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映画『ソウルに帰る』フランスで養子として育った女性が初めて出生地の韓国へ

韓国で生まれて間もなくフランスに養子に出され、生物学上の両親を知らずに韓国語を習うこともなく育った25歳の女性が、ひょんなことから初めてソウルを訪れる。そこで知り合ったフランス語を話す女性の協力を得て、実の両親を捜そうとするがーー。

韓国とフランスの描き方に少しステレオタイプ的なところもあるのだろうかとも思いつつ、それよりも主人公の個性が際立つ映画だ。

※以下ネタバレ注意。

作家でもあるグカ・ハンが演じたテナは、ヴィジュアルアーティストだというパク・ジミンが演じた主人公フレディに対して親身になる存在だったが、フレディへの最後の言葉が「あなたはかわいそうな人」で、その後二度と会うことがなかったのなら少し悲しい。

予測していたよりも長期間の物語を描いており、生物学上の父親へのフレディの心境の変化なども興味深かった。その変化は、例えばフレディが父親に「触るな」とフランス語で叫んだところから数年後に今度は韓国語でそっと(事故の傷跡を)「触って」という場面などに象徴的に表れる。

フレディがフランスにいる場面は出てこないが、フレディが生物学上の父親の家族に見せた自分の成長過程の写真と、フレディとフランスの母親がビデオ通話する場面とで、フレディがフランスでもおそらく疎外感を持つことがあるのだろうと感じさせる。(フランスの母親や親戚は白人であることが描かれ、名字もいかにも伝統的な(?)フランス人っぽい「ブノワ」)

翻訳(通訳)による「ずれ」も丁寧に描かれている。通訳者(の役割を務める人)が、韓国人に気を遣ってフレディの言葉を穏当に訳したりむしろ結構変えたり一部省略したり、あまり流ちょうでないために「ショッキング」を「悲しい」と訳してフレディに伝えてしまったり。

フレディが兵器を売る会社に勤めて、「韓国にミサイルを売る仕事をするのは北朝鮮から韓国を守るためであり、それは私の運命」と考えるのは、的外れで悪いジョークのようだが、あえてなのかどうなのか。しかし、フレディが養子縁組の資料を見て、朝鮮戦争のときに外国へ養子に出されるこの数が増えたというデータを知る場面があったので、それを踏まえているのか。

オープニングでソウルのゲストハウスにチェックインするフレディはパスポートを出し、「フランス人なのですね」と言われる。その後、そう言ったゲストハウスの従業員と食事をするフレディは、「初見演奏って知ってる?」と聞く。そして、少々羽目を外す。

ラストでもホテルにチェックインするフレディがパスポートを出し、その後ピアノの初見演奏をする。そのときのパスポートの色が緑色に見えたのは気のせいだろうか??フランスのパスポートは赤っぽい色で、韓国のパスポートは深緑色(最近青色になったらしいが)。しかし、フレディが韓国国籍にするとは考えにくいか?そのホテルでフレディが生物学上の母親に送ったメールに自分の韓国名ヨニを記しているのも、韓国の母親に向けているからというだけなのか。韓国国籍への切り替えが実際可能なのかもわからないし、と思ったが、2011年以降、韓国は重国籍を認めているらしい(フレディの場合に認められるのかはわからないが)。もう一度映画を見てその場面のパスポートの色を確認しないと何とも言えない・・・。

フレディ(ヨニ)の周囲には人が集まるようだが、実は誰にも気を許さず誰とも親密な関係を結んでいないように思える。それでも、ラストシーンの初見演奏のように、何があっても果敢に強く人生に挑んでいくのかもしれない。

監督はカンボジア系フランス人で、友人の話を基に本作を構想したという。第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品作品。第23回東京フィルメックスのコンペティション部門で審査員特別賞受賞。

作品情報

仏題:Retour à Seoul、英題:Return to Seoul
監督・脚本:ダヴィ・シュー
撮影:トーマス・ファヴェル
編集:ドゥニア・シチョフ 
出演:パク・ジミン、オ・グァンロク、キム・ソニョン、グカ・ハン、ヨアン・ジマー、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン 
配給:イーニッド・フィルム
2022年/フランス、ドイツ、ベルギー、カンボジア、カタール/119分/カラー
字幕翻訳:橋本裕充
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本


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