【Physical Expression Criticism】京都、奈良に舞踏を見る~1
上写真:『極私的肉体詩「砂ノ音」』藤條虫丸(The Physical Poets)photo:海野隆
※WEBアートメディア Tokyo Live&Exhibits より転載。https://tokyo-live-exhibits.com/
京都の舞踏とコンテンポラリーダンス
京都は舞踏のメッカである。というと、驚かれるかもしれない。
舞踏は、1959(昭和34)年、土方巽が大野慶人と『禁色』を上演したことで始まったとされる。そして、土方巽と大野一雄が舞踏を生み出した。
その土方の元から、1972年に生まれたのが大駱駝艦で、麿赤兒が主宰し、現在も活動を続けている。その創立メンバーの一人、大須賀勇が、1980年に白虎社を結成して、京都で活動した。白虎社は、土方の「暗黒舞踏」に対して「明るい暗黒」を標榜し、東南アジアなどでも公演を行い、大規模でエンターテイメントな舞踏キャバレー的世界をつくりだした。その白虎社出身の舞踏家たちの活動が、現在も、京都を中心に活発なのだ。
白虎社は1994年に解散したが、所属した桂勘、今貂子、由良部正美ら、さらに彼らに学んだ多くの舞踏家が活動している。また、コンテンポラリーダンスグループの花嵐など、舞踏の影響を強く受けたコンテンポラリーダンサーも多い。
他方、2001年、白虎社に所属した佐東範一、水野立子らがJCDN(ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク)を立ち上げ、日本各地でダンス公演やワークショップなどを開催して、日本の新しいダンスシーンをつくりあげ、そこに舞踏家たちも参加した。
関西では、他にも舞踏出身でコンテンポラリーダンスに関わった、現在、神戸でNPO法人ダンスボックスを主宰する大谷燠がいる。大谷は、大駱駝艦出身のビショップ山田が結成した北方舞踏派に参加し、制作者としてトリイホールを経て、ダンスボックスを立ち上げ、大阪・神戸のコンテンポラリーダンスを牽引している。さらに大谷のワークショップから、舞踏を背景にしたコンテンポラリーダンスグループ、千日前青空ダンス倶楽部も生まれた。由良部正美に師事したきたまりは、ここを経て、自らのグループ「KIKIKIKIKIKI」を結成した。
このように、京都では舞踏家の活動が活発で、東京に次ぐといえ、また、大阪・神戸と、さらに九州などの活動ともつながっている。そして、日本のコンテンポラリーダンスも、特に関西では、舞踏を背景としていることがわかるだろう。
白虎社『ひばりと寝ジャカ』1987年
そして、今回、筆者は、白虎社出身の桂勘の招きで、舞踏中心の小規模なフェスティバル、「Dancing Blade #2」に参加した。7月15日から3日間、公演を見て、その後トークをするというものだ。実は2016年にも、1日だけの舞踏関連のイベント「2016 舞踏という問い」によばれて訪れたことがある。
京都アバンギルド
京都では、中心街にあるライブハウス、アバンギルドで舞踏公演がたびたび行われ、2016年も、今回の「Dancing Blade #2」も、そこが会場だった。
アバンギルドは、1997年に開かれた歴史的建築物「1928ビル」の廃墟カフェ・アンデパンダンを前身として、2006年に材木町の高瀬川側沿いに開かれた多角的アートスペースで、UR食堂をベースに、舞台ではアートや映像、音楽、舞踊などのパフォーマンスが行われている。そのため、多くのアーティストたちの交流の場になっている。
「Dancing Blade #2」公演フライヤー
7月15日から17日の舞踏公演では、毎日7組の舞台があった。出演者は出演順に以下のとおり。
7月15日:タイニー(The Physical Poets)、阿希/AKi、大村万朶・土居大記(舞踏土佐派)、天津孔雀(舞踏青龍會)、百一(BAIYI/舞踏白狐系)、東北舞踏三角標/IGU、藤條虫丸(The Physical Poets)
7月16日:シンキミコ(舞踏青龍會)、のせるみ(同)、望月紅華、西村進(達磨流拳法研志館)、五十嵐香里、杜昱枋(Dudu/舞踏白狐系)、桂勘
