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小㞍健太ダンスパフォーマンス『Study for Self/portrait 2020』

オランダのコンテンポラリーダンスカンパニー「ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)」で踊り、現在はDance Base Yokohama(DaBY)でダンスエバンジェリストとしても活動する小㞍健太氏のダンスパフォーマンス。

Dance Base Yokohama主催公演。東京のオランダ王国大使公邸の内部で行われ、YouTubeでライブ配信された。

公邸前で、雨が降る中、駐日オランダ大使のPeter van der Vliet(ペーター ファン・デル・フリート)氏と、DaBYアーティスティックディレクターの唐津絵理氏があいさつ。その後、公邸の内部が映し出され(壁に掛かっていたゴッホの『ひまわり』の絵は本物なのか?!)、間もなく公演開始。20~30人くらいの観客が見守る。

2017年に原美術館で行われたパフォーマンスを初演とする再演だが、構成などは初演に近いものの、「今」感じること、まさにタイトルどおり今の小㞍氏の思いと会場である空間からの影響を反映した作品になっている。

白いシャツに黒いズボンで、足元はバレエシューズ、スニーカー、はだしなどに履き替え(脱いで)いく。主に3つのパートに分かれ、真ん中のパートではマイクを装着して、踊りながら言葉を発する(ほぼ同じ内容を日本語と英語で)。後半で、庭へと続いているように見える、大きな窓を開け放つ。

着替える様子や立ち姿も美しい。

上演後のあいさつでご本人もおっしゃっていたように、「いかにも踊っています」というように高度なテクニックを見せつけるダンスではなく、内なる気付きに反応していくような動きの連なり。

もちろん高度な身体性とテクニックをお持ちなのだが、ご本人が作る作品は、それをひけらかすようなタイプのものではなく、自身やいろいろなものと向き合って対話しているように見える。その真摯さが好きだ。

上演中に語っていたのは、オランダ滞在中に日本でお父さまが亡くなり、そのことを受け入れるのに7年かかったということ。その原因は、オランダにいる自分と日本にいる自分を結び付けられず、自身が分離・分裂していたこと、そのためにオランダにいる自分が日本でお父さまがいなくなってしまったことをきちんとのみ込めなかったというようなことらしい。

しかし、このオランダ王国大使公邸を訪れたときに、オランダにいるような空間なのに日本にいる、という状況になり、オランダの自分と日本の自分との間に接点を見つけられたそうだ。公演中にこのことを語り、公演後のあいさつでも補足していた。

公演後のあいさつでは、自然光や空間を生かした演出にしたこと、画家が自画像を描くようにダンスで自分を表現しようとする作品であること、公演中の言葉はおとといくらいに書き出して入れることにしたこと、話すのも身体表現であるから、今後もいろいろな表現の仕方をしていきたいこと、人々が観客としてダンスを見てダンサーやダンスを応援していってほしいと願っていることなども、おっしゃっていた。

「親の死」がテーマの一つとなっていることは事前にわからなかったので、不意を突かれてなかなかの衝撃を受けた。日本とヨーロッパは遠いから、日本で何かあっても、どんなに急いで駆け付けても物理的に間に合わない。その想像をする状況には私もいたことがあるので、その恐怖がよみがえる。

ただ、いつ何時、何があるかは誰にも予測できないし、人生をコントロールすることはできない。だからある程度割り切って行動するしかないのだが、実際に起こったら「仕方ない」とは当然受け流せない。今ならZoomとかでつなぐことになるのかもしれないが、直接同じ場にいるのとは違うことは言うまでもない。

こうした思考も想起されるし、動きに関してもずっと見ていられる作品。配信での鑑賞だが、そこで踊ってくださっていることが、尊く感じられる。

▼原美術館での初演について

作品情報

『Study for Self/portrait 2020』
開催日時:2020年9月13日(日)17:00~18:00
初演:2017年、原美術館
出演・構成:小㞍健太
サウンド:森永泰弘
使用楽曲:J.S.バッハ「Goldberg Variations BWV 988 Aria」
衣装協力:matohu(堀畑裕之、関口真希子)


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