研究員・陶の分担編集・執筆した「公認心理師ベーシック講座 福祉心理学」が発売されます

 LITALICO研究所の陶です。
 タイトルにある通り、分担編集・執筆した「公認心理師ベーシック講座 福祉心理学」が講談社サイエンティフィクから発売されます
 本記事では、本書の紹介を致します。

書影の引用:講談社サイエンティフィクのウェブサイト

本書の特徴と想定読者

 本書は、福祉現場での実践や福祉領域の関係機関との連携を行う上で、知っておきたい内容や心理支援について、各領域の専門家が執筆しています。また、福祉に関する法や制度、福祉サービスは複雑で、多様であるため、本書では、心理支援や心理学だけではなく、実践を行う上で知っておく必要のある福祉分野の基礎知識や法制度等についても触れられています。そのため、主に、公認心理師の取得を目指す方、あるいはすでに公認心理師を取得済みだが、福祉領域での心理支援や支援制度等について包括的に学びたいという方に向けた一冊になっています。

 例えば、公認心理師を目指している学生の方は、福祉現場の実習も経験されると思います。また、その中には、将来、福祉領域での心理実践を行いたいと考えている人もいるでしょう。そのような方にとって本書は、実習に行かれる前後での学習に役立つかと思います。実習前に本書の内容を把握しておくことで、福祉の制度や福祉領域での心理支援について学べるため、実習の現場に入った時に「なるほど」、「たしかに」と思えるような気づきが得られるのではないかと思います。
 すでに公認心理師を取得済みで、福祉領域以外で実践されている方にとっては、福祉領域との連携において、どのような心理実践があるのか、福祉の制度はどのような内容かなどを知ることを目的とされる場合には有用な一冊になっているかと思います。
 公認心理師としてすでに福祉現場で働いている人の場合は、福祉での心理支援を改めて学びなおす際に有用かと思います。また、コラムも充実しており、引用文献なども示されているため、本書を通じて、さらに学びを広げていくということもできるかと思います。


本書の構成

 本書の構成は以下のようになっています。第1部で総論があり、福祉分野の基礎的なことの理解が得られます。第2部以降は福祉における各分野をテーマに、第2部は子ども家庭福祉分野、第3部は障害のある方(成人)の障害福祉分野、第4部は高齢者・地域福祉分野となっています。福祉では、各分野にそれぞれ軸となる法律や制度があるため、いずれの部でも法制度等の解説があります。そのうえで、各分野に合ったテーマを章立てて、構成されています。そのため、関心のある領域ごとに、どのような制度があり、どのように心理支援が展開されているのかを知ることができます。


第1部 総論 福祉分野の基礎知識
 第1章 社会福祉とは
 第2章 福祉現場における心理支援の基本

第2部 子ども家庭福祉分野における心理支援
 第3章 子ども家庭福祉分野と法制度
 第4章 子育て支援と発達相談
 第5章 発達障害の早期支援
 第6章 虐待対応と心理支援
 第7章 社会的養護と心理支援

第3部 障害福祉分野における心理支援
 第8章 障害の理解と社会福祉制度
 第9章 知的障害のある人への心理支援
 第10章 身体障害のある人への心理支援
 第11章 発達障害・精神障害のある人の心理支援
 第12章 障害のある人への就労支援

第4部 高齢者・地域福祉分野における心理支援
 第13章 高齢者福祉分野における心理支援と法制度
 第14章 認知症の人とその家族・介護者への心理支援
 第15章 地域福祉分野における法制度と心理支援


 本書において、私が担当した部分は、第3部「障害福祉分野における心理支援」の編集と、第8章「障害の理解と社会福祉制度」および第12章「障害のある人への就労支援」の執筆です。
 
 編集者の視点で、各章の先生方の原稿を拝読する役割を得ているものの、第3部は、成人の障害のある方への支援の話題が中心であるため、各章の話題は私が専門とする就労支援との関連も非常に深く、「なるほど」、「たしかに」と思える内容に富んでいて、比較的新しい知見、専門家ならではの実践知に富む心理支援や実践上の示唆があり、個人として改めて学びや気づきが得られたため、いつの間にか読者として読んでいるということが多々ありました。だからこそ、福祉現場で公認心理師として活躍することを目指している学生の方々や、現在福祉現場で働いている方々、福祉領域と連携することのある公認心理師の方々には、ぜひ一度手に取っていただきたい思いがあります。

