ストレスが原因と思われる「頭痛」に関する相談を受けた時にどう対応するかの整理
スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの立場で、慢性的な頭痛といった身体症状のご相談を受けた際に、どう対応し、支援していけばいいのかをまとめてみました。
(あくまでも、現時点で私が受けた相談の経験や、参考文献を踏まえた私個人の捉え方を記述した仮の意見でございます。なんらかの価値観を読み手の方に与えるものではありません。所持資格からみて不適切な文章があった際は、修正、削除したいと思います。)
◇頭痛の定義
『頭痛の治し方大全』丹羽潔著 扶桑社
『頭痛の症状・原因』「くすりと健康の情報局」第一三共ヘルスケア HP
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/symptom/02_zutsu/
『頭痛 原因別の頭痛タイプを見極めることが大切』「サワイ健康推進課」 沢井製薬HP
https://kenko.sawai.co.jp/healthcare/200909-01.html
などを参考にすると、頭痛には「一次性頭痛」と「二次性頭痛」があるとのことです。「二次性頭痛」は、特に重大な病気(くも膜下出血、脳腫瘍等)が原因だったり、一過性の原因(熱中症、二日酔い等)によって引き起こされるとのことです。従って、「二次性頭痛」の可能性がある場合は、速やかに医療機関にかかることを薦められるといいなと思いました。
「一次性頭痛」には、「片頭痛」、「緊張型頭痛」、「三叉神経・自律神経性頭痛」の3つのタイプがあるとのことです。3つのタイプそれぞれで、さまざまな原因が考えられますが、心身のストレスが原因の一つとなっているのは、「片頭痛」、「緊張型頭痛」になるかと捉えました。また、「頭痛の治し方大全」では、三大頭痛として「片頭痛」「緊張型頭痛」「群発頭痛」が挙げられており、全体の90%以上を占めるとのことです。
興味深いのは、「緊張型頭痛」は精神的・身体的ストレスによる、『頭の横の筋肉や、肩や首の筋肉が緊張することで起きる』のに対し、「片頭痛」は『心身のストレスから解放されたときに急に血管が拡張することがあり、仕事のない週末などに起こることもあります。』とのことで、ストレスが起こった時に、「緊張型頭痛」が起き、ストレスから解放された時に「片頭痛」が起こる場合があると認識しました。
よくあるのが、医療機関にかかり、各種の検査を受けても医学的な異常が見受けられず、おそらく心理的なストレスが原因の可能性があるので、心療内科や精神科の受診やカウンセリングを受けてみることを薦められたケースです。
この場合は、生物的要因が消去法で可能性が低くなり、心理社会的要因による「心身症」として、頭痛(筋緊張型頭痛、片頭痛など)が起こっていると見立てられる状況になると思います。
ただ、「心身症」という名前は診断名ではなく、『心身症はストレスなど心理的な要因で体に症状が現れる疾患の総称』(りたりこ仕事ナビ HP参照)となります。
◇生物心理社会モデル
ということで、まずは、「生物心理社会モデル」※に乗っ取って、状況を捉える必要があると思います。
医療機関を受診されていない場合は、まずは医療機関にかかって、各種検査(血液検査、MRIの検査等)を行ったりすることを提案したいと思います。頭痛外来・脳神経内科(神経内科)・脳神経外科など頭痛治療を専門に行っている医療機関の受診をお薦めし、医学(生物)的側面からまずは捉えてみるのがいいのではないかと思います。
既に主治医がいる場合は、主治医の治療方針を理解し、治療方針を尊重する形での支援ができればと思います※1。
※1公認心理師の立場の際は、医師の指示を受ける義務があり、精神保健福祉士の場合は指導(助言)を受ける義務があり、社会福祉士の場合は、医師との連携を保つ義務があると認識しております。
◇ストレスによる「頭痛」をICD-10やICHD-3(国際頭痛分類 第3版)の診断基準で見た場合
では、診断名でストレスによる「頭痛」をみるとどうなるのでしょうか。ICD-10(WHOの国際疾病分類)の「精神および行動の障害(コードF)」で、「頭痛」が含まれる疾患(障害)には何があるのかを見てみたいと思います。
ICD-10の「精神および行動の障害の分類」でみると、
心因性のものに関しては、「身体表現性障害」にカテゴリーされる各種障害【身体化障害、身体表現性自律神経機能不全(自律神経失調症)、持続性身体表現性疼痛障害(慢性疼痛)、神経衰弱等】で症状の一つとして頭痛が考えられると思います。
他にも、心因性、内因性の精神疾患で、頭痛が症状として想定できるものとしては、例えば、ICHD-3(国際頭痛分類 第3版」)を見ると、
による頭痛が考えられ、多岐に渡ると思いました。
(参照「専門医が解説する「頭痛」のこと」「頭痛と精神疾患」総監修:竹島 多賀夫 沢井製薬 HP)
その他、器質性の精神疾患に由来する頭痛も含めると、さらに多岐に渡ると想像します。こうなると、なんらかの精神疾患を想定して、その症状として「頭痛」が起こっているという見立ては難しいと思いました。頭痛の原因には様々な要因が考えられ、一つの精神症状によって、その頭痛が起こっていると確定的なことも言えませんし、私の立場ではこの原因で頭痛が起こっていると仮説を立てることもできないと感じました。なにも診断がされていない状況ではさらに難しいと感じました。
