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魔法の言葉、良いこと良いこと。

これは今日の朝のお話。

ガシャーン。ぎゃー。くっそー。

コーヒーのお替りを取りに行ってくれた夫。でも、大きな音と珍しくキレイではない言葉がキッチンから聞こえてきた。

朝ごはんを食べていた私と子供たちは、何事?と覗き込む。

最初は何が起きたのか分からなかったけど、カウンターからぽたぽたと何か垂れてきている。

くっそー。倒れたわー。

確かに、倒れたタンブラーがカウンターに横たわっている。しかも、塩やスパイスが並んでいる方に直撃。

と、思ったら、カウンターからバタバタバターとコーヒーが垂れてきた。さながら小さな滝。

しかも、タンブラーとともにフィルターも倒れたから、コーヒーだけじゃなく、黒い粒(コーヒー豆)も着々と床に広がっていく。

くっそー、最悪だ。

カウンターの上だけじゃなく、キッチンの床もどんどん汚れていく。腰の高さはあるカウンターから落ちるもんだから、跳ね返りを受けて夫の足元もビシャビシャになった。

時間にして6秒くらいの出来事。

すくっと立ち上がる息子。その足音をキャッチする夫。

来るな、こっち来んな。この状況だから、座ってて。

若干パニックになっている夫。

コーヒーの滝は落ち着いて、着実に茶色とツブツブゾーンが増えていくキッチンフロア。怒鳴られた息子。ただ見守る次男。そんな様子を見ている私。

こういう時に下手なことを言ってはいけない。こういう時に下手に手を出してはいけない。と、過去の自分が伝えてくる。

「あーすれば良かったのに」と今更なことを言って地雷を踏んだこともある。慌てて雑巾を持ち込んで、さらに惨事を広げたこともある。だから、グッとこらえる。

さて、どうしたら良いものか…と思ったら。

良いこと、良いこと!

と、キッチンの入り口まで駆けつけた長男が発する。え、この状況で。カオスなキッチン&言葉遣いが悪くなるほどに苛立つ人に向けて。

私の中に焦りが湧き出る。まさに「下手なこと」を投げかけて、火に油を注がんでくれ。と思ったら、また小さい口が開く。

(これは)良いこと、良いこと!

だってさ、床を掃除するときには、水分があった方がきれいになるでしょ。いつもそうやって掃除してるもん。

コーヒーの滝が落ち着き、雑巾を片手に掃除し始めた父親に、こんなやさしい言葉がかけられた。

「おぉ、確かにそうだねぇ。これで床がキレイになりそうだね。」
「でしょ。だから、良いこと、良いこと!」

倒れたタンブラーが片付けられ、カウンターの上の掃除が進む。無口な夫。そして、どう見ても惨事が広がっていたキッチンの床に取り掛かる。

口を出さないと思ってたけど、息子のポジティブに乗っかりたくなった。

「コーヒー豆のツブツブって、スクラブみたいだから、いつもよりも床がキレイになるかもしれないね。」
「なんならコーヒーの香りが広がって良いかもしれないね。」
「でしょ、だから、良いこと、良いこと!」

ふと見上げたら、カウンターの上が不要なものはなくなり、ピカピカになり、スパイスたちがパリッと整列している。いつもの3倍キレイ。

そうこうしているうちに、すごかった床もピカピカになった。いつもの5倍キレイ。

「はぁー、キレイになった。でも、ごめん、コーヒーのお替りがなくなっちゃった」

このころには、怒りも消えて、汚れも消えて、夫も長男も朝食のテーブルに戻ってきた。さぁ、みんなで朝ごはんを再開しよう。

「くっそー!最悪」な事件が「良いこと」になった、そんな朝。4歳児の頭の回転に、あっぱれ。


▼母ちゃんはよく怒鳴っちゃうんだけど、息子はやさしいのです。


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