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【創業ストーリー後編】「若者たちの挑戦を応援したい」アルムノートが大学とともに実現したい夢

こんにちは。アルムノート広報担当です。代表の中沢冬芽へのインタビュー前編は、学生時代の話を中心に、起業に至るまでの思いについて聞きました。後編では、いま展開している事業を軌道に乗せるまでの苦労や今後の展望、夢について話を聞きました。(前編はこちら

大学経営を支える「アルムナイコミュニティ」の重要さを確信

ーアルムノートの始まりである「Giving Campaign」についてもう少し詳しく教えてください

アメリカの大学では卒業生が母校に寄付をする文化が根付いていますが、日本では、そのような文化がないだけでなく仕組み化もされていません。日本でも卒業生から寄付を募ろうと考えたとき、肝になるのが、アルムナイコミュニティなんですよね。アメリカの大学経営は、潜在的支援者に支えられていて、伝統的に強固なアルムナイコミュニティがあります。日本の大学で同じことをやりたくても、卒業生をはじめとした支援者とのネットワークが整っていない大学が多いんですよね。

アメリカの大学では24時間で数十億円も集まるオンラインチャリティーイベントがあります。スケールの大きいイベントで、とても盛り上がります。このようなイベントを日本でも実現できれば、寄付を創出できることに加え、支援者の名簿も集まるんじゃないかと考えました。こうした経緯があり、大学への新たな支援者を創出するオンラインチャリティーイベントを実施しようと着想したのが「Giving Campaign」です。

前編でお伝えしたように、1回目の「Giving Campaign」は、UTECさんの全面協力で、東京大学との取り組みが実現しました。この成功をきっかけとして、2回目以降はアルムノート単独で運営してみようという流れになりました。

ー「Giving Campaign」立ち上げで苦労したのはどのあたりでしょうか?

1回目の成功はあったものの、実質、UTECさんの力を借りずに自分たちだけで実施した2回目の立ち上げの際に、いちばん苦労しました。イベントに参加していただくため、全国の大学に説明に行くのですが、無名のスタートアップ企業がきて「寄付」「名簿」と語るわけですから、怪しいなって思いますよね(笑)。しかも当時は僕はまだ大学生ですし、実績もない。最初は各所で門前払いされましたが、繰り返しお話するうちに、僕たちの取り組みに共感してくれる大学さんも出てきました。「確かに日本の大学も、アメリカのように自力で資金を獲得する仕組みが必要だ」と感じてくれて。嬉しかったですね。ただそれでも、寄付文化が根付いていない日本で、そもそもチャリティーイベントがどこまで盛り上がるのか、やってみるまで不安を抱えていました。

寄付が身近にない日本で、いきなり多額の寄付金を集めるのは難しいだろうとは感じていました。そこで考えたのが、寄付金ではない別の形でも参加できる仕組みでした。それが「応援票」です。いわゆる「推し活」に似ていますよね。支援者は、自分が応援したい学生団体に応援票を投じます。1大学につき1団体に投票ができる仕組みで、スマートフォンやパソコンからワンクリックで投票できますし、もちろん無料です。

集まった応援票の数が多い団体には、スポンサー企業からの寄付金が受け取れるという仕組みにしました。全国の企業から協賛金や寄付金を募ると、ヤフー株式会社、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社をはじめ、多くの企業から協賛いただくことができ、本当に感謝しています。

集まった寄付金は、大学の基金および学生団体に分配します。結果的に、個人からも多く寄付が集まり、総額5,000万円以上となりました。イベント参加者が累計で10万人以上応援コメントも7万件以上集まり、想像以上に盛り上がってくれて嬉しかったです。参加してくれた18大学からも、喜びの声をいただきました。実績もない学生企業が運営するチャリティーイベントに共感し、参加してくれた18大学さんには、僕たちも感謝の気持ちでいっぱいです。

さらに2022年当時は、まだコロナ禍の影響があり、例えば運動部の学生は思うように練習ができなかったり大会がなくなったり縮小されたりしていました。お金もなく、団体そのものが存在の危機にあるというケースもあったと聞いています。そういうつらい時期でもあったので、とにかく「学生さんたちを助けたい」という思いが強くありました。結果的に、学生のみなさんからも、こういうイベントがあって嬉しかったという声をたくさんいただき、僕たちもやってよかったと思いましたし、続けていく必要があることも感じました。

ーその後3回、4回と「Giving Campaign」を実施してきてどのような効果がありましたか?

