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【観劇】柿喰う客 新作本公演2024「殺文句」

於:下北沢本多劇場

柿喰う客の新作を観てきた。
舞台は人材派遣会社「へるりーち」
名前からして怪しさがすごい。

なお社訓。

ビッ⚫️モーターかな??


登場人物は全部で11名。
営業部から訳あって新設の閑職に異動になった男
穂咲(ほざき)
院卒の若手、役員候補の男佐江鶴(さえづる)
総務部長梅板(うめいた)
総務女子曽根見(そねみ)、粋通(いきどおり)、絵知(えち)、無作堀(むさぼり)、樽井(たるい)、小郡(おごおり)、星軽(ほしがる)
そして仕事がないはずの穂咲の部署になぜか配属された謎の男、継美(つぐみ)


梅板以下総務部女子勢は、労働者の権利を主張する組合のメンバーとしても活動している。
この組合が、社会や組織の理不尽、ハラスメントに立ち向かっていく爽快オフィスドラマ……なんてものではもちろんなく、この組合、主張を通すためにわざと階段から落ちて冤罪仕立てたりするなかなかにヤバい集団である。
物語の中で権利を振り翳してきた組合は継美の登場により変容していく。

この作品には、狂気、それもすぐ隣に感じられる狂気が常に漂っている。
登場人物全員どこかが狂っている。しかもその狂気は観客にとって遠いものではなく「食べたい」とか「愛されたい」といったごく当たり前の欲求の肥大化なのだ。
「人を殺したい」などのごく限られた人しか持ち得ない狂気と違って共感の余地がある分、その狂気は圧を持ってすぐそこに迫ってくる。
観劇しながら「こんなおかしな人間、現実にはいないだろう」と思うのに、その一方で「もしかしてこの世界のどこかに彼らはいるのかもしれない」と思ってしまうのだ。
柿喰う客の脚本家、中屋敷氏の書く戯曲はとにかく台詞量が多い。それがジェットコースターのような速さで次々に浴びせられるのだが、この早口の台詞群も狂気の増幅に一役買っている。
ジェットコースターのような台詞に着いていこうと集中していると2時間ほどの上演時間があっという間に終わっている。
この感覚はつかこうへい作品を見ている時のそれに近い。加えてところどころ韻の踏み方がシェイクスピア(小田島訳)っぽく、耳にするりと入ってくるリズム感を作り出しているように思えた。

惜しむらくはせっかくの秀逸なセリフに滑舌が追いつかず、聞き取りづらく感じる時があった事。
物語の把握には問題なかったが聞き取りづらいと感じた一瞬で集中を乱してしまうのは勿体無いと思った。


以下に特に素敵だと思った役者さんを挙げる。

永田紗茅(曽根見役)さん
台詞が聞き取りづらい時があったと先述したが永田さんのセリフにそれはなかった。
ハイスピードで台詞を発しながら台詞が流れることもなく、抑揚と表現が的確。
気がつくと彼女が台詞を発する時を心待ちにしてしまっている。

玉置玲央(継美役)さん
全員がアホほど喋るこの作品で継美だけは一言も言葉を発さない。
言葉なく舞台に佇む継美の存在は何を思っているのか、そもそも自分の意思があるのかも疑わしく狂気の中でなお異質で不気味だった。
作中で語られる継美の生い立ちはなかなかなので、多分めちゃくちゃちゃ鬱屈してる。
時々、「骨折れてない?」みたいなアクロバティックな動きを仕掛けてくるのが余計に非人間的。
私大河を全く見ていなくて知らなかったのですが光る君へに出ていらっしゃるんですね。平安貴族は絶対しないだろうなって動きしてた。


ここからは、軽いネタバレを含みます。
いろいろ思った事。

組合のメンバーが全員女性である意味が気になった。
組合は自分たちの主張を通すためにわざと階段から落ちて邪魔な人間を冤罪で失墜させるような集団だ。
女性のか弱さを盾にとって集団で喚き立てるいやらしさは男女混合の集団や男性集団にはないものだろう。
そんな彼女たちは物語の終盤で継美にあっさり陥落し、彼の子供を孕んで産休へと入っていく。
組合は事実上の解体を迎える。
結局彼女たちは組合の活動に対する信念などはなく、単に自分の欠乏を埋めたかっただけなのである。
その欠乏が継美という一人の男によって埋められる=なんやかんや喚いていた女たちが結局は男に屈服する、という構造に「中屋敷さんは女性に恨みでもあるのかな」と思った。

ただ難しいのが継美は組合を分解するために会社から雇われた存在だが、総務の女子たちを孕ませるよう唆していたのは実はその女子たちのリーダーである総務部長の梅板である。
彼女は前職でマタハラにあい子供を流産している。そう思えば総務の彼女たちが無事に子供を産めるのは組合の活動の成果だろう。
結局は梅板=組合の勝利であったのかもしれない。

どちらにしろ女性陣がとんでもなくエグいことに変わりはないのだが。

時を経て会社を退職した継美の元には総務の女性陣が産んだ子供達が復讐にやってくる。
一言でいいから言葉が欲しいと懇願する彼らに継美が放った言葉は何だったのだろうか。あるいは何も発さない事が彼の武器だったのか。

口をつぐみ、文句を殺された男に果たして救いはあったのだろうか。

終わりは間違ってもすっきり爽快ではないが、見終わった後に観て良かったなと思える作品だった。
カロリー高い芝居が観たい人におすすめ。

下北沢本多劇場で6/2まで。
二回、三回と見るうちに観方が変わる気がすごくするのだが、都合により叶わないのが残念。



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