norocトンボなし

水中めがね∞、田村興一郎、Noroc、Von・noズ「吉祥寺ダンスリライト vol.1」吉祥寺シアター

「ダンスリライト」は、吉祥寺シアターが、総合ディレクターに北尾亘氏(Baobab)を迎えて始動させた、コンテンポラリーダンスの若手クリエイター(振付家、ダンサー)たちを紹介するプロジェクト。その第1回の公演が行われた。

「リライト」には、今のダンスを「上書き」していくという思いが込められているそうだ。出演団体は北尾亘氏と吉祥寺シアターが選出。選出基準としたのは、1. 身体性、2. 空間性、3. 将来性(継続性)だったとのこと。

今後も公演を継続し、また、「吉祥寺シアターダンサーズリンク」というネットワークを作り、ダンス情報の提供やイベントなどを開催予定だとか。このネットワークには、ダンサーやダンスに関心のある人なら、誰でも登録できるようだ。

公演に先駆けて、出演する4団体はそれぞれ、吉祥寺シアターの稽古場でイントロイベントを開催。誰でも(公演のチケットを買っていなくても)参加でき、無料。ダンス未経験者OKのダンスワークショップや、上演作品のクリエーションに関するトーク、懇親会などが行われた。

公演は下記のAプログラムとBプログラムが各2回行われた。上演時間は各作品が約30分。

A:水中めがね∞、Noroc
B:田村興一郎、Von・noズ

各回で、出演したクリエイターと、ゲストを迎え、アフタートークも行われた。アフタートークのゲストは、1日目がダンサー・振付家の岩渕貞太氏、2日目が本企画の総合ディレクターである北尾亘氏、3日目が舞踊研究家で愛媛大学講師の越智雄磨氏。

Noroc「愛とか知らない」

振付・演出・出演:貝ヶ石奈美
出演・振付:奥響子、佐野加奈、長島裕輔、藤村港平、山井絵里奈、涌田悠サックス:Sohei Narita
協力:スタジオアーキタンツ
衣装:小幡佐枝子

ピナ・バウシュのタンツテアターの流れをくむワークショップで結成されたグループだそうで、今回の作品にも、その香りが出ていた。創作過程も、ピナのように、ダンサーから動きを引き出す手法を取っているそう。テーマ(タスク、課題)からフレーズ(動き)を作り、それを組み合わせていくスタイル。

ダンサーたちはみんなテクニックが高く、出会い、愛と生の喜びと悲しみ、そして死(葬送のような場面が印象的)が描かれている。動きが丁寧で真摯。具体的なストーリーがあるわけではないが、物語性が浮かび上がってくる。何より、楽しそうに踊っているのがいい。

「運命」を思わせる赤い糸(ひも)や、「生や喜びのはかなさ」を思わせる風船などの小道具も、効果的に使われていた。

かなり好みのタイプという気がするので、今後の公演も見たい。

水中めがね∞「my choice, my body,」

振付・演出・出演:中川絢音(水中めがね∞)
出演:根本紳平(水中めがね∞)、松隈加奈(水中めがね∞)、浅野郁哉、大久保望、肥沼勇人、住玲衣奈、松本知道(GUSHOUT)
楽曲提供:TAEIL
演出助手:水口愛那

グループ名はよく聞くので気になっていたが、今回が初鑑賞。この作品は、15分や10分のバージョンを作った後、今回の30分バージョンにしたそうだ。

能の仮面のような仮面を着け、裸になり、着替える。舞台の手前と奥の空間の使い方が面白かった。奥の空間は、観客に見えていながら、少し「舞台裏」のような扱いというか。太めのダンサーもいて、たらいに水を張ってその中に顔を突っ込んだり、自爆(テロ)という意味の言葉が入った英語の歌で、人を撃つ動作をしたりするなど、生々しく挑戦的。

