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『国籍と遺書、兄への手紙―ルーツを巡る旅の先に』安田菜津紀著

父の死後、高校2年生のときに戸籍を見て父が韓国籍(在日コリアン2世)だったと知ったフォトジャーナリストの著者が、父、兄、祖父母などの足跡を探り、自身のルーツをたどる過程を語る本。

思い出の家族写真や、著者が撮影したカラー写真も収録されている。

本書冒頭から暗示され、後半で明示される、兄と父が相次いで自死した事実も重い。

 この「もしも」を突き詰めると、複雑な思いになります。すべての時計を巻き戻し、戦争が起きて自分が生まれる世界の運命と、戦争が起きず私が生まれない道が選べるなら、私は後者を選びたい、と思うことがあります。

『国籍と遺書、兄への手紙―ルーツを巡る旅の先に』p. 201

 なぜ自分は、父をこの世につなぎとめるための「命の重し」になれなかったのか。絵本を読んでくれたとき、父に放った言葉もまた、父を追い詰めたのではないかーー私自身もそうした思いをぬぐえずに生きてきた。
 そんなあるとき出会ったのが、兄への手紙にも綴った、自殺対策のポスターの標語だった。
「弱かったのは、個人ではなく、社会の支えでした」
 この言葉に触れて私は初めて、視点を変え、「社会」の側にも目を向けることができるようになった。

『国籍と遺書、兄への手紙―ルーツを巡る旅の先に』p. 211

自死はゼロにはならないかもしれないが、社会を変えることで防げていけたらと願う。


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