◇ポリヴェーガル理論からみた「頭痛」
心理社会的ストレスの影響で、頭痛や各種の精神症状が起こっていると見立てた場合、「ポリヴェーガル理論」が、包括的に状況を眺めて、具体的な方策を考える視座になると私は思っています。
「ポリヴェーガル理論」は、自分なりにまとめると、人間には脅威(強いストレス)に対する防衛反応として、3つの対応の仕方がある。それは、①「背側迷走神経」を過活動させて、他者との交流を拒み、シャットダウンする対応の仕方。②「交感神経」を過活動させて、不安や怒りを感じやすい状態にして、回避したり闘って反応する仕方。そして、③「腹側迷走神経」を機能させ、他者との交流で安心を感じることで①と➁の防衛反応を抑制する反応する仕方です。そして、進化の過程で人間は、①から③へとストレスへの対応の仕方を獲得していったという考え方です。
自律神経の反応の特性によって、いずれかの反応が起こっており、現代社会では、本来生死に関わる危機的な状況において発動する防衛反応が日常のコミュニティ内で誤作動として起こっていると私は捉えています。腹側迷走神経が十分に機能しない状況において、交感神経や背側迷走神経の過活動という形で、防衛反応の誤作動が起こっていると私は捉えています。
ポリヴェーガル理論の関連書籍を読むと、「からだのためのポリヴェーガル理論」スタンレー・ローゼンバーグ (著)に頭痛に関る言及があります。
この書では、片頭痛(緊張性頭痛)に関して、
頭痛の原因として、「迷走神経背側枝の過活性、不安症、双極性障害… 腹側迷走神経系が優位な状態でない(P196 )」などの記述があります。そして、「僧帽筋と胸鎖乳突筋を神経支配する第Ⅺ脳神経の機能不全が頭痛と関係している…(P330 )」という記述があります。
頭痛への対処法としては、基本エクササイズ(社会交流に必要な五つの脳神経が出入りする脳幹への血流が増加するエクササイズ p281)とセルフ・マッサージ(僧帽筋、胸鎖乳突筋に関連する頭痛のパターン4種類に応じたトリガーポイントのマッサージ p330)が記述されています。
ということで、ポリヴェーガル理論においては、頭痛(おそらく片頭痛と緊張型頭痛?)を軽減するためには、腹側迷走神経の機能を優位にするために、社会交流活動(人と交流して安全を感じる体験)を促進させたり、物理的に筋肉の緊張をほぐすマッサージが有効という考え方をしていると思います。
ということで、私としては、心理社会的な要因と思われる頭痛全般に対しては、腹側迷走神経の機能を改善するような活動として、ストレスの要因となる環境の改善や、社会交流(一緒に何かをして安心を感じる活動)を習慣的に行って頂くことや、脳幹への血流が増加する活動(エクササイズ、マッサージ、各種運動)をご提案したいと思います。
私が作ったポリヴェーガル理論の図でいうと、心理社会的な要因による頭痛は、交感神経が過活動な時や、背側迷走神経が過活動な時に起こり、腹側迷走神経が優位になると軽減すると考えています。あっているでしょうか?
◇まとめ:頭痛の相談を受けた場合の私の中の手順の整理
ここまでの話を踏まえて、頭痛の相談を受けた際に、自分ができる対応や支援の手順をまとめてみました。
①頭痛外来・脳神経内科(神経内科)・脳神経外科など頭痛治療を専門に行っている医療機関の受診を薦める。主治医の指導の元、服薬、ストレッチ、生活習慣の改善等を行う。
②心因性(ストレス)による頭痛の可能性がある場合、心療内科、精神科の受診を提案する。
③カウンセリングを受けられた場合は、安心して話せる場を作り、傾聴し、ストレスに感じることの言語化をサポートする。対話の場を設けて、関係者と一緒に話し合いをし、ストレスが軽減できる環境を作る話し合いのサポート(ファシリテーション)を行う。ストレス軽減、自律神経の改善のための生活習慣の改善(対話の習慣、一緒に何かをして安心を感じる習慣、ストレッチや運動習慣等)を提案する。
④クライアントが、ご自身でも書籍を購入したり、信頼できるネット情報で、どの頭痛が自分の症状にに当てはまるのか検討をしたり、それに応じた対策(医療機関に相談、生活習慣の改善、ストレッチ、マッサージ、市販薬の活用等)を主体的に行ってもらう対話を通じてのサポートができるといいと思います。
という感じで①⇒④に向かって対応できればと思っています。
◇補足:薬の副作用による頭痛
薬の副作用(中枢神経刺激薬、抗うつ剤他)による頭痛の可能性も考慮に入れる可能性があると考えます。
「抗うつ剤の頭痛と5つの対策」田町三田こころみクリニックのサイトを見ますと、
「片頭痛は、セロトニンの過剰な放出が原因といわれています。セロトニンの作用で脳血管が収縮します。」との記述があり、「抗うつ剤はセロトニンを増加させるお薬ですので、似たような形で頭痛が生じるのではと考え」られるとのことです。
「SSRIやSNRIといった新しい抗うつ薬の方が頭痛の頻度が高」く、中でも「サインバルタ」が高いという記述があります。
◇参考文献
「頭痛の治し方大全」丹羽潔著 扶桑社 2022年
「精神医学 第6版」 精神保健福祉養成セミナー編集委員会 へるす出版 2017年
「からだのためのポリヴェーガル理論」スタンレー・ローゼンバーグ (著), 花丘 ちぐさ (翻訳) 