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『Hybrid Rhythm & Dance』平山素子 振付:バスク伝統楽器演奏グループとアイヌ歌手とコラボしたコンテンポラリーダンス

平山素子氏が振付・出演した2016年の『Hybrid Rhythm & Dance』(ハイブリッド―リズム&ダンス)のスペインツアー(バスク地方・ビルバオ)の映像が全編公開された。

初演は、2016年に新国立劇場にて。

出演ダンサーは、小㞍健太皆川まゆむOBA西山友貴鈴木竜平山素子(敬称略)。

バスク地方の伝統楽器による音楽と、アイヌの歌とのコラボレーション。

スペイン・バスク地方の伝統楽器「チャラパルタ」を演奏する「Oreka TX(オレカTX)」は、来日公演も行い、「六本木アートナイト2019」にも出演したという。

チャラパルタは、木琴のように並べた板を木の棒で打ち付けて音を出す楽器。起源は、「バスクの有名なリンゴ酒=シードルを作る際に、リンゴを木の棒で潰していた労働から生まれたという説が有力」なのだそう。

アイヌ民族伝承の歌「ウポポ」(ainu-upopo)を歌ったのは、床絵美氏。幼少時より歌い続けているという。

音楽(演奏も歌も)が最高に素晴らしく、演奏者たちや歌い手とダンサーが身体で「かけ合う」こともあり、音楽とダンスの両方が主役。音と声が体に乗り移り、体がリズムを奏でる。

平山素子氏の作品は、シェイクスピアの戯曲を基にした『POISON リ・クリエイション』も素晴らしかった。

『POISON リ・クリエイション』はストーリー性が感じられたが、今回のダンスには特にストーリーはない。それなのに、構成・演出が巧みなのだろう、映像ではあっても、目も耳も感覚もずっと釘付けだ。

踊りとして質が高く、しかもエンターテインメント性も高いコンテンポラリーダンス。多くの人に見てほしい。

冒頭の、平山素子氏と小㞍健太氏のデュオがいきなりよい。色香があり、体の重量を感じるというか、存在の確かさを感じる。

平山氏がチャラパルタの板の上に足を踏み出し、きしむ音と、棒をそっと落とすようにして板に当てて出た音が、ハーモニーを生む。

アイヌの歌が歌われ、床氏が立つ台の下からダンサーがはい出してくる。音や歌に合わせた動きがぴったり。息を合わせていくライブ感。

ズボンのポケットに片手を入れたまま踊る。「不自由」を作り出す。「自由」な方の手を脇で押さえつけたり、歌い手に絡んだり、指遊びのようなことをしたり、床に寝転んだり、歌い手の声に合わせて、顔の筋肉を動かしたり。

「無音」のシーンが入るのもよい。

テーブルのような台の上と下をうまく使い、テーブルを動かして舞台に動きを作り出すなど、道具の使い方も工夫されている。

照明をつけたり消したりして、暗闇の中にダンサーを隠して消し、次の瞬間には現出させるなど、照明の演出もよい。

カメラによる映像の捉え方も巧みだ。

3人の女性ダンサーたちがゆっくりと踊るシーンではなぜか泣けて、1人がほかのダンサーの服をつまむシーンでは笑えて。心底楽しそうに踊っている場面では、こちらも笑顔になってしまった。

男女のダンサーが組み合って一体となったりする場面では、「未知なる他者との遭遇」というテーマを思わせ、この作品全体が、普段は異質なもの同士が出合って混ざり合っていることを感じさせた。

最後に歌っているのは、アイヌの言葉なのだろうか?でも曲調はスペイン風に聞こえる。アレンジしたのか?ダンサーたちが全員一緒に踊り、最高潮、フィナーレを迎える。拍手喝采。

動画なのに、震えるほどゾクゾクくる作品。かなりツボだ。もっと早くから平山氏の作品に注目しておけばよかった。そうすれば、生で見る機会ももっとあったかもしれない。平山氏は大学教員でもあるので多忙とは思うが、作品をもっと見たい。

脳と心臓をわしづかみにされるダンスをもっと見たい。

演奏も歌も素晴らしかった。アイヌはやっと日本の先住民族と認められたが、権利保護や補償、文化保存などは進んでいないのではないか。日本政府は、過去と現在の過ちについては謝罪と補償をして、伝統文化・芸術の発展を図った方が、えげつない言い方だが、観光資源としても「売り」になると思う。

