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ローカル組織の採用には「藻場づくり」が必要説

ローカルには面白いチャレンジの場がどんどん広がっている。それもそのはず、この10年間で土の人と風の人が混ざり合い、地域の課題を解決するための多くの事業が芽吹いているからだ。

そうして生まれたローカル組織は、事業を着実に成長させ、新しい仲間を増やしながら地域から新しい価値を生み出し続けている。

最近、グリーンジョブで「採用寿司」というランチ企画を始めた。採用担当者の皆さんと、寿司を食べながら採用課題を聞かせてもらいながら、一緒に「どうすんべか」を考えるオンライン交流会だ。

なお、特に寿司である理由はない。でも寿司美味しいし、寿司食べてたら悩み解決するんじゃないかと思っています。

先週は島根県松江市に本拠地を置く「一般社団法人地域・教育魅力化プラットフォーム」とお話した。島根の離島・海士町の隠岐島前高校から始まった高校魅力化の取り組みを全国に広げるべく活動している団体だ。社会変革を教育の現場から取り組む。団体には非常に優秀な仲間が集っていて、こんな環境で働けたら、自身の成長に直結するだろうなと感じた。


「母集団」はどうやったらつくれるのか?

さて、そんな素晴らしいローカル組織でも、採用については悩みがある。リファラル採用や採用プラットフォームは概ねやり尽くした上で「どうやったら、うちの組織で働くことに関心を持つ人が集まる母集団を形成できるのか?」という悩みだ。これは、どんなローカル組織にも共通する課題だと思う。

前提として、ローカル組織(企業・自治体)が「移住前提」で都会の人を採用することは難易度がめちゃくちゃ高い。「暮らす場所を変える」と「仕事を変える」という2大ライフイベントを同時にお願いするからだ(笑)その人に家族がいれば、より一層意思決定は難しくなる。

さらにはこの10年間で、少し背中を押されれば地域に飛び込んでしまうような変態人材は結構動いてしまった感覚もある。実際、地域おこし協力隊の採用は年々難易度が高まっている。

この採用課題の解決策を考えるためにざっくり図をつくってみた。ローカル組織の採用活動を「組織における関係性の濃い/薄い」と「転職ニーズが顕在的/潜在的」の2軸でマッピングしてみたものだ。

多くの採用活動は「顕在的な転職ニーズ」にアプローチするに留まる

リファラル、採用説明会、求人メディア利用といった直接的な採用活動は「顕在的な転職ニーズ」にアプローチしていくものだ。漁業に例えるなら、近海から遠洋にいたるまで脂の乗った魚のいる漁場にえいやえいやと網を投げるようなものだ。

顕在的な転職ニーズに網を投げ続けるの図

・・・だが、しかし。その海は、自分たちだけの海ではない。他の組織もいい人に出会うべく必死に網を投げ続けている。その結果「顕在的な転職ニーズ」は大方捕り尽くしてしまい、投げても投げても狙った獲物が捕れない海になってしまってはいないか?実際、日本の海もそうだ。サンマもニシンも捕れない。

ちゃんと「藻場」育ててる?

さて、豊かな海をつくるためには何が必要だろう?必要なのは魚たちが育つ環境をつくってあげることだ。たとえば、沿岸部に稚魚が成育できるような「藻場」をつくることだ。海藻の株を植え、その藻場に栄養豊かなキレイな水が流れ込むように荒れた山を整備すれば、時間をかけて藻場は育ち、多くの魚種の子どもたちがすくすく育つ環境になる。ちゃんと人が手を入れれば、豊かな生態系は回復できるのだ。

藻場は一日にしてならず。

さて、採用課題の話に戻る。「どうやったら母集団形成できるのか?」という「どうやったら藻場をつくれるのか?」という話と同義なのではないかと思う。

「転職ニーズは潜在的」かつ「組織との関係性も薄い」という、一見すぐには採用に直結しない領域を「藻場」のように長期でしっかり育てることで、実際の採用活動を始めたときに、いい人に出会える可能性も高まると考えている。藻場を通じて「関係性を豊かにする」のだ。

長い目線で「藻場」を育てることが採用活動には不可欠ではないだろうか?

実際、グリーンズジョブでの採用支援の経験上、採用活動を始めた時にすぐに反応があったり、いい人に出会える組織は、組織または地域が「藻場」的な取り組みを続けていたところに多い気がしている。

※ここで少し話を補足をする。一般的な都会企業で年収も待遇もそれなりに良い会社であるなら「雇用条件」を全面に押し出して、採用活動にお金を掛けて、顕在的な転職ニーズだけを捕りに行くパワープレイができるのだが、ローカル企業においては年収が上がることは稀で、転職には移住を伴うというハードコアな条件かつ、採用予算も潤沢にないので、都会企業のようなパワープレイができない。だからこそ藻場をじっくり育てることの重要性が高いのではないかと思う。

藻場づくりは「事業テーマ」と「個人の関心」の間に

それじゃあ「そんな藻場をどうやったら育てられるんだよ?」という話になる。藻場というのは「海水に淡水が混じる沿岸部」に広がることが多い。「境」には海藻が生育するために必要な栄養素が豊富だからだ。

水産庁の「藻場の働きと現状」より画像引用。海と陸の栄養が混じるところに藻場は育つ

これを採用活動で捉えるなら「組織の事業テーマと、個人の関心が混じる領域」と設定できるのではないだろうか。この重なる領域で「イベント」「スクール」「コミュニティ」のようなものを継続的に実施していくことが採用活動における「藻場づくり」だと考えている。

