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横浜Love Story 第10話 "恋愛小説で学ぶ中国語"

 現在、amazonで発売中の「横浜Love Story・恋愛小説で学ぶ中国語」は、小説の会話部分に中国語を織り交ぜた新しいカタチの中国語教材です。

 物語に登場する中国語会話を通じてネイティブの使い方を学んだり、日常よく使われる簡単会話を学ぶことができるなど、楽しみながら中国語を学びたい方、外国人との恋愛や年の差恋愛に興味のある方などに必見の内容となっています。

 ここでは、第1章から第3章までの全15話の内、中国語解説を除いた本文ストーリーの一部をご紹介します。

--- これまでのあらすじ ---

 主人公の草間圭は横浜のとある会社の企画部で働く独身33歳。ある日、彼の部署に台湾人の新入社員が配属されてきた。彼女の名前は加藤香織(日本語名)。日本人の母を持つ彼女は、日本語ペラペラの23歳。この10歳も年の離れた新入社員に、草間は一目惚れしてしまったのである。
(著者:りとるけい/中国語監修:YayaLee)

第4話 はじまりはマグニチュード5.0
第5話 過福はあざなえる縄のごとし
第8話 コスモクロックで空中散歩


◇ ◇ ◇ 

第10話 ビールフェスティバル


 氷川丸の前あたりまで歩くと、なにやらイベントをやっているようだった。

「おっ!加藤!世界のビールフェスティバルだ!」

 思わず声をあげてしまった。

啊哈哈哈、草間さん、你喜歡啤酒嗎?」 
※あはは、草間さん、ビール好きなんですかぁ?

嗯嗯,尤其是歐洲的啤酒超好喝的喔」 
※ああ、特にヨーロッパのビールはうまいぞ

我不太能喝啤酒呢」 
※わたしは、ビールは駄目です

這樣啊・・・」 ※そっか・・・

 俺の声のトーンが一気に落ち込んだのに気づいて加藤は大笑いした。

「草間さん、ビール飲んでいきましょうよ」
「いいのか?」
「あははは、もちろんですよ~」

 そうして俺たちは入口でチケットを買ってビールグラスと数枚のコインを受け取った。このコインを各ビールサーバーのところで渡すとグラスにビールを入れてもらえるという仕組みだ。

「俺はな、ベルギービールだ」
「おいしいんですか?」
「おいしいなんてもんじゃない、一度飲んだら他のビールなんか飲めなくなる」

 突然、饒舌になってはしゃぎ出した俺を見て、加藤も上機嫌になってきた。

「加藤も何か飲んでみるといいよ」
「ビールですか~?」
「ああ」
「一度飲んだことがあるんですけど~」
「嫌いか?」
「ははは・・・はい」

 俺は、加藤でも飲めるビールがないかと各ブースを探し、やがてそれを見つけた。

「加藤、これだ」
「フランスのビールですか?」
「そうだ」

--- クローネンブルグ1664 BLANC

「これなら加藤にも飲める」
「え~~~??」
「これ飲んでみろ」
「いや、わたし、ホントだめなんですよ~ビール」

「いいから、だまされたと思って一口飲んでみろ」
「ははは、本当ですかあ~?」
「もしだめだったら俺が飲んでやるから」

 結局、加藤は俺の熱意に負けてクローネンブルグをオーダーした。

 俺たちは、ビールグラスを片手に、景色の良いソファー席に腰かけた。特設ステージでは、JAZZの生演奏が行われている。

「乾杯!」

 恐る恐る、加藤がグラスに口をつける。

 そしてその芳醇な香り漂うフルーティーなビールを口に含んだ瞬間、目を大きく見開いて叫んだ。

「え???なにこれ!おいしい!!!」
「だろう?」
「え?え?え?わたし、はじめてこんなおいしいビール飲みました!」
「ははは、台湾ビールとはぜんぜん味が違うんだよ」