しかし、床氏のドキュメンタリー映画の予告編では、「アイヌ文化は幻想だ」といった発言も出てきた。ルーツを大切にしつつ独自の表現活動を行う一人一人がいる、ということだろうか。そういう人たちの活動が、もっと広く知られるといいと思うし、知りたい。

作品情報

Hybrid Rhythm & Dance
振付:平山素子
音楽:オレカTX、床絵美、笠松泰洋
出演:小㞍健太、皆川まゆむ、OBA、西山友貴、鈴木竜、平山素子
衣裳:堂本教子
収録:2016年10月26日(ビルバオ)

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Hybrid (Arriaga Antzokia) - Oreka TX

The Japanese dancer and choreographer, Mokoto Hirayama directs the HYBRID project, which unites her dance company with Oreka TX, and the singer of the Ainu ethnic group, Emi Toko.

This show, whose worldwide premiere was at the New National Theatre in Tokyo, offers the result of the work and exploration and experimentation between the roots of dance and the rhythms created using the txalaparta. This is a collaboration bridges the gap between different artists and disciplines.

The result is an amalgam of art which is built based on the roots of two villages at the opposite ends of Eurasia and whose centre is the physical movement created by the Japanese choreographer.

Direction and Choreography by: HIRAYAMA Motoko
Dancers: HIRAYAMA Motoko, KOJIRI Kenta, OBA, SUZUKI Ryu, MIAKAWA Mayumu, NISHIYAMA Yuki, IKEJIMA Masuro
Singer: TOKO Emi
Music by: Oreka TX
Musicitians: HarkaitzMtez. de San Vicente, Mikel Ugarte, Mixel Ducau, Juanjo Otxandorena, Iñigo Egia

Costume design: Kyoko Domoto
Scenography: Yutaka Endo
Lighting Design: Hisashi Adachi
Stage Manager: Dai Shibasaki

Filmed and edited by: Jorge Fernández Mayoral
Produced by:
Txalap.ART Ekoizpenak, NPO alfalfa
World Premiere:
The New National Theatre, Tokyo (NNTT), Playhouse(2016)

▼平山素子氏オフィシャルサイト(本公演の写真もある)

▼Oreka TXのオフィシャルサイト

▼Oreka TXの演奏

▼床絵美氏のプロフィール

▼床絵美氏が出演したドキュメンタリー映画『kapiwとapappo(カピウ&アパッポ)~アイヌの姉妹の物語~

▼床絵美氏の歌

▼「平山素子インタビュー!『Hybrid Rhythm & Dance』スペインツアー、そしてNBAバレエ団での世界初演作に向けて。」

引用:「クリエイションもどうなるかわからないところから始めて、各自が潜在的に持っているものを見逃さず抽出していくというのが私のスタイル。(略)最初はヒアリングからスタートして“妖怪に会ったことはありますか”“ないです”“でも金縛りはあります”“そのときはどんな感じでしたか”といったやりとりをダンサーたちとしてから、モティーフとなる動きを膨らませてみたり……。」

「作曲家もダンサーの動きに感化・触発されていくんです。このような創造スパイラルは大好きです。」

「崖っぷちに追い込むことがクリエイションにつながっているのは事実です。今の日本は満ち足りてはいるけれど、どこか枯れてる部分も感じていて、油断すると落ちていく。その裏側にあるざらっとした感覚を入れ込んでいるのだと思います。」

▼「『HYBRID Rhythm & Dance』公演直前 平山素子=インタビュー」

引用:「いわゆる共同作業ではなくて、HYBRID、種の違うものを掛け合わせながら新しいものを生む、そういう気持ちで臨んでいます。」

「ダンサーもルーツが違うタイプの人をキャスティングしましたので、一緒に踊ると単に上手くいくだけではなくて、なにか不思議な空間を生み出せるのではないか‥‥と期待しています。」

「いつも私の作品には特別なストーリーはありません。しかし、何らかの制約のようなルールを設定して創作を始めます。」

「なぜかワールドミュージックって、差し込み感を感じます。計算外のパワーがあり、それに打ちのめされてしまう‥‥シンプルな盆踊りみたいなもので、複雑な高度な振付みたいなものは要らないんだな、と気がつかされます。」


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