重なるから豊かな場になる。

幸いにも現在は、おそらく戦後で最も「都会から地方に関心が向いている」時代。都会側の人の関心を把握できていれば、集まってくれる。そんな「藻場づくり」を上手に行っていると感じる事例をいくつか紹介しよう。

伊那谷フォレストカレッジ

伊那谷フォレストカレッジ」は長野県伊那市と、森と暮らしをつくる会社「株式会社やまとわ」が開催するスクールだ。目的は『業界を超えて、森と暮らしをつなぐ担い手を増やし、森に関わる100の仕事をつくる』こと。

2020年度に開始し、今年で2年目。初年度は定員40名で募集したところ応募が殺到し、定員の倍の80名でキックオフ。オンライン聴講生も300人以上も申し込みがあったそうだ(驚愕)

このプログラムが素晴らしいのは「伊那の地域課題の解決」というテーマ設定をしていないところだ。

『業界を超えて森の価値を再発見、再編集することを目指す「森の学び舎」』と標榜しているように、別に伊那に直接関わらなくても、林業経営やものづくり、木のある暮らしについてそれぞれが取り組んで良い。伊那側はあくまで、学びのための資源・素材を地域として提供するというスタンスだ。

都会側の受講生の大半は最初は「長野県伊那市に特別に興味があるわけではない」という感じだろうが「森に関わる仕事&暮らしにめっちゃ興味がある」人が集まっているのだと思う。

このプログラムは、採用を目的とした企画ではないが、受講生はやまとわをはじめとして伊那ローカル企業との関わりが生まれたり、地域との縁ができることで移住先の候補にも入ってくるだろう。そういう意味でまさに理想的な「藻場」に育っていると思う。単年度で終わらないという点においても。

※補足:「地域課題解決」を全面に押したプログラムも大事なのだが、そうするとその地域に関心のある人しかエントリーしないので「藻場」型にはなりづらいと考える。


いすみローカル起業プロジェクト

グリーンズの事例もひとつ紹介したい。「いすみローカル起業プロジェクト」は共同代表・菜央さんが、自らが暮らす千葉県いすみ市の移住・起業促進として3年間取り組んだプロジェクトだ。

連載、イベント、ワークショップ、コミュニティプログラムなど、geenzの得意技を複合的に組み合わせて取り組んだ結果、3年で11名が移住し、参加者から18の新規事業が立ち上がるという目覚ましい成果に繋がった。お互いに地域起業や小商いを始めることを応援する「ローカル起業部」には114名が参加した。

これも「採用」を目的としたプログラムではないが「都会側の入り口」として取り組んでいた企画に今回のヒントがありそうなので紹介したい。

「コミュニティで仕事をつくる、自由な生き方」
「本当のローカルってなんだろう シアトル、トットネス、いすみを題材に考える」

メインプログラム参加者を募るために、主に東京で暮らす人を対象にトークイベントを実施していた。テーマに置いているのは「コミュニティで仕事をつくる」「自由な生き方」「ローカル経済」といった切り口。あえて「いすみでの暮らし」という打ち出し方をしていないのが大事。あくまでひとつの題材くらいの位置づけだ。広めのテーマ設定のおかげで毎回満員御礼なイベントとなって、この参加者からメインプログラムに参加する人も多かった。

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というわけで、都会の人を地域に惹きつけるための「藻場」的な取り組みを2つほど紹介させてもらった。「藻場づくりってそういうことか」と理解してもらえたら嬉しい。

ローカル企業が「藻場」をつくるためには、上記事例のように自治体としっかり組んで、自社の採用だけではない様々な収穫が地域でできるような仕組みにするのも良いかもしれない。

もちろん自社だけでイベントやスクールを企画運営できれば素晴らしいのだが、都会の関心と重ねるためにも、都会側の感覚を持ち合わせていることは必須要件になると思う。そのような編集的な視点を持つ人と組むこともひとつの案だろう。

これもまた「長野の山」事例だが、Huuuuの皆さんが企画運営されている「孜孜忽忽」もまさにそういったヒントになるイベントだと思う。ちょうど本日から4日間連続開催!

グリーンズジョブでも、採用を目的としつつも多くの人に関心を持ってもらえるようなトークイベントの企画運営も行っている。ローカル企業や自治体の「藻場づくり」に貢献できていると思う。​

ただ、グリーンズジョブとしては、1回限りのイベントではなく2〜3ヶ月間で実施する「スクール」形式の「藻場づくり」も実施してみたいと妄想している。事業テーマと関心が重なる領域を、組織も個人も共に探究するような場にしたい。

また、僕たちがすでに取り組んでいる「グリーンズジョブコミュニティ」も藻場的なアプローチだと思う。Slackで運営しているオープンコミュニティで、自身のキャリアや働き方について考えたい人が240名も参加してくれている!お互いの「トランジション」を支え合うコミュニティに育ってきている。今後も直接的な採用活動の場にはしない予定だ。

240名が参加する「グリーンズジョブコミュニティ」には日々、お悩みごとが寄せられる。

というわけで、ローカル組織の採用活動における「藻場づくり」のお話でした。グリーンズジョブでは「ローカル・ソーシャル・サステナビリティ」の3軸で採用支援を頑張ってます!ご興味ある方は気軽にご相談ください。

植原正太郎 NPO法人グリーンズ 共同代表
いかしあう社会づくりのヒントを発信するWEBマガジン「greenz.jp」を運営するNPOグリーンズで健やかな経営と事業づくりに励んでます。2021年5月に家族で熊本県南阿蘇村に移住。暇さえあれば釣りがしたい二児の父。

Twitterやってます。よかったらフォローしてね→ @little_shotaro

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