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【富士山お中道を歩いて自然観察】15 紅葉と黄葉。 しかし例外も・・・

(この記事は、観察マップ地点15 についての解説です)
秋になると、お中道の斜面をナナカマドの紅葉やダケカンバ・カラマツの黄葉が鮮やかに彩ります。

紅葉と黄葉

落葉樹は秋になると、クロロフィルの分解が始まり、葉柄のつけねに離層りそうが形成され始める。同時に赤い色素であるアントシアニンが合成され緑の葉が紅葉する。

クロロフィル
植物の光合成を担う色素で、太陽光のうち青と赤の光をよく吸収するため緑色にみえる。クロロフィルは太陽光を吸収して、エネルギーの高い化学物質をつくる働きをする。この化学物質は大気中の二酸化炭素を取り込んで、炭水化物を作るのに使われる。

離層りそう
葉が落葉する前や果実が成熟して落下する前に、枝との間に離層と呼ばれる特殊な細胞層が発達し、植物体との水や養分のやり取りは遮断される。

アントシアニン
植物の葉、茎、花、果実などに存在する色素で、アントシアンとも呼ばれる。春、新芽が出るときや紅葉の時の赤い色はアントシアニンによる。生育環境が悪化し光合成が抑制されるような条件でも作られることがあり、これはアントシアニンが太陽光を吸収し、クロロフィルを保護するためといわれている。

紅葉したナナカマド

アントシアニンを合成できない植物は、クロロフィルの分解に伴い、もともと緑葉に含まれていたカロチノイド(カロテノイド)が目立つようになり黄葉する。

カロチノイド、カロテノイド
カロチン(カロテン)とも呼ばれ、赤、黄、橙色などの色素である。光合成を担う葉緑体内にあり、太陽光を捉えると同時に、クロロフィルが過剰な太陽光を吸収するのを防ぐ大切な働きをもっている。

カラマツの黄葉
ダケカンバの黄葉
まだほんのりとクロロフィルの緑色が残るが、カロチノイドの黄色が目立つのがわかる。

クロロフィルには大量の窒素が含まれている。植物がクロロフィルを分解して回収するのは、植物にとって大切な窒素を落葉前に枝や幹に一旦貯蔵し、翌春の成長に備えるためである。

一方でミヤマハンノキは・・・

ミヤマハンノキは放線菌から窒素を含むアンモニアを供給されるので、クロロフィルを分解して窒素を落葉時に回収する必要がない。

このため葉にはクロロフィルが残り、緑葉のまま秋を迎え、その秋の最初の霜が降りたときに茶色に枯れる。

ダケカンバの葉は茶色く枯れ落ちているが、ミヤマハンノキの落ち葉は緑がかっている

このようにミヤマハンノキは、残念ながら美しい紅葉・黄葉を見ることはできない。しかし、ミヤマハンノキの落ち葉は窒素に富むので、土壌の富栄養化に貢献し、土壌を形成して遷移を進める役割を果たしている。

葉の窒素含有率の季節変化
10月、ダケカンバの葉では窒素含有率が明らかに低下したが、ミヤマハンノキでの低下はわずかであった。つまり落葉前に葉の窒素を枝に回収しているが、ミヤマハンノキでは窒素の回収をほとんどしていないということが分かる。

次回(地点16)は、ダケカンバの樹形変化のお話です。

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