マガジンのカバー画像

【読書感想文とは言えない何か】

18
読書感想文と少しの自分語りです
運営しているクリエイター

#読書感想文

自転もままならない

 数ヶ月前、僕が聴いているラジオ番組のイベントが横浜アリーナで開催されたのですが、その時に行った新横浜駅の書店で買った中の1冊がこの『自転しながら公転する』でした。その書店でこの本が平積みされていて、帯の「恋愛、仕事、家族のこと。全部がんばるなんて、無理!」という文言に意識が吸い込まれました。  帯を見て僕は、主人公が「恋愛」「仕事」「家族のこと」の全部を諦める過程の物語が読めるのではないかと思って内心ワクワクしました。そんな話が読みたいなと、この本を見つけた時に心の底から思

読了日記2022

1.又吉直樹『人間』(角川文庫, 2022) 【読了:2022.05.08】 ”読書”という行為への抵抗が、敬愛する何人かのお笑い芸人さんの書くエッセイによって少しだけ薄れた感覚がある。そんな最中、僕はお笑いコンビ『ピース』の又吉直樹さんのYouTubeチャンネルを視聴しまくっていた。この文章を書いている現在、僕は又吉さんのオフィシャルコミュニティ『月と散文』に加入しようか迷っているくらいである。そんな中で『人間』という小説が文庫化されると知り、好きな人のエッセイばかりを読ん

朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』【#読書の秋2022】

 小説『死にがいを求めて生きているの』の登場人物の一人が、物語の中で人間を大きく3つに分類した。2種類の“生きがいのある人間”と、1種類の“生きがいのない人間”。あなたはどれに当てはまるのでしょうか。  このnoteを読んでいる人にも、この小説を読んでタイトルの「死にがい」という考えに風穴を開けられてほしい。ぜひ、読んでみてください。 1.順位 この本では、ナンバーワンからオンリーワンの社会に変化していく様子とそれによって生まれた新たな苦悩が描かれている。その中でも印象的だ

三浦しをん『愛なき世界』【#読書の秋2022】

 この小説の主となるのは、シロイヌナズナ(通称:ペンペン草)の葉っぱの研究に精を注ぐT大院生の“本村紗英”と、町の食堂『円服亭』で店員として働く“藤丸服太”の二人である。本村が属する『松田研究所』と藤丸が勤める円服亭の周辺の人たちの優しい雰囲気の中で話が進んでいく。  「愛」とは何なのか、延いては「好き」とは何なのか。何故ゆえに愛を抱き、何故ゆえに好意を抱くのか。この小説はそれらを全部横たえて、読み手を包み込んでくれます。  藤丸の、本村に対する気持ちも素晴らしいなと思い

『正欲』

 多分、一年以上は本棚の隅っこに置いてあった気がする。 なんとなく放置していたけど、やっと読むことができた。 元気とか正気みたいなものは、どこかへいってしまった。  結局、理解されない側は理解してくれない側のことを理解しようとしない。 ”理解してくれない側”が歩み寄ろうとしてくることすら拒絶するほどに、理解しようとしない。 排除してきた側が大義名分を振り翳して歩み寄ってくるのは胸糞以外のなんでもないから、しょうがないよなと思う。  登場人物らはそれぞれ相反することを言って

何者でもない

「何者かになる」という探究を成し遂げた人間を俺は見たことがない。 ”俺が好きな人たちと読んだ小説の中に”というだけではあるが、見たことがない。 南海キャンディーズの山里さんは漠然と「何者かになりたかった」けど、自身は天才ではないからその差を努力で埋めようとした。モテたい気持ちや嫉妬を燃料にし芸人になった。 ピースの又吉さんは、芸人という変わり者になれば「何者かにならなくていい」と思い芸人になったが、結局は「何者かであること」を求められてしまっている。 又吉直樹さんの著作『人

