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2022年8月【Wakanaの本キロク】

見つけてくださりありがとうございます。
ここでは、私が読んだ本を月毎にまとめて紹介しています。皆さまの本選びの参考になれば幸いです。

夏休みの前半が終了、今月はサークルの合宿で伊勢まで行ったり、コロナに罹患してお盆休みが療養で潰れたり、それでも計画していた家族旅行には無事行けたりと、個人的には色々あった月。
9月は大学のゼミ研究のために大量に借りた本を消化していかないとな…とゆるく決意しています、8月の本キロクです。

今月読んだ本

今月読んだのは全部で7冊。
①川上未映子『ヘヴン』
②櫻木みわ『カサンドラのティータイム』
③篠田節子『多肉』
④西尾維新『掟上今日子の家計簿』
⑤凪良ゆう『わたしの美しい庭』
⑥綾瀬まる『ふるえる』
⑦石田夏穂『黄金比の縁』

ぜんぜん違う話だけれど、先月に発表された芥川賞と直木賞のノミネート作品、直木賞のノミネート作品がまだ読み終わらない。とっくに流行というか話題性は弱くなってきているけれどせっかく全作品あるので読み切る…!んで直木賞作紹介noteをぜったい投稿するんだ…!!


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①川上未映子『ヘヴン』

〈わたしたちは仲間です〉——十四歳のある日、同級生からの苛めに耐える〈僕〉は、差出人不明の手紙を受け取る。苛められる者同士が育んだ密やかで無垢な関係はしかし、奇妙に変容していく。葛藤の末に選んだ世界で、僕が見たものとは。善悪や強弱といった価値観の根源を問い、圧倒的な反響を得た著者の新境地。

背表紙より

主人公は、斜視である「僕」と、同級生の女の子である「コジマ」。後半には、僕と、僕を苛める場にいる同級生「百瀬」も物語に絡んでくる。

苛めの場にいる同級生、百瀬との会話のシーンがある。必死に言葉を繋いでいく僕に対して、それを淡々と、また冷酷に切り捨てていく描写が、読んでいて単純にしんどかった。自分が苛められていたときのことを思い出して、もうそれは曖昧だけど、されて嫌だったこととか断片は残ってるわけで、それと重なった。

僕は、生まれつきの「斜視」が自分のアイデンティティなのだと思い始める。また、コジマにも「あなたの目がとてもすき」と言われ、それがずっと残っている。
しかし医者から「手術をすれば斜視が治る」と言われ、しかもそれが安価でしてもらえるということを知った僕は、手術をするかしないかで揺れる。

苛めに屈することなく、自分を貫き、むしろ武器を身につけようとさえしているコジマ。
苛めに疲弊し、自殺が頭をよぎることがあるまでになってしまった僕。
「苛め」という「悪」に対しての彼らの向き合い方が「善」としてなのか「悪」としてなのか、という価値観の違い

僕が、コジマとの関係に気づくときの描写が個人的にすごく好き。僕自身がコジマに対してどんな風に考えているか、思っているかというような直接的な描写はほとんど出てこなくて、最後になって初めて出てくるのが、僕自身がやっとその認識に追いついたことを表しているのかなと感じた。

僕にとって、コジマにとって「ヘヴン」とは何だったのだろう、自分にとっての「ヘヴン」とは何だろう、ということを考えた小説だった。
はっとさせられる言葉がたくさんあって、いつかは分からないけれどきっと私はこの小説をまた読むときが来るんだろうな、と思う。

「人間は寝てても夢を見て、起きてからも夢の中身をああだこうだって考えたりもするし、うるさいね。人間ってさ、なんにも考えないでいられることってあるのかな」

「言葉でああだこうだ話して、それでなんだかんだ問題をいっぱいつくって色々やってるのがこの世界で人間だけだなんて、考えてみればちょっと馬鹿みたいだね」

「・・・・・・生きてるあいだに色々なことの意味がわかることもあるだろうし、・・・・・・死んでから、ああこうだったんだなって、わかることもあると思うの。・・・・・・それに、いつなのかってことはあまり重要じゃなくて、大事なのは、こんなふうな苦しみや悲しみには必ず意味があるってことなのよ」


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②櫻木みわ『カサンドラのティータイム』

友梨奈と未知。
ストーカーの濡れ衣を着せられた友梨奈と、小説を書いて生活をし、気性の荒い夫・彰吾に従順に生きる未知。
彼女たちはふとしたきっかけで生肉加工場で一緒に働くことになって——。

