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彼女と恋人の空

 彼女が恋人と四年間以上付き合っていたあの空はずっと青い。

 そんなある日、彼女は自分の夢を追うため、家族・飼っていた二匹の猫・友達、そして恋人も、夕方のそよ風が気持ち良いあの国に残して、一人で日出ずる国に向かった。

 電話やメールなどがあるから大丈夫でしょう、と思い込んで、二人をつなぐ赤い糸の強さに信じていた彼女と恋人は甘かった。

「離れても、同じ空の下にいるから」と、キザなセリフを言いまくっていたあの時の彼女は、恋人を愛していたのだった。

 異境にいる最初の一年間の二人の空はまだ青い。ワクワクする彼女の日々。その日々のストーリーを楽しそうで聞いていた彼女の恋人。そして夏休みが来たら、彼女は帰省して、二時間ほど前に迎えに来て空港で待っている彼女の恋人がいた。そしてまた、夜ご飯を一緒に食べる毎日。週末に一緒に朝ごはんを食べる二人。あの時の夏の空は青より青し。

 夏風のように遠く早く過ぎ去った二年間。

 お互い忙しくなってきた二人の日々。時と距離との二人の戦いは長くて苦しくて、でも少しだけ、楽しいのだ。
「こっちに来る?」そうやって彼女は尋ねたら、
「いいね」と彼の返信。

 彼女は嬉しくて嬉しくてたまらない。また朝ごはんを一緒に食べる日も想像していた。二人の故郷の空がまだ青かったあの時のように。

 それなのに恋人は来なかった。忙しい中、彼女と恋人はもう、話さなくなった。ワクワクする日々の話はもう、話すことも聞くこともなくなった。涙を抑えていた彼女の日々は激しくて苦しくて、痛々しい。しかし、短い時間だった。その時の彼女はもう、恋人を愛していなかったのだ。

 異境に来てから、花びらが地面に舞い落ちるように三年間が経ち、二人のあの空は灰色に変わってしまった。

「ぼくと結婚してくれる?」と、二人の空をもう一度燃えてみたい恋人のその求婚には、彼女は答えられなかった。その時の彼女はもう、恋人を愛していなかったのだ。

 そして忘れることもないあの秋。葉さえまだ赤く色づいていないあの秋に、二人はそれぞれ別の道を行くことに決めた。

 愛しているか、愛していないか、
 の問題じゃない。

 二人はそうなる運命だっただけのことだ。