【小説】 ウィザード #7
「なるほど、」
アメティスタは、レオのカルテを見ながらつぶやいた。
ラーキオ魔術学校を出て、二人は西の都市へ向かう馬車に乗った。数日前に魔獣の目撃情報があった、リーリエスという町に向かっているのだ。
「荷馬車に乗りながら読んでて酔わねーのかよ」
トロッコのような形の箱を馬が引くという、非常に簡素な馬車。馬車の縁に手をかけながら、レオは流れていく景色をぼーっと眺めた。
「魔術を使用するたび、体の内側から爆発したようなけがをする、ですか」
アメティスタの言葉に、レオは顔をしかめた。
「相性の悪い魔術を使うのをやめろってだろ?言われ慣れてんだよ」
馬車が大きく揺れる。アメティスタが持っていたレオのカルテが馬車の中で散らばった。
「レオ様は、怪我の原因をご存じですか?」
アメティスタは、散らばった紙束の中から一枚のカルテを拾い上げる。
「俺と魔術の相性が悪りぃからだろ」
「その通りです。しかし、なぜ相性が悪いのかはご存じですか?」
レオは少し考えるような素振りを見せた。
「…そんなこと関係ねーだろ」
「関係あります。レオ様の先天魔法は、水を操る魔法です。しかしレオ様が使う魔術は、炎魔術です。私の知る限り、先天魔法と同系列の魔術を使うのが一般的なのですが…」
アメティスタはカルテから顔を上げ、レオの様子を盗み見た。レオは変わらず景色を見続けていた。
「炎魔術は、」
レオはそこで言葉を句切った。
そしておもむろに左手を握り、アメティスタの前に差し出す。
「炎魔術は、強えんだよ」
握っていた左手をぱっと開くと、青い炎が立ち上った。まるで空にとけてしまいそうな、爽やかな青だった。その奥では、同じ色の2つの瞳が淡い紫色の瞳を見つめていた。