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【富士山お中道を歩いて自然観察】3 シラビソの樹形

(この記事は、観察マップ地点3 についての解説です)
森の中の遊歩道には途中いくつかの階段があります。息が切れますので、休憩がてら近くにあるシラビソの稚樹を観察してみましょう。

森の中の遊歩道を穏やかに登っていく。ここの遊歩道は森林が切り開かれて陽が差し込むが、遊歩道から離れた森の奥の方ではシラビソやコメツガの暗い林が広がっている。

林の下は薄暗い

ツリー型樹形

遊歩道の脇にはたくさんのシラビソの幼木を見ることができる。シラビソの幼木は、クリスマスツリーとして親しまれている。

シラビソのツリー型樹形

明るい環境では、幹や枝の先端で、頂枝と側枝の成長はほぼ等しいか、頂枝のほうが大きい。このような成長が毎年繰り返されるとクリスマスツリーのようなツリー型樹形が形成される。明るい環境では、他の木の成長も速いので光をめぐる競争が激しく、より速く高く成長することが有利である。

頂枝と側枝
樹木の先端の上方に伸長成長している枝を頂枝、 横方向に成長している枝を側枝という。

頂枝と側枝

傘型樹形

一方で、右手奥の薄暗い林の下では、ツリー型樹形とは異なりかなり弱々しいシラビソが見られる。この形、傘のように見えないだろうか。

シラビソの傘型樹形

暗い極相林内では、シラビソやコメツガの幼木は幹の伸長を抑え、代わりに水平な側枝を伸ばして少しでも多くの光を受けようとする。その結果、樹形は傘型となり、暗さに耐えながらギャップができるのを待ち続ける。成長のコストを抑え、少ない光合成産物をできる限り樹木の維持に使うことで、暗い林床でも最長70~80年生き延びる。

極相、極相林
植生の遷移が進んで、最終的にそこの気候に最も適した植生に達すると安定して維持される。その時の植生を極相という。日本列島は十分な降水量に恵まれるため、極相は森林(極相林)となる。

ギャップ
森林の樹木が寿命や台風の強風などで倒れて枯れると、その樹木が占めていた場所があいて、太陽光が射し込んで明るくなる。これをギャップという。

運よく親木が枯れてギャップができ、光が差し込んでくると、幹の伸長が促進されて、ツリー型の樹形となる。明るい条件が続けば、この幼木は伸長を続けて、やがて林冠に達して後継樹として極相林の維持を担うのである。

林冠
森林の最上層を占める高木の葉の集まりをいう。

伸びを比べてみると…

シラビソの横枝(側枝)の間隔は1年間の成長量である。同じ10 cm の範囲にある側枝のつまり具合からも、伸長成長の違いがよく分かる。

写真左はツリー型樹形、右は傘型樹形
写真に付け加えた白線は1年分の伸びを示す。傘型樹形では10 cm伸びるのに数年かかる。

ツリー型と傘型のハイブリット樹形

極相林の幼木の芽鱗痕がりんこんをよく観察してみると、傘型樹形やツリー型樹形のほかに、両者があわさった樹形を見ることがある。

写真の定規の0 cm、7 cm、13 cm付近が芽鱗痕

芽鱗痕がりんこん
樹木の枝先には冬芽ができるが、その付け根のスジ(横枝の跡)は芽鱗痕がりんこんとよばれ、樹木が成長しても消えずに残る。今年と去年の芽鱗痕の間が今年の成長量である。この芽鱗痕を過去にさかのぼることで、毎年の成長量や枝や幹の年齢を推定することができる。

これは、1本の幼木が、ある時期には暗く傘型樹形となったが、またある時期にはギャップが形成されて明るく、さかんに伸長していたためである。

ハイブリット樹形

このような観察をすることで、幼木が生きてきた歴史を推定することができる。

次回(地点4)は、稚樹の成長が大きく関わるシラビソ林(極相林)のお話です。

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