ありがたいことに、大学生のみなさんの方から参加したいという声をかけていただくことも増え、「Giving Campaign2023春」「Giving Campaign2023秋」と回数を重ねるごとに規模は大きくなりました。これまで累計37大学、1500を超える団体に対して、約35万人から応援が集まり、寄付金も2億円以上という額になっています。

研究室や部活など、学生団体に対して応援や寄付をする仕組みが、このイベントの大きな特徴のひとつです。自分がかつて所属した団体や、母校の特定のチームを応援したいなど、思い入れを持っている人は多いですよね。卒業生と在校生のネットワークとしても強固なものがあるじゃないかと。寄付をする側は、一口1000円から可能なので、多くの人にとって応援しやすいのではないでしょうか。

学生団体が応援者から寄付金を受け取ることができるのに加え、「応援票」という投票を多く集めることで、パートナー企業から受け取れる支援金額が大きくなります。学生たちが卒業生たちにSNSなどをとおして応援や寄付を呼びかけ、寄付金を獲得し、活動費に当てる。学生たちが一生懸命に部活やサークル・研究などに打ち込んでいる姿は、それだけで応援したくなりますよね。これが大きな波となって、日本中で大きな寄付を起こすインパクトを与えます。学生たちの若いパワーは本当にすごいです。

若者を応援したいという気持ちがきっかけで、多くの人にとって初めての寄付体験になり得るということも、「Giving Campaign」の大きな意義のひとつです。実際、「Giving Campaign」では、これまで寄付をした経験がない層の開拓につながっていて、特に40代以下の寄付者が約半数を占めているという特徴もあります(2023年度までの実施分)。寄付は、1回きりで終わってしまうのでは、持続可能な支援にはなり得ません。オンラインで実施することで若年層が今後も継続的に寄付していく、そして大学を長期的に支援する大勢の基盤となります。寄付金を受け取った学生が卒業生となったとき、今度は自分が寄付をしようと思う、こうして日本にも文化として寄付が根付いて欲しいと考えています。

集まった名簿の“鮮度”を保ち、すべてのステークホルダーにアプローチできる状態にしたい

ーもうひとつの軸である「Alumnote」システムについて教えてください

「Giving Campaign」が盛り上がれば、参加者の名簿がたくさん集まります。しかし、その後に活用できなければもったいない。重要なのは、この名簿を定期的に更新してアクティブな状態を保っておくことです。大学と支援者がつながりを保ち、定期的にコンタクトができる状況にしておきたい。名簿は“鮮度”が重要なんです。しかし現状、名簿の“鮮度”を保てている大学は少なく、卒業生となかなか連絡がとりづらい状況です。母校からの手紙が定期的に実家に届いているという人も多いのではないでしょうか。これではコンタクトが取れているとは言えないんですよね。

いちど関係が切れてしまった卒業生の名簿を更新するのは、大変な労力です。そうならないために、名簿を「コミュニティ化」して関係を保つことが重要なんですよね。大学側が卒業生に対して有益な情報発信ができ、アクティブな関係でい続けるのが理想です。アルムノートが提供するシステムでは、名簿のアップデートと、すべてのステークホルダーへいつでもアプローチできる状態を目指しています。「Giving Campaign」でつながった寄付者のデータは、システムに入った状態で大学側にお渡しできますが、これだけではただのデータベースです。「コミュニティ」に価値を感じてくれた人が寄付をしてくれる可能性も大きいと思います。

アルムノートの名簿管理システム「Alumnote」は、「Giving Campaign」で初めて寄付を経験した卒業生に、イベントのあとも定期的にメール送信などで継続的に連絡が取ることができるサービスです。大学の創立○周年イベントの年だけ寄付して終わりなのではなく、例えば毎月、毎年、一定額を寄付してくれる卒業生といかにコミュニケーションを取れるかが肝になりますよね。僕たちが目指しているのは、最終的に例えば、毎月一定額を寄付するような世界で、僕たちは「サブスク寄付」と呼んでいます。

教育に資本をまわすことで、若者が大胆に挑戦できる社会を実現したい

ー5年後、アルムノートとして実現したい未来のイメージはありますか?

