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『カム・アンド・ゴー』破れかかったジャパニーズ・ドリームを抱えて大阪で必死に生きる外国人と日本人を描く映画

大阪を拠点にアジアなどで活躍するマレーシア出身の監督による群像劇。2020年の東京国際映画祭で上演時のストーリーの説明は下記。

AV嬢と偽って接待に駆り出される韓国女性、夢ばかり大きいネパール青年、帰国を許されないベトナム青年、借金を抱えた沖縄出身の映画監督。大阪でサバイブするアジア人たちの実像を描く未曾有のノンストップ群像劇。

上記のほかにも、日本語学校の学費が払えずアルバイト先のコンビニでセクハラに遭いながらも故郷の家族とのテレビ電話では無理やり笑顔をつくる外国人女性や、大阪に出てきてだまされてAVに出演させられそうになりながら無一文、天涯孤独らしい日本女性、その日本女性をたまたま見かけて親切にするエリートらしきビジネスパーソンの外国青年などが登場する。

やるせない状況が多々示される中で、日本社会の格差や差別が突き付けられ罪悪感を持ってしまうが、映画作品としては明るさや笑いも保っており、深刻な問題を描きながらも、所々で人間の生き抜く力強さを感じる。

問題は解決しない。しかし、まずはすぐ隣にいるかもしれない人々に目を向けよう、自分の生活の中に閉じこもるだけでは自分もいつどうなるかはわからないし、見ないふりをするのはよそう、という気持ちになる。

Q&Aセッションでの話によると、全体を通した台本はなく、少なくとも出演する俳優たちには渡されず、それぞれのシーンを撮りつつ、どんな映画になるかは上映されるまで判明しなかったらしい(笑)。

異なる登場人物たちのいくつかのストーリーが同時進行するのだが、その切り取り方、組み合わせ方がうまく、飽きさせない演出。まとまりを見事につくっている。

台湾からAVのDVD収集やAV譲の追っかけをしにたびたび来日するという設定の台湾の中年男性がかなりいい味を出していて、どこか見覚えがあると思ったら、映画後半で突然リー・カンション(李康生)だ!と思い出した。こんな(台湾では)超有名俳優が出ているとは!

リム・カーワイ監督もQ&Aで、リー・カンションにはダメ元でオファーしたらOKしてもらえてびっくりしたと話していた。出演を承諾するには、リー・カンションが多く出演する映画の監督、マレーシア出身のツァイ・ミンリャン(蔡明亮)の許可が必要だったらしい(笑)。この2人がそれぞれ監督と主演を務める2013年の『郊遊 ピクニック』とか傑作だ。

2人が話している動画。おちゃめな感じ・・・。

『カム・アンド・ゴー』のリム・カーワイ監督のことは知らなかったが、もっと作品を見てみたいと思った。アジアの外国出身で日本に住んで日本語を解する映画監督という立ち位置が面白いし、本作のテーマもとても興味がある。

作品情報

第33回東京国際映画祭
TOKYOプレミア2020国際交流基金アジアセンター共催上映
『カム・アンド・ゴー』Come and Go
監督:リム・カーワイ [林家威]
キャスト :リー・カンション、兎丸愛美、千原せいじ、渡辺真起子
158分、カラー、日本語、英語、北京語、韓国語、ネパール語、ベトナム語、ミャンマー語、英語字幕、2020年日本/マレーシア


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