 執筆を担当した第8章「障害の理解と社会福祉制度」では、障害者総合支援法に基づく制度と福祉サービスについて概説しました。福祉サービスについて、個人的には複雑だなと思うことが多々あるため、これから公認心理師を目指すという方だけでなく、すでに公認心理師としてご活躍中の方にとっても、改めて見直しやすいよう、紙幅の許す限り、実践上知っておけるとよさそうな情報を載せるように心がけました。

 第12章「障害のある人への就労支援」では、まず、就労支援プロセスの全体像を示し、関連する法制度や就労支援機関や関係機関の解説を行い、どのような支援があるか、公認心理師が福祉現場で活躍するために知っておけるとよい知識を整理しています。これにより、就労支援ではどのような公認心理師の活躍の場があるのか、その他の支援者とどのように連携ができるのか知ることができるかと思います。次に、各法律によって、就労支援に関わる制度ごとの対象者について解説しています。例えば、障害者雇用促進法における企業の障害者雇用率の算定対象と障害者差別解消法における合理的配慮の提供に関する対象には、詳細には差異がある点なども含め解説し、企業の障害者雇用担当者へ支援を行う上で知っておけるとよい内容にしています。そのような就労支援を取り巻く概要の後に、就労支援における障害のある方への心理支援について、12章の冒頭で説明した就労支援のプロセスに合わせ、職業に関する方向付けにおける心理支援、職業準備性向上における心理支援、就職から雇用継続における心理支援として、各フェイズの心理支援について解説しています。 なお、9章から11章で、知的障害、身体障害、発達障害、精神障害のある人への心理支援について触れられる構成となっているため、障害種別ごとの心理支援については触れていません。基本的には、第8章で解説のある、国際生活機能分類(International Classifi cation of Functioning, Disability and Health:ICF)に基づき、個人因子と環境因子の相互作用の結果生じる、様々な「働くことに関する障害」に関する、様々な心理支援について概説しています。コラムでは、現在、企業でも合理的配慮の提供は義務となっているため、障害者雇用に携わる人の関心が高い話題だと思い、2024年4月1日に施行された障害者差別解消法と合理的配慮について取りあげ、就労支援の文脈からまとめました。
就労支援にご関心のある方には、ぜひご一読いただけますと幸いです。

おわりにかえて:福祉分野での心理実践は関わる領域や対象が広い

 本書を通じて、たくさんの志ある支援者の方々、福祉に関心のある方々とつながれる機会を頂けたことに、大変感謝しております。武藤ら(2020)によれば、福祉分野は、①全年齢・年代の人が対象となりえること、②「医療・保健」、「教育」、「司法・犯罪」、「産業・労働」といった分野では扱わない(扱えない)場合に福祉分野が援助・支援を担当する、③他の4分野が当該機関・施設に「“入る”→サービス提供・介入→“出る”」というプロセスを経ることに対し、福祉分野では、それらの機関・施設の利用の前後、または出入りしない状態で介入する、④③により援助や支援のフィールドが家庭やコミュニティとなり、心理職による専門業務は非専門家も含み、アウトリーチを要することが多くなるという特徴があるとされます。そのため、福祉分野の心理職による専門的業務は、他の4分野の機関・施設の利用する(あるいは利用しない)ための予防的介入、それらの利用に関する判断や自己決定を支援するためのスクリーニングやアセスメント、それらの機関・施設利用後の介入効果の般化や維持に関する事後のアセスメントと効果を維持・促進する事後的介入が求められます。
 このように、福祉分野での心理実践は関わる領域や対象が広く、その他の分野で扱えない部分を補完していく役割もあると言え、様々な制度があり、幅広い知識や実践知が求められます。しかし、それゆえに、社会の側にある、多くの「障害」を解消し、各制度や福祉サービスを利用される方々の幸せや豊かさを支えることができることもまた、福祉分野の特徴であり、強みであると私は思います。

 最後になりましたが、本書の編集や執筆において関わらせていただいた先生方と、株式会社講談社サイエンティフィクのご担当者様には大変お世話になりました。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。

LITALICO研究所 陶 貴行

引用文献

武藤崇・ 境泉洋・大野裕史 (2020). 公認心理師法施行後の文脈で 「行動福祉」 を活かす―生態・行動的な視点からの示唆―. 認知行動療法研究, 46(2), 89-97.

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