『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ著:気持ち悪い小説

本屋大賞を受賞し、新聞でよい小説だと紹介されていたので、興味を持って読んだのだが、ひどい話だった。吐きそうになるくらい気持ち悪かったが、我慢して最後まで読んだ。この本への批判的な感想が少ないのであれば、不思議で仕方がない。

虐待を受けて苦しんだ若い女性が、トランスジェンダーの友人の愛を搾取し、虐待されている13歳の少年と出会って、贖罪のためと助けたつもりでいて、少年に助けられ、今後はその少年に自分のすべてを背負わせるのか、という予感で終わるストーリー。

虐待の描写は、きっと取材をしたのだろうと思わせるもので、その部分はきちんと書けているのではないかと思ったし、書かれた意味もあったと思う。(ただしこれは虐待の被害者ではない私の印象にすぎない)

でも物語はひど過ぎる。主人公の高校時代の同級生も含め、主人公を救済するために周囲の人間が存在していて、主人公を中心に世界が回っているような具合だ。

26歳の主人公が13歳の少年と出会い、一緒に暮らそうとする。それまでにさんざん恋愛的な展開があっただけに、もしやこの2人もゆくゆくは恋人関係になることが想定されてるのか?と考えると、胸がむかむかしてくる。愛情の顔をした、虐待されている方も虐待と気付かない形の虐待にならないか心配だ。

主人公も少年も「容姿が美しい」とされ、やたらとそのことが強調されているのも気色悪い。もし「醜かった」らどういう展開になっていたんでしょうね?と思わずにいられない。

作家はインタビューで子どもの頃にいじめられた経験を語っているが、つらい目に遭った人がつらい目に遭う人の小説を書いてひどい作品になることもある、という当たり前のことを再認識した。

この作家の本を読むのはこれが初めてだが、よほどのことがない限りほかの本は読まないだろう。この本のことも二度と考えたくない。

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