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『いのちの車窓から』

 星野源さんのエッセイ、「そして生活はつづく(文庫)」「働く男(文庫)」「よみがえる変態(文庫)」「いのちの車窓から(単行本)」の4作はしっかりと買っていたのですが、序盤を読んだっきり積読状態が続いていました。
今回「いのちの車窓から」の文庫版が発売されるということで、勝手に重くしていた腰を上げることにしました。
読む順番としては適切ではない気がしますが、改めて「いのちの車窓から」から読んでいこうと思います。

読みながら思ったことを順に挙げていこうと思います。

1.話の展開のさせ方

 源さんのエッセイは、話の最後に”街で見かけた人物”が出てくることが多いように僕は思いました。
源さんがうちで話を展開させ、最後にその人物を出して「その気持ちわかる気がする」と寄り添って肯定しているように思えました。

 僕は「見かけた人・関わった人から色々発想を展開させて自分に落とし込んでいく」という順序でnoteを書くことが多いので、「誰かに自分を重ねる」ことと「自分を誰かに重ねる」ことの違いを感じました。
源さんのエッセイで見受けられる後者の方は、懐の広さが桁違いな気がします。

2.読みやすさが半端ではない

源さんのエッセイは”特段”難しい言葉を使って書かれているわけではなく、読んでいてスッと頭に入ってくるほど親しみのある文体を用いた文章で構成されていて、「俺もこんな文章がかけたら良いなぁ」と思ってしまいます。
それっぽい音楽とか溜まったラジオとかを聴きながらする読書としてはこの世で一番適していると思います。

3.日常の描写

日常のなんてことない一コマの描写が、源さんのエッセイはえげつないです。
「ベランダに出たよ」というだけでそんなに情景描写できてしまうのか….と脱帽してしまいます。(p180「夜明け」参照)
読み手側にも、意味わからないくらい鮮明に情景が思い浮かびます。

それと、可愛いものをより可愛く、食べ物をより美味しそうに描写するのがうますぎます。

ミートボールを口に運ぼうとすると、ふと視界の左脇下方に、ベージュの生き物がぷりぷりと侵入してきた。
(「柴犬」p121, ℓ1 )
チャーハンが運ばれてきた。炒められたパラパラの飯にトマトが溶け、少し赤くなった全体に卵の黄色が綺麗だ。スプーンですくって口に運ぶと、味も濃すぎずとても美味しかった。
(「武道館とおじさん」p93, ℓ16 )

いや、「ぷりぷり」て。
可愛すぎんだろ。
チャーハンに至っては4Dかと思いました。

4.気持ちの描写

綺麗で簡潔なまとめ方や例えが、脳内に響いてきます。
もう、雷鳴くらい響きます。

どんなにたわいないことでも、それがうまく文章にできたと時、心の中が綺麗に整頓されたように、掃除したて湯船に入り、綺麗に体を洗ったようにすっきりとした気持ちになった。
(「文章」p75, ℓ3 )

僕がnoteを書いていて「思ってたことが全部書けた」なんて経験は数える程しかないですが、この”心の中が綺麗に整頓される感覚”はすごく共感できます。
源さんの文章によって、僕の心がまた一つ整頓されました。

5.人間と転機

p114の「寺坂直毅」、p144の「細野晴臣」、p156の「大泉 洋」、p174の「新垣結衣という人」が僕は本当に好きです。

特に、寺坂さんの章は号泣してしまいました。

これくらい大きくて人生を変えるほどの”人との出会い”は、僕にはまだない気がします。

素敵です。

6.没頭とゾーン

たびたび「没頭」や「ゾーン」について触れている箇所があり、個人的になんか嬉しくなってしまいました。
後期の大学の講義で習った内容ということもあるのですが、自分が身を持って体験したわけでもないのに「本当にこういった感覚になるんだなぁ」と思いました。

音楽、そして音楽のライブにおいての広さや距離というものは、会場のサイズで測られるものではなく、演奏している音楽家と、聴いているお客さんの心の距離の近さによって測られるのだ。
とても至福な時間だった。どれだけ会場が大きかろうが、あの二日間、横浜アリーナは最高に狭かった。
(「電波とクリスマス」p29, ℓ10 )
踊っていると自意識が消え、頭の中は空っぽになった。汗をかき、筋肉痛になり、無心で踊っていると、それまで死んでいた自分が生き返るように元気になっていた。
(「YELLOW DANCER」p104, ℓ2 )