価値観が合わないと、どうにもならないくらいにこじれるのってあり得ないことではない。
人によってモノ・人へのバイアスは必ずかかってるから、それによってある一人の人間に対する考え方が自分が想定していたものとはまったく違っていたときの孤独感は大きいだろうな。
そういう意味で、自分が面識のある人について話す相手が、その人を知らなかったときの説明ってどこからすればいいか迷う。って時ないですか?私だけかな。

相手に嫌われたくない、優しくされたい、だから言われたことはきちんと守る。ぜんぶ自分が悪いからそれを徹底して改める。
だけど本当は「なんで私ばっかり責められなければならないのだろう、相手にも少しくらい非があるのではないか」という気持ちが燻っていて、でもそれを本人にぶつけるわけにはいかない、じゃあ別の形でこの気持ちを昇華させたいと考える。

自分を守るための武器は私にだってあるんだという肉食動物のような威嚇と、相手からの目を常に気にする草食動物のような観察が同時に存在していて、人間誰しもが持っている両者の気持ちが登場人物同士の会話で表されているのがすごいなと思った。登場人物同士の会話が誘導尋問になっているような感覚。

屈辱から逃げるか、立ち向かうか。自分なら、人生においてどっちを選ぶだろう。どっちが正解、っていうのも違う気がする。

本当にたまたまだけれど、『ヘヴン』とも繋がるような考えに至る話だった。連続で読むにはちょっと気持ち的にしんどかった。


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③篠田節子『多肉』

コロナ禍、亡くなった父の店を継いだ裕也。ある日、老人が訪ねてきて「大事に育ててやればお金に変わる」という言葉とともに彼に「アガベ」を渡す。それから彼はアガベを育てることに夢中になっていく。父から受け継いだ店はなくなり、妻子は家を出て行く。一方でアガベは順調に成長を続けていき、アガベにあわせて家を改良していく。

人って、なにかひとつのものに依存したらこんなにも他のことが適当になるのかというのがまざまざと書かれている。多肉植物であるアガベの成長と、裕也の周りから人がいなくなっていく荒廃が対照的。アガベに取り憑かれていく裕也の気持ち悪さが表現されていると思った。

状況設定とか登場人物の情報が最初はかなり薄いから、状況設定とか場面設定を理解するのに時間をかけながら読んだ。でも読み始めたら続きが気になって一気読みした。適度な恐ろしさが味わえて、読後感は結構冷える。夏におすすめ?ぞくりとしたい人向けな話。

最近、アガベの実物を見る機会があって、私はその大きさにぞっとした。これ育ててたのか…と圧倒された。見た目も怪物みたいな感じで、更に嫌な感じが上乗せされてしまった。笑


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④西尾維新『掟上今日子の家計簿』

被害者が殺害された時刻に、容疑者Aは遊園地の脱出ゲームに参加していた。容疑者より速くクリアできれば、アリバイを崩せる——。“最速の刑事”からの依頼を受け、最速の探偵・掟上今日子は謎解きイベントに参加することに。眠ると記憶を失うから守秘義務は絶対厳守、警察も頼る名探偵。大人気ミステリー第7巻!

背表紙より

私が唯一読んでいるミステリーのシリーズ第7巻!早くも!
今回面白かったのは、登場人物の中に事件の容疑者がひとりも登場しなかったこと。文章の中では出てくるけれど、その人たちが実際に話したり動いたりする描写はひとつもなかった。つまり、容疑者の人となりはすべて今日子さんと、今日子さんに事件の解決を依頼した刑事によってしか語られないという構造である。

また、今回は叙述トリックにまんまと騙された短編がひとつあって、あああなるほど!とかなり予想の斜め上を行かれた。あんなに解説されてからのこの短編...そうなんです今回は叙述トリックについて今日子さんからみっちり解説してもらえます。私は超勉強になった。
次回作は『掟上今日子の忍法帖』だって。楽しみすぎる、いつも文庫化されてから買うから、本屋さんで見かけたら買おう。


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⑤凪良ゆう『わたしの美しい庭』

小学生の百音は統理とふたり暮らしだが、血はつながっていない。朝になると同じマンションに住む路有が遊びにきて、三人でごはんを食べる。その生活を“変わってる”という人もいるけれど、日々楽しく過ごしている。
三人が住むマンションの屋上には小さな神社があり、地元の人からは『屋上神社』などと呼ばれている。断ち物の神さまが祀られていて、悪いご縁を断ち切ってくれるといい“いろんなもの”が心に絡んでしまった人がやってくるが——

