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校舎裏のサヨナラ

おままごとの相手は、歩くと皆が避けるようなイカツイ不良番長でした

まだ幼稚園にも行っていない年齢の頃
お向かいのアパートに「ヒサちゃん」と呼んでいた男の子がいました。

私も彼も一人っ子で、道端にゴザを広げて「おままごと」をしていました。

たぶん彼の家には専業主婦のお母さんがいて
私の家では母が仕事をしていたので、晴れた日は殆ど外で遊んでいた記憶があります

彼はよくお母さんから叱られていて
イタズラっ子だったのでしょう、白いランニングがいつも灰色で
元気いっぱいの男の子という感じでした。

仕事で私をかまえない分、おもちゃを山のように買って貰えた私ですが
毎日そばにいて叱ってくれる彼のお母さんが
私は少し羨ましく思っていました。

幼い私にとって深い意味は考えられませんが
叱るって、かまってもらう事の延長のような感覚で受け止めていました。

でも彼は叱られると照れた顔をして、口を尖らせていました。

仲良しであったのに幼稚園も小学校も離れて
いつのまにか彼は引っ越してしまいました。

再会したのは地元の中学に入学したときでした。

その面影から私はすぐに「ヒサちゃん!」と分かりました。

ですが当時の「ヒサちゃん」は手のつけられない不良になっていました。

いつも取り巻きのような友達とゾロゾロ歩いていて
他中学との喧嘩騒ぎの噂も流れて来ました。

校内で悪さをして先生にビンタをされたとき
何も言わず逆の頬を出すような筋金入りの不良でした。

でもなぜか私は怖くはなくて
「久しぶり!」と頓着なく話しかけると、彼の方は私を避けてしまいます。

まわりの友達が「怪我するからやめな!」と心配してくれました。

さすがに女子には乱暴はしませんでしたが
腹を立てると、おかまいなく近くの机を蹴ったりするので
当然女子にも評判は悪かったのでした。

校内に敵なし・・・という感じです。

そして一年生が終わろうとする頃
また「ヒサちゃん」が引越しで転校するらしい・・・という噂が流れました

小さかった頃も、いつの間にかいなくなってしまったので
とても寂しい思いが残りました。

そうだ!ヒサちゃんは幼馴染みじゃないか
今度はきちんと「サヨナラ」を言おう!と決めました。

皆には心配されるので内緒にして
当時ヒサちゃんが一人で煙草を吸っているという校舎裏へ行きました。

「あのさ、ヒサちゃんだよね?」と問いかけると

なんだかとても困った顔をしています。

それでも静かに
「だから・・・おまえだけは駄目なの」と
あの頃のように口を尖らせました。

目の前のヒサちゃんもきっと
誰かに本気で叱ってほしいんだと
なぜか思いました。

まだ幼くて異性の「好き」な気持ちも何もなく「仲良し」でいられた分
「人としての原石」の部分で付き合えたことで
どんなに暮らしぶりが唐突になっても
その「心根」が信じられたのだと思います。

今は逆に歳を重ねて
余計なものが削ぎ落とされたことで
その人の「心根」が見えて来た気がします。

いろいろなことが有るけれど
歳を重ねるのも悪くない・・・と思える晩秋です。


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