Hip Hop型教育事例〜Science Genius〜
前回は「Hip Hop型教育(Hip Hop Based Education [以降HHBE])」を紹介し、その教育手法やその手法が採用されるに至った背景を解説した。その事例として今回紹介したいのが、コロンビア大学教育学部のクリストファー・エムディン教授(Christopher Emdin)の「サイエンス・ジーニアス(Science Genius)」である。
この取り組みは、科学に興味・関心を持てない高校生に、ラップを通じて、同科目への興味、やる気を向上させるプロジェクトである。このプロジェクトに参加している生徒は、同科目に関連する用語を用いてラップ詞(以降リリック)を書き、他生徒と競い合う。そのラップの最終評価は、スポンサーの一人である、伝説的ラップ・グループであるウータン・クラン(Wu-Tang Clan)※1のメンバーのジザ(GZA)によってジャッジされる。
<NHKで放送されたScience Genius>
<アメリカのニュースで報道されたScience Genius(GZAが登場する)>
このプロジェクトのミソは、同科目に関連する用語を用いてリリックを作成する際、その用語の意味を調べ、その言葉の意味をしっかりと理解していなければ、各言葉との関連性や、リリック全体の一貫性(ストーリー性)を深めることができない点である。よって、生徒はリリックを完成させるために、科学用語を勉強する、すなわち科学に対する学習動機が向上するという構造である。
2番目の動画に登場するキーガン(Keegan)という生徒が、このプロジェクトの狙い通りに、よりクオリティーの高いリリックを書くために、同科目に関する用語の意味を調べる習慣がつき、今まで興味が持てなかった科学に興味を持つようになったと述べている。
以上述べた事例はHHBEの数ある事例の一部であるが、その教育効果をしっかりと検証するためには、より多くのデータサンプルが必要になり、質的・量的に分析をしていかなければならない。また、このプロジェクト・教育手法が成立している大前提が、Hip Hop音楽を聞いている生徒の割合が高く、ラップ詞を作成できる生徒の母数が多いという点である。よって、この活動を日本で行う場合、ラップのノウハウから教える等、日本の土壌に合わせる工夫が必要になる。しかし、日本に着実とHip Hop文化が浸透している今だからこそ、このような若者の「興味のある題材」を活用し、授業運営することも可能なのではないだろうか。
【同記事はアメブロに投稿した記事の再投稿である】
https://ameblo.jp/lit-hiphop/entry-12449253429.html
注1:Wu-Tang Clanとはニューヨークのスタッテンアイダンドを拠点とする10名から成る伝説的巨大グループである。リーダーのレザ(RZA)をはじめ、各メンバーがソロアーティストとして成功している。
<Triumph / Wu-Tang Clan Ft. Cappadonna>
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