『人間』

はじめにnoteを始めてから読書をするのがより楽しく感じるようになった気がする。本を読んだ感想を自発的に書くようにもなった。小学生の夏休みの「読書感想文を書くための読書」はあんなに退屈なものだったのに、「読書を楽しむための読書感想文」はこんなにも有意義なのかと思わされる。僕はそんなにたくさんの冊数を読んでいるわけではないが、「この本を読んでよかった」とこんなに思える小説に初めて出会った。 1.感情移入この本を読み始めた時は何の疑いもなく主人公の「永山」の気持ちで読んでいた。

『いのちの車窓から』

 星野源さんのエッセイ、「そして生活はつづく(文庫)」「働く男(文庫)」「よみがえる変態(文庫)」「いのちの車窓から(単行本)」の4作はしっかりと買っていたのですが、序盤を読んだっきり積読状態が続いていました。 今回「いのちの車窓から」の文庫版が発売されるということで、勝手に重くしていた腰を上げることにしました。 読む順番としては適切ではない気がしますが、改めて「いのちの車窓から」から読んでいこうと思います。 読みながら思ったことを順に挙げていこうと思います。 1.話の展

虚無気味の世界にカピバラの顔を描く

いきなりですが、誤字脱字がおそらく大量にあると思うので広い心で受け止めてくださると嬉しいです。 はじめに  発売日の朝一で近所の本屋に走って買いに行き、9:30には一丁前にコーヒーを入れて、机に向かって本を読み始めました。  最後にナナメの夕暮れ(単行本)を読んだのが4月の終わり際だったので、もう7ヶ月経っています。「明日のたりないふたり」よりも前ですね。  文庫版のために書き下ろされた17,000字だけを読んでも良かったのですが、「最初から読み返した方が絶対良いよな」と

#140 若林正恭

 昨日の今日で「社会人大学人見知り学部卒業見込」と「ナナメの夕暮れ」を約1年ぶりに読みました。言い方は変ですが、「正直こんなに自分に刺さるとは思っていなかった」です。確かに一年前にこの2冊を読んだのですが、その時は若林さんに共感した気になっていました。正直、若林さんの生み出す日本語は美しすぎると思います。僕の語彙力では文意が理解できないことも多かったです。社会人大学に「二律背反」という節があり、内容をめちゃくちゃ要約すると「二律背反する感情や主義が一つの作品に同時に収まってい

#94 Re:「僕の人生には事件が起きない」

最近大学で簡易版のビブリオバトルをする機会があって久しぶりにこの本を読んだので、もう一回感想文(?)を書いてみようと思う。  この本はお笑いコンビ’ハライチ’の岩井さんのエッセイである。ある日僕は本屋さんでこの本と運命的出会いをした。出会いはとても単純で一目見てタイトルに惹かれた。  本の冒頭で 「まあまぁ世に名前が知れているコンビの、影に隠れがちな方。しかしネタは10割そっちが書いている。ラジオのレギュラーがあり、ラジオだとテレビでは陰に隠れがちな方が割と目立っていて、

#75 「紅茶を注文する方法」

やっと。 僕がこの本を古本屋で買ったのが10月24日。それから結構な月日が経った。  2020.12.10(木)24:00、ハライチのターンが始まると同時に僕はようやくこの本を読み始めた。  というのも、その週の金曜日に授業でビブリオバトルをする必要があったからだ。  前日にその存在を思い出し、重い腰を上げた。(ラジオのTFもそうだが、基本的には始めるのが億劫なだけでやって後悔することは少ない。) 理由 この本は哲学者でありながらお茶の水女子大の名誉教授でもある土屋賢二さん

#23「僕の人生には事件が起きない」

購入してから4ヶ月経った先日、ハライチ岩井さんの著書、「僕の人生には事件が起きない」にようやく手をつけた。 今から4ヶ月前。 僕は近所の本屋さんに若林さんの著書を探しに行った。 まずは文庫コーナーに行った。 無事社会人大学を見つけた。 次にタレントエッセイコーナーを探すがナナメとカバーニャは置いていなかった。 しかしそのコーナーで僕はとある本に目を惹きつけられた。 その本こそがハライチ岩井さんの本だった。 ちょうど前週の放送回からラジオを聞き始めていたため、タイトルをひと目