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【The Evangelist of Contemporary Art】10年の後―水戸芸術館で「3.11とアーティスト:10年目の想像」展を観る(前編)

久しぶりに水戸芸術館(1~3)を訪れた。

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 久しぶりというのは、ここ2、3年当館で行われる企画展に魅力的なタイトルやテーマ、そして興味深い作品がないと思われたからである。東京から2時間の近さとはいえ、それなりの交通費を払って観たいと欲する展覧会でないと、なかなか触手は動かない。実際に鑑賞していないのでそう断言する資格はないが、私の言うことが正しければ、水戸芸術館も東日本大震災後10年(開館してからは30年)で、文化的に老朽化したか進取の気質が失われたのだろうか?

 それでも、東京や大阪などに「緊急事態宣言」が再発出される前日(4月28日)水戸まで足を運んだのは、5月の連休明けに終了(5月9日)する「3.11とアーティスト:10年目の想像」展(4)を鑑賞するためだった。

 大震災関連の企画展は、社会・政治問題に疎い日本のアート界にあって、少ないながらも開催されてきた。そのなかでもっとも規模の大きい展覧会を真っ先に開催したのが、水戸芸術館である。震災の翌年の2012年、「3.11とアーティスト:進行形の記録」と題された企画展が開かれたのだ。

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 その時は、「記録」がタイトルに入っていることからも推測できるように、ドキュメンタリーを基本的枠組みとする作品が並んでいて、震災直後の生々しい記憶の下、内容に強いリアリティが感じられた。鑑賞者の肌に他人事ではない緊張感が伝わったのだ。この展覧会は、アートにおけるドキュメンタリーの威力が試されるともに、日本ではなぜか認められにくい記録(を具現する資料)の価値が、アートの表現として公式に登録される機会になった。

 展示を通覧すればすぐ分かるが、どの作品も災害の爪痕と原発の事故と結びつき、事態の惨憺さとアーティストの素早いレスポンス(たとえばボランティアとして復旧作業に参加)との間に切迫した雰囲気を醸していた。それと比較すれば10年後の現在、そのような悲壮感はない。その意味で「3.11とアーティスト:10年目の想像」展は、アーティストの主観に定着した震災の記憶と、それに触発されて膨らむ彼らの想像力が交差する地点で、作品の多くが成立していたように思う。

 さて改めて、2011年の東日本大震災(3.11)から10年後の今年、カタストロフの「記録」ではなく「想像」(アートの原点と主催者は言う)をテーマにした本展の第一印象を述べさせてもらえば、10年の間に多くが変わったということだった。震災後まもなく制作された作品は生々しい衝撃力が衰微し、最近作は冷静に距離を置いて3.11と対峙し回顧していると見えたからである。一言でいえば、時の流れの効果を感じさせられた。それは、同じ主題の二つの展覧会のテーマが「記録」から「想像」に変化したからだけではないだろう。

 とはいえ特定の被災地に密着し、10年に渡り観察を継続している作品がないわけではない。というよりむしろ、そのような作品が「3.11とアーティスト:10年目の想像」展の中心に位置するよう展覧会が構成されていたと結論してよい。

 それが、会場の2箇所(展示室のマップの1‐aと1‐b)にインスタレーションされた小森はるか+瀬尾夏美の作品群である。

 まず本展の冒頭(1‐a)に飾られた作品(5~7)は、大震災後10年間に日本で起きた地震と自然災害の年表(8~11)を背景布にしている。それと並行して、被災地の変貌を辿った映像(12~16)のモニターが壁に掛けられ、その間に地域や住民の意識の移り変わりを鮮やかに綴った記述(17~22)が曲線を描いて並べられている。何が変化し何が変化していないかを、被災地とその住民の外面と内面に迫って丹念に拾い集めていた。

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 それらの作品の背後にある高嶺格のヴィデオ(23~29)は、原発事故後日本を覆った放射能に汚染された商品(食物や陶器)への、当然であり過剰でもある消費者の反応と売り手のやり取りを、各地でリサーチして再現したプロジェクト(2011年~2012年)である。そこに登場する素人の演者の生硬な演技が、逆に事の重大さを再確認させる大震災関連の映像(一部のドキュメンタリーを除いて)では傑出した作品だった。

続きは、Tokyo Live & Exhibitsで→https://tokyo-live-exhibits.com/blog054/

文・写真:市原研太郎

市原研太郎
Kentaro Ichihara
美術評論家
1980年代より展覧会カタログに執筆、各種メディアに寄稿。著書に、『ゲルハルト・リヒター/光と仮象の絵画』(2002年)、『アフター・ザ・リアリティ―〈9.11〉以降のアート』(2008年)等。
http://kentaroichihara.com/現在は、世界の現代アートの情報をウェブサイトArt-in-Action( http://kentaroichihara.com/)にて絶賛公開中

■市原研太郎他のブログ https://tokyo-live-exhibits.com/tag/%e5%b8%82%e5%8e%9f%e7%a0%94%e5%a4%aa%e9%83%8e/



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