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『純粋な人間たち』モハメド・ムブガル=サール著、平野暁人訳

僕はかねてから、人間性というものはその人が暴力の円環に足を踏み入れた瞬間から揺るぎないものになると考えてきた。加害者として、被害者として。狩る者としてあるいは狩られる者として。殺す者としてもしくはその餌食として。(p. 143)

『純粋な人間たち』モハメド・ムブガル=サール著、平野暁人訳、英治出版、2022年

セネガルで文学を教える30代の男性教員が、国中を騒がせている動画を見たことをきっかけに、国内で激しく弾劾されている同性愛の問題に向き合うことになる物語。

著者は、本書とは別の著書がフランスのゴンクール賞を受賞している。1990年セネガル生まれ、現在はフランスの博士課程に在籍中。

冒頭に引用した文章について、考えさせられる。本書には直接的に身体に加える暴力も出てくるが、ほかにもあらゆる形の「暴力」が描かれている。私は身体的な暴力は振るったことがないが、言葉や振る舞いで人に対して暴力を振るっていることもあるのだろう。故意ではないが、無意識な暴力も罪は重い。親しい人や身近な人、大切に思っている人ほど、自分の行為で強く傷つけやすいのかもしれない。しかし、傷つけ得ることを抱えながら共にあろうとすることが、人間であるということなのかもしれない。

とても読みやすい翻訳だ。なじみのない文化圏における深刻なテーマを扱っている小説だが、読み進めやすいし、よかれあしかれ遠い出来事とも感じない。


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