『一輪』

佐伯一麦『一輪』を読んだ。ざっくり言うと、電気工の男がピンサロで働く女に恋をする話だ。カセットテープが出てきたり、ポケベルが出てきたりするところに時代を感じる。『ア・ルース・ボーイ』の続きのような小説だった。というのも佐伯一麦は私小説作家と言われているので、これも彼が経験したことを小説にしているのかもしれない。

唐突だが、僕も働いていた頃にピンサロに行ったことがある。僕は風俗とギャンブルは手を出さないでおこうと決めていたのだが、働き始めてからストレスがすごかったので手を出してしまった。仕事のストレスが半端じゃなかったのと、そのストレスからコーヒーをガブガブ飲み、タバコをバンバン吸っていたので、一種のハイになっていたのだ。その勢いに任せて、ピンサロに行ったり、スロットをやったりした。むしろその勢いがなければ、ピンサロに行くこともスロットを打ちに行くこともできなかった。ただ、ピンサロから帰る時や、スロットを打ち終わった後に、とんでもない落ち込みがやってきたので、これはマズイと思っていた。もちろん良い子に当たったり、スロットで買った時には気分が高揚するのだが、そうでなかったときのへこみ具合が半端じゃないのだ。もしかすると、躁状態、あるいは軽躁状態だったのかもしれない。性的逸脱だったり、ギャンブルも躁状態にはあるあるだ。ただそれが病的なものだったのかどうかは分からない。なぜなら多くの人がピンサロに行ったり、ギャンブルをやったりするだろう。これらをする人たちが全員躁鬱病になる訳がない。だからよく分からない。

『一輪』の主人公はピンサロで働く女に恋をするが、僕も近い経験をしたことがある。恋まではいかなかったが気になった女の子がいたのは確かだ。その子は割と綺麗だったように思う。というのも店内が暗いので顔がよく見えない。ただ綺麗だったように思う。また、同い年くらいだった。ただ、その子はほとんど喋らないのだ。何か話しかけても素っ気ない一言が返ってくるだけなのだ。そういう対応をされると余計に気になってしまう。同い年くらいだったから逆に話したくなかったのかもしれない。僕が逆にピンサロで働いていたとしたら、同い年くらいの男が来られると確かに嫌だ。なぜなら身バレの恐れがあるからだ。だからなるべく自分のことを知られないようにするだろう。『一輪』では結構会話があったが、そういったことは無かった。鬱になると同時にそういう店には一切行かなくなったので、その子がどうなったのかはもちろん知らない。そして、鬱になった今、性的逸脱をしてしまった事を非常に悔やんでいるのだ。『一輪』を読んでその時のことを思い出してしまった。

まあそれはいい。佐伯一麦は電気工をやっていたらしい。僕も電気工の資格をもっている。一時期電気工になろうとして、その資格を取ったのだが、結局電気工になるのをあきらめてしまった。それで他の職について、働いていたのだが、結局鬱になってしまった。どうせ鬱になるのなら、電気工になって鬱になっておけばよかったと非常に後悔している。僕はもう後悔だらけだ。だから電気工に憧れている。だから佐伯一麦の小説を手に取る。

僕はもうすぐ30歳になる。おまけに鬱ときている。体はガリガリになってしまい、体力も無くなった。果たして今から電気工になれるのだろうか。電気工になるにはまず鬱を治さないといけない。そして、体力をつけなければならない。するとタバコをやめる必要があるだろう。うん。多分無理だ。電気工は諦めるしかない。ただ、未だに憧れているのだ。

電気工に関する小説は佐伯一麦の小説しか知らない。電気工を題材にした作品や佐伯一麦の本でオススメがあったら教えていただきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?