7月17日:松田美和子(舞踏青龍會)、滝worrier(同)、金亀伊織(The Physical Poets)、鳴海姫子(同)、ワタル/WATARU、清子(高砂舞踏協同組合主宰)、原田伸雄(舞踏青龍會)
このように、今回の主催者の桂勘と、福岡で活動する原田伸雄、屋久島から全国で公演する藤條虫丸が3日間、それぞれトリをつとめた。3人はともに70代、舞踏の第三世代といえる。
それぞれについての評は、発行予定のフリーマガジン『おどりたいムズ』(山本清子責任編集)に記すが、ここでは、そのいくつかの公演について、述べることにする。
『孔雀版卒塔婆小町』天津孔雀(舞踏青龍會)photo:海野隆
孔雀、百一、虫丸
『孔雀版卒塔婆小町』天津孔雀(舞踏青龍會)
天津孔雀は、まず面をつけて登場する。そして、三島由紀夫の『近代能楽集』から『卒塔婆小町』を朗読する。英国生まれの幼少期を欧州で過ごした感性で、ロックバンドや美術、舞踏家マツモトキヨカズとのユニット「AYU」を経て、2019年から、原田伸雄が主宰する舞踏青龍会に参加。朗読と演技を組み合わせた「朗唱演戯」を追求する。トランスジェンダーの孔雀は、面を外し、性の垣根を越えることで、人間の根源をさぐる。時にはたおやか、時には力強い発声の朗読と「変性男子」の存在感は、三島作品にピタリと寄り添い、ワルツのリズムが彩りを添える。そこに、師事する原田伸雄の女装の白い舞踏が見事に重なった。
『梅花vol.1』百一(BAIYI/舞踏白狐系)photo:山下一夫
『梅花vol.1』百一(BAIYI/舞踏白狐系)
桂勘の門下の百一は、衣装の赤と黒の美しい対照とともに、「梅の花」を踊る。中国山東省出身で、吉林芸術学院の振付専攻を卒業。2014年に北京で、桂勘と原田伸雄の舞踏のワークショップに参加し、2018年に来日、現在、日大芸術学部大学院で学ぶ。そのバレエやモダンで磨かれたスキルと身体感覚が、見る者にダイレクトに伝わる。そして、時には中国の伝統に根ざした動きを見せ、多様な踊りの混淆が、新たな踊りの可能性を感じさせた。 桂勘の門下の百一は、衣装の赤と黒の美しい対照とともに、「梅の花」を踊る。中国山東省出身で、吉林芸術学院の振付専攻を卒業。2014年に北京で、桂勘と原田伸雄の舞踏のワークショップに参加し、2018年に来日、現在、日大芸術学部大学院で学ぶ。そのバレエやモダンで磨かれたスキルと身体感覚が、見る者にダイレクトに伝わる。そして、時には中国の伝統に根ざした動きを見せ、多様な踊りの混淆が、新たな踊りの可能性を感じさせた。
『極私的肉体詩「砂ノ音」』藤條虫丸(The Physical Poets)photo:海野隆
『極私的肉体詩「砂ノ音」』藤條虫丸(The Physical Poets)
藤條虫丸は劇団維新派の前身、日本維新派の出身で、「The Physical Poets」を結成し、屋久島を拠点に活動して、国内外で公演を行い、毎年、全国ツアーを実施している。今回はそこから3人が出演している。
今回の舞台は、「砂の音を聞いたことがありますか」、「砂の色を知っていますか」、「砂の手触りを知っていますか」という自らの発する言葉から始まり、その言葉とともに、屋久島の自然や野生を感じさせる身体感覚が立ち現れる。そして、ノイジーで執拗なリフレインの中で身体を探りながら、痙攣とともに強い緊張を示していく。やがて、『時には母のない子のように』のメロディとともに、愛を求める姿が、心を惹きつけた。
「京都、奈良に舞踏を見る~2」に続く
■志賀信夫他のブログ https://tokyo-live-exhibits.com/tag/%e5%bf%97%e8%b3%80%e4%bf%a1%e5%a4%ab/
志賀信夫
Nobuo Shiga
批評家・ライター
編集者、関東学院大学非常勤講師も務める。舞踊批評家協会、舞踊学会会員。舞踊の講評・審査、舞踊やアートのトーク、公演企画など多数。著書『舞踏家は語る』(青弓社)共著『美学校1969~2019 』『吉本隆明論集』、『図書新聞』『週刊読書人』『ダンスワーク』『ExtrART』などを執筆多数。『コルプス』主宰。https://butohart.jimdofree.com/