将来的には、4人に1人くらいの卒業生が母校に寄付をしてくれる未来を実現したいですね。アルムノートのサービスを導入していただけたら、大学と支援者が定期的にコンタクトを取れるコミュニティの場ができ、寄付をしやすい仕組みができます。これまで別のジャンルに投資をしていた人が、その一部を教育に回してくれるのではないかと。教育にお金が流れる仕組みが重要であることを丁寧に説明し続ければ、可能だと考えています。

個人はもちろんですが、企業からの支援も肝になると思います。大学と企業をつなぎ、パートナーシップを促進する仕組みも必要であり、実現したいと考えています。学生が集まる場である大学に対して支援することが、企業にとって大きなメリットになるはずです。

ー今後も「教育」というジャンルにはこだわっていきますか?

もちろんです。最近よく、少子化で大学が減っていくという文脈を目にすることがありますが、僕は少子化だからこそ、むしろ教育機関の重要性が高まっていくと考えています。生産人口が減っていく未来で国力を維持するためには、一人あたりの生産性を高めていかなければなりません。人口が減っていくからこそ、一人当たりの教育の質を上げていくべきなんです。日本の未来を支えてくれる若者が学ぶ場として、大学には重要な役割があり、果たさなければならない機能は広がっていくべきですよね。これからの日本において、教育が担う役割はとても大きいと思います。そしてそこには資本をまわすべきなんです。

若者たちには、できるだけ早い段階で最高峰の教育に触れてほしいと思っています。世界最高峰の教育機関に劣らない環境が日本国内にあれば、世界レベルの人材が日本からもたくさん出てくるはずです。しかるべき教育を受けることで、その後の人生の発射角度が高まる。そんな可能性を提供してあげたいと思っています。

ー「次世代の教育に資本がまわっている社会」が実現した世界とは?

アルムノートのミッションは「次世代の教育に資本をまわす」ですが、これが実現したときの未来像は、「若者が未来に対して期待感をふくらませて、挑戦できる」状態です。日本を、若者が安心して挑戦できる国にしたい。大人が若者たちに、必要な資本や情報、失敗しても挑戦し続けられる環境などを提供できれば、中には大きく成功する人も出てきて、勢いのある国を支える存在になると思うんです。

資本が“まわっている”状態は、さらに一歩先です。タイガーマスクやサンタクロースを想像してみてください。子どもたちに無償で与える存在です。こうして与えられた子どもたちは、大人になったとき、今度は自分がタイガーマスクやサンタクロースになろうって考える。それを教育に当てはめて考えたとき、多くの大人に支えられて必要十分な教育を受けられた若者は、その支援に感謝して、将来的に自分が支援者になるというのは自然な流れではないでしょうか。

つまり、ペイフォワード、日本語だと「恩送り」とも言われている精神ですよね。資本が“まわって”はじめて、持続可能になるんだと思います。今はその循環がない状態、僕らはゼロからイチを作り出そうとしている段階です。循環するまでの仕組みを生み出すことの厳しさはわかっていますし、困難な課題だからこれまで誰も挑まなかった。でも僕は諦めたくないし、実現したい未来なんですよね。「次世代の教育に資本がまわっている」未来を実現するために、アルムノートも僕自身も挑戦を続けていきます。

<プロフィール>
中沢 冬芽(25歳)
1998年 長野県生まれ。
2017年 東京大学 文科一類 入学
東京大学法学部在学中にGoogle Japan, Rapyuta Robotics, Apple Japanにてインターンを経験
2020年03月「令和2年度 起業家甲子園」総務大臣賞 受賞
2020年10月 Alumnote 創業
2023年03月 東京大学 法学部 中退
2023年 Forbes 30 Under 30 Japanに選出


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