 俺はそう言って、グラスを掲げてグラス越しに空を覗き込むようにしてベルギービールの深い色合いをゆっくり眺めてみた。

「加藤のはフルーティーな黄色で、俺のは濃い茶色だ」
「きれいですね」
「うん・・・楽しいな・・・」

 なんとなく、心に思ったそのままの言葉が口をついて出てきた気がした。加藤は、その傍らで「わたしも」と小さくつぶやいた。

 やがて黄昏が少しずつ紺色の空に吸い込まれるように姿を潜め、うす暗くなってきた場内に灯りがポツリポツリと灯ってきた。

 加藤はひとくち飲むたびに大きな瞳をパチパチさせ、そのたびに長い睫毛が頬に影をつくり、その美しい横顔を俺はほろ酔い気分で、ボーっと眺めながら心地良い時間を過ごしていた。

「こうしていると、普段あれこれつまらないことを考えたりしている自分から解放される気がするな」
「草間さん、普段あれこれつまらないことを考えてるんですか?」

 加藤は、意外そうに笑いながらそう尋ねた。

「ははは、まあな・・・」
「お仕事、大変ですものね・・・」
「う~ん・・・仕事だけじゃなくて、将来のこととかそれなりにな・・・」
「将来のこと?」
「ああ、俺ももう今年33だしな・・・」

 俺はそう言って加藤にグラスをカチッと押しつけた。

「草間さんは、やっぱり大人の男ですね」
「ん?ははは、またそれか?」
「あはは、なんというか、今まで私の周りには草間さんのような人がいなかったので」
「そっか」

「さっき、わたしに無理やりビールを勧めてくれたでしょ?」
「ははは、無理やりな」

「わたし、あんな風に無理やり勧めてもらわなかったら、たぶん一生ビールはまずいと思って生きていくことになっていたかもしれません」
「ははは、確かにそうだな。それはもったいないな」
「はい。世界にはまだまだ私の知らないことがたくさんあって、そういう小さな私の世界を、草間さんは広げてくれるような人だと思います」

--- うれしかった

 俺は思いこむと時々強引なところがあって、さっきも無理強いしすぎたかなと少し反省していたところだった。

 ふたりの間に、心地よい沈黙が流れた。

「加藤」
「はい?」
「あれこれつまらないことを考えるって中国語で何て言うんだ?」
「あ~フースー・ルァンシアンですね」
「え?」
「中国語の成語です」

 加藤はそう言って、ナプキンに中国語を書いて見せてくれた。

--- 胡思亂想

「フーシー・ルァンシャン・・・か・・・」

 俺がまじめな顔をしてゆっくりその四文字を読み上げると、加藤は急に大笑いをして「あ!草間さん!それ、発音マズイですよ!」と叫んだ。

「え??フーシー・ルァンシャン・・・だろ?」

 俺がもう一度大きな声でそう叫ぶと、加藤は「キャ~、だめ!そんなこと、大きな声で言わないでください!」と大慌ての様子だ。

 俺は意味がわからず、「発音違うのか?」と尋ねると、加藤は笑いをこらえながら

「フースー・ルァンシアンです!」とゆっくり発音した。

「草間さんの発音は、全部四声を使っているから “護士亂上” と聞こえるんですよ!」

--- 護士亂上 ???

「なにそれ?どういう意味?」
「看護婦が乱暴されてるっていう意味ですよ~~~」

 加藤はそう言ってまたお腹を抱えて笑いだした。

--- 看護婦が乱暴されてる・・・

 幸い、周りには中国語がわかる人がいないようで、誰一人この卑猥な中国語を大声で叫びまくった俺を非難する人はいなかった。

 そうして俺たちはまたお腹を抱えて笑いあい、俺と加藤の楽しい中国語勉強の一日は、ゆっくりと暮れていったのであった。


「ベルギービールウィークエンド2020」、今年は5月開催予定のようです。

◇ ◇ ◇

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恋愛小説で学ぶ中国語【繁体字】『横浜Love Story』総集編(第1章~3章)

恋愛小説で学ぶ中国語【簡体字】『横浜Love Story』総集編(第1章~3章)

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