インパクトはあるが、好きとは思えなかったのだが、人気のグループで、チケットが売れたらしい。はまる観客もいるのかもしれない。

Von・noズ「ペレックー春の祭典 四重奏ー」

振付・演出・構成・出演:上村有紀、久保佳絵
出演:中村駿、仁田晶凱
衣装スタイリスト:佳乃
作曲:イーゴリ・ストラヴィンスキー

バレエ・リュスの公演としてニジンスキーの振付で初演されて以来、モーリス・ベジャールやピナ・バウシュなどが振り付けてきた楽曲を使った意欲作。タイトルの「ペレック」は、フランスの小説家、ジョルジュ・ペレックの本にある言葉を、クリエーションで用いたことから。

改めてすごくいい曲だと思う。このハードな曲を4人で踊るのはなかなか大変そう。「生贄」となる人物を選ばず、互いを責め合ったり、攻撃したり、協力したりする、「共同」の解釈か。「犠牲者」を出さない、という優しさは、臆病さでもあるかもしれない。しかしそれはやはり優しさで、クリエイターたちの性格に合うものなのだろう。

西洋的な責任の所在をはっきりさせる立場と、日本的な悪く言えば「なあなあ」で「みんなで一緒に」的な対比も感じた。もっとも、オリジナルのストラヴィンスキーやニジンスキーは、西ヨーロッパではなく東ヨーロッパの考え方を持っていたと思われるが。

ところどころ観客を集中させる緊張感のあるシーンもあるが、全体的にまだ粗削りで、手探りしているような状態に見える。それぞれが違う動きをするところで、ただわらわらと動いているように見えたり、おそらく全員でそろえるはずの動きでそろっていなかったりもした。ラストシーンも、納得感はあまりなかった。それが狙いなら、それでいいのかもしれないが。

今回が初演なので、今後、磨いていってほしい。

中村駿氏は、久保佳絵氏とともに森下スタンド「ベートーヴェン交響曲第9番全楽章を踊る」に出ていて、仁田晶凱氏は、Co.山田うんの作品に出演している。

田村興一郎「goes」

振付・構成・演出・出演:田村興一郎
出演:Alan Sinandja
振付助手:黒田勇
協力:NPO法人 Dance BOX

アフリカ(のトーゴ共和国?)出身のダンサーとのデュオ。2人でタイヤにはまったり、タイヤを転がしてそれを受け取り合ったり、口笛で互いに振付の指示を与えたりする。舞台奥の空間にシャッターを途中まで下ろして、1人が足だけ見せて動き回りながら話し、もう1人が舞台手前で動く場面では、言葉は、Alan氏が標準のフランス語と出身地で話されているフランス語、田村氏が日本語と英語。最後は、2人が、互いが自分の言語で話し、推測しながら会話する。

アフタートークで田村氏が語っていたように、メッセージはシンプル。おそらく、言葉が通じない、理解できない中でも、互いを知ろうとすること、体丸ごとでぶつかっていくことの大切さがテーマだ。

過去に見た田村氏の作品と比べて、今回のはだいぶいわゆる「踊りらしい踊り」が入っていた。Alan氏の身体性や、Alan氏と田村氏の身体の違いを見せるという側面があったのかもしれない。Alan氏はテクニックに優れ、スタイルが良く、チラ見えした腹の引き締まった筋肉にも目がくぎ付けになった。

公演情報

「吉祥寺ダンスリライト vol.1」-「踊る身体」が書き換えるダンスの未来-

[出演]水中めがね∞ 田村興一郎 Noroc Von・noズ
[総合ディレクター]北尾 亘(Baobab)
[舞台監督]磯村令子 久保田智也 [照明]中山奈美 [音響]相川 貴
[宣伝美術]阿部太一(TAICHI ABE DESIGN INC.) [協力]熊木 進

2019年11月15日(金)~11月17日(日)
15日(金)19:30 A
16日(土)14:00 A/19:30 B
17日(日)14:00 B
※プログラムA・Bで出演団体が異なります。

A:水中めがね∞、Noroc
B:田村興一郎、Von・noズ

[日時指定・全席自由・整理番号付]
前売 2,700円/アルテ友の会 2,500円/当日 3,000円
A・Bセット券 5,000円(枚数限定)
U25(25歳以下)2,000円(枚数限定・要証明書)
高校生以下 1,000円(枚数限定・要証明書)


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