小学校までだと。この先は一緒にサッカーしたって、体格で負けると強く言われた。そして、“今はなにも言わない男子”も変わっていくと。君は遠慮されて、それを敗けの理由にされる。女ってだけで未熟者扱いされて、勝った理由にされると。
だから上手くなりたいのだと父に言った。だけど、どれだけ訴えても、安定も将来の展望もないからと、習うことすら認められなかった。
私は深呼吸して、ボールをセットする。
フリーキックは技術がものをいう瞬間。
いや、フリーキックだけじゃない。競り合いでも同じだ。体格やパワーが劣っても、技術でカバーできないわけではない。私は、そう考える。
審判をかってでた男子生徒が、ホイッスルの代わりに指笛で合図する。
数歩下がって、狙いを定める。下げた足で地面を蹴り、ゴールの隅を狙って、ボールを蹴りあげる!
男子たちが錯綜する。私も切り込んでいく。だけどボールは弾かれることなく、高身長のキーパーの右手一本によって止められた。狙った場所はもう少し先。飛距離が足りなかった。
くそっ! なんて悪態をつく。
外から馬鹿にする高い声が聞こえる。ボールは、キーパーによって自陣地に蹴り飛ばされた。
空に舞う、ボールを見上げる。
才能や努力じゃ埋まらない、溝がある。すべてが技術でカバーできる訳じゃないことも分かっている。
でも、女だからって諦めたくない。
自陣地へ向かって走る。すぐに男子に追い越される。女子はそんな私を見て、またクスクスと笑う。
それでも、私はボールを追い続ける。いつまでも、ずっと。
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