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三浦しをん『愛なき世界』【#読書の秋2022】

 この小説の主となるのは、シロイヌナズナ(通称:ペンペン草)の葉っぱの研究に精を注ぐT大院生の“本村紗英”と、町の食堂『円服亭』で店員として働く“藤丸服太”の二人である。本村が属する『松田研究所』と藤丸が勤める円服亭の周辺の人たちの優しい雰囲気の中で話が進んでいく。

 「愛」とは何なのか、いては「好き」とは何なのか。何故ゆえに愛を抱き、何故ゆえに好意を抱くのか。この小説はそれらを全部横たえて、読み手を包み込んでくれます。

 藤丸の、本村に対する気持ちも素晴らしいなと思いました。自分の恋心に対してしっかり「後悔はしていない」と思える姿は本物だなと思いました。ああいう素敵な人ばかりなら、僕の人生ももう少し彩りのあるものだったんじゃないかなと、そういう人に自分もなりたかったなと、感じました。

 恋愛感情ではなくとも、藤丸に対する本村の率直な気持ちが表れている箇所が何度も出てくるんですけどそれがすごく良いです。ただ、「だんだん藤丸のことを好きになんのかな?」なんて思いながら読んだのが恥ずかしいくらい、本村が自身の「愛」を貫いていて、それが確証に変わっていく姿に胸を撃たれました。

 僕には本村の植物のように没入してそればかり考えてしまうような何かはない。何もないけど、恋愛はどうでも良いやと思いながら生きています。本村のような人生哲学とそれゆえの悟りのようなものはない。だから「でも?」と聞かれたら「恋人はいたら嬉しいけどさぁ」なんてことを言ってしまう。この一貫性のなさに自分のよくない部分が濃縮還元されている気がして嫌になる。どっちつかずのくせにきしょいプライドと欲が滲んでいて、自分に対して反吐が出てしまいそう。

 しっかりと自分の「愛」を語り、それを貫き、口に出せる。それでいて人としての心を捨てていない。本村のその姿は見習うべきものがあるなと感じました。


 知りたいと思う気持ち、延いては周りへの興味。それらを持とうとしてみることから僕は始めてみようと思います。


#314 三浦しをん『愛なき世界』
#読書の秋2022

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