背表紙より

「ずっと鍵をしてきた気持ちを開け放してすっきりしている。だけど不安や怖い気持ちが消えたわけじゃない。隣に誰もいないこと。ずっとひとりで生きていくかもしれないこと。不幸な人だと指さされること、かわいそうな人という目で見られることが怖かった。それは今も変わらず不安なままで、けれどそういうわたしを。わたしだけは受け入れてあげようと思う。
わたしは不幸かもしれない。
わたしはかわいそうかもしれない。
けれどわたしの中には、たった一度の雷鳴が今も響いている。
たった一度の恋が、永遠になってもいいじゃない。
誰かに証す必要なんてなく、わたしはわたしを生きていけばいい
。」

「なにかを捨てたからといって身軽になるわけじゃない。
代わりになにかを背負うことになって、結局荷物の重さは変わらない。
だったら何を持つかくらいは自分で決めたい。」

生きづらさを抱える人々が、縁切り神社ならぬ「屋上神社」へ足を運び、もしくはその神社を守る統理、百音、路有(ろう)と出会い、自分なりの答えを見つけていく物語。

屋上神社と結びついていく話ではあるけれど、「屋上神社」という要素に頼りきっているのではなくて、それぞれの登場人物が自力で答えを見つけていく姿勢が多く描かれていたのがよかった。

生きづらいけれど、わたしらしく生きる。難しいことで、なかなかそれを具現化するのって体力も精神力もいる。自分なりにどう向き合う?どう向き合っていく?という気持ちが登場人物ごとに描かれていて、繊細な気持ちが表されているなと感じた。

自分が大切にしたいことって何だろう、って考えるきっかけになった。


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⑥綾瀬まる『ふるえる』

恋をしたら、体内に「石」が生まれる世界。恋をした相手と石を交換し、お互いの石が共鳴して震えれば、その人と結ばれる。
私は同じ会社で働く年上の同僚・シライさんの指が頭から離れなくなり、石を交換してほしいとお願いする。

短編。彩瀬まるさんは存在は知っていて、でも読んだのは初めましての作家さん!今回は短編だったけれど、次は機会があったら他の本も読んでみたいな!

この話は物語の設定が独特。体内の石が交換できるかどうか、恋をした相手に石が芽生えているかどうかで恋の成就の有無が決まる。ここでの「石」は、自分にとっての第二の命のようなものなのかなと感じた。


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⑦石田夏穂『黄金比の縁』

とある事件によって人事部に異動した私・小野は、会社への復讐としてある学生を多く採用するようになる。それは、顔が「黄金比」である学生だった。

本って、たとえば積ん読とかしていても、読むべきタイミングみたいなものがあるっていう話をどこかで聞いたことがあるんだけれど、これについては読むタイミングミスったかもしれん...絶賛就活中の私にとっては、あぁぁ私は人事の人にこんな風に見られてるのかもしれないのか、と、見てはいけないようなものを見てしまった気分になった。

石田夏穂さんも初めましての作家さん。『我が友、スミス』ですごく話題になっていたのは知っていたけれど、本を読むのはこれが初めて。

すごく痛快な文章を書くなという印象を受けた。世の中の状況を風刺的に述べたり皮肉ったりしているのが痛快。たしかに、って思わざるを得ない。皆が言うのを遠慮しているようなことをずけずけと言うような感じ。下に書いたのは引用だけれど、これも痛快。ここまで来るともはやすっきりする。↓

「結局のところ、我々の人選はフィーリングに墜ちる。悲しいかな、我々が『総合的に判断します』と言ったら、それは実質『何となくで決めます』と言っているに等しい。そんな次元で物事が決まるのが惨い。我々は常套句として『選考に関するお問い合わせには一切お答えできません』とは言うが、ガキじゃあるまいに、そんな寝言を吐くのは本来おかしい。自分の判断を対外的に説明できないのは、それが真っ当な判断ではないからだ。」

「いやしくも『縁』と表現することにより、誤魔化される生臭さがある。『縁』により蓋をされ、丸め込まれる罪深さがある。だって、それは『縁』などではないのだ。他でもない採用担当、お前自身が、ジャッジしているんじゃないか。」


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今月の総括

今月は文芸誌に載っているものを結構読んだ。今まであんまり文芸誌買ってこなかったんだけど、作家さんの最新作を書籍化する前に読めるとか、対談の企画とか、自分が興味のあるものがいくつか入っているものは買うようになった。超お得じゃん!と思って。
個人的には、文学YouTuberをされている梨ちゃんさんの「今月の文芸誌どれ買う?」動画がとても好き!

9月は、早速もう本を買いたい欲が爆発(?)して、色々買ってしまったのでそれを読みつつ、積ん読を消化しつつ、他にもやらないといけないことをやって...という1ヶ月になりそう。もうすぐ大学も再開だ!

それではまた。☀️

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