7.夜の素晴らしさ

ラジオというものに特別な思いのある人だったり、周りよりは色々考え込んでしまう性格だったり。
そういう人の語る”夜”が僕は好きで、より一層"夜"が好きになります。

想像するのが好きだ。
夜の日常では光が遮断されるが、代わりに想像力が膨らみ、この街の中に数百万、数千万人がマジでいるのだ、という妙な実感が湧いてくる。目に見えない方が、なぜか世界がよく見える。
(「ROOM」p84, ℓ11 )
こういった深夜の活動は、何を見ても何を摂取しても自分の体に染み込んでいくような気がする。栄養となり、次の自分に生かせる感覚がある。
しかし実際は深夜であればあるほど、観たはずの作品の内容は記憶の中で曖昧になり、細かい部分を忘れてしまったりする。正直、深夜だから良いことなんて実はあまりない。記憶にない方が何度観ても新鮮な気持ちになれるという意味では、それはそれで良いと思う。
(「夜明け」p181, ℓ13 )
世の中に勝ち負け不必要だと言いたいわけじゃない。正解が数字に反映されないテストなんて気持ちが悪いし、徒競走で全員1位なんておかしい。ただ、そうじゃない場所があったって良い。
(「コサキンとラジオ」p141, ℓ7 )
もちろんそんなことを お二人がしたわけではなく、ただ、その姿勢から勝手にそう受け取っただけだ。
(「コサキンとラジオ」p142, ℓ2 )

夜は良くも悪くもなんでもできる。
本を読んだり動画を見たり音楽を聴いたりラジオを聴いたり散歩をしたり。
もちろん、何もしないこともできる。
ここ2年、深夜はめっきりラジオを聴いている。
「昨日のあの番組面白かったよな」と翌日に言われた時、内容をどれくらい覚えているかというとそんなに覚えていない。
言われると思い出せるんですけどね。
聴き終わった後の圧倒的な”走りきった感"(リスナーのくせに)と”笑った”というふんわりとした感覚を抱き締めながら寝るのが常です。
でも、それがいつまでも新鮮で良いんです。
昼にタイムフリーした内容は妙に記憶に残っていたりするので、源さんの言う通りなんだと思います。
でも逆に、そのおぼろげな感じが、「リアルタイムで聴く」ことの醍醐味なんじゃないかなとも思います。

いつも「星野源のオールナイトニッポン」、楽しく拝聴させていただいています。

8.過去の自分

2021年3月6日放送の「オードリーのオールナイトニッポン」のオープニングトークが僕は狂おしく好きです。
オードリーのお二人がまだ仕事のない若手芸人だった頃の、ギャラもほとんど出ないような仕事の思い出を振り返るような話になりました。
若手芸人だと、テレビ番組のカメラリハーサルに呼ばれて名札をつけて座ったりする仕事を任されたりします。
今現在のオードリーさんは出演者側なので、自分の役をやってくれている若手芸人さんがいることになります。
そういう状況の時、若林さんは「昔の俺がいる」と思うと話していました。

「世の中を目の敵にしていた過去の自分」がいるからこそ、今になってそいつから見られている気がする、と。
この「昔の自分が苦しめてくる状況」は僕もずっと苦しかったのですが、若林さんの言葉を聴いて整理がつきました。

これ以降、「昔の俺がいる」をネガティブなものと捉えて、これからの自分が避けて通れない道だな….と悲しくもなりました。


16歳の頃に見た夢の景色が実際に目の前にあった。自分をここまで導いてくれた音楽の父に誘われ、そのきっかけの場所で一緒に音楽を鳴らすことができた。
お客さんから割れんばかりの拍手をいただいた。その中には20年前の自分もいるような気がした。
(「細野晴臣」p147, ℓ16 )

ここを読んで、僕の中の「昔の俺がいる」という言葉にポジティブな意味が加わった気がしました。

9.怒りの吐き出し方

p20の「怒り」が僕はとても刺さりました。
怒りを吐き出すことは重要だけど相手に与える負のエネルギーが大きいのでなるべく楽しく面白く吐き出す必要がある、と。

肝に銘じます。

10.記憶が道に焼き付く

星野源さんがあちこちオードリーにゲストとして出演した時、「感情が道に焼き付く」とおっしゃっていました。
歩いている時は考え事をしてしまうことが多く、数年後にそこを通るとその時の感情やそれに付随した記憶も蘇る。
僕は散歩が好きなので、考え事をしすぎているなと思った時は、頭を冷ますために散歩に出かけることもあります。(冬は物理的に頭が冷えるから好き)
昼間に普通にラジオを聴きながら散歩をしたりもしますが、その時に急に考え事がフラッシュバックしてきたりします。

悪い感情だけではないのですが、感情が道に焼き付くというのはすごく分かります。

でも、通るたびに思い出すと思うとどこか億劫な気がしてなりませんでした。


ですが、p196の「文庫版あとがき」を読んで希望が見えました。
詳しくは「いのちの車窓から」を通して読んでみて欲しいのですが、その焼き付いた記憶を”アップデート”することができるらしいんです。

僕も源さんのように”アップデート”できるように頑張ります。

最後に

もう少し書きたいことがあるのですが、エッセイの「感想文」から程遠くなてしまう気がするので後日分けて書きます。

大きく分けると
p168「恋」 の話
p99「人見知り」p102「YELLOW DANCE」p110「おめでとうございます」p186「ひとりではないということ」 の話
の二つです。


#235  『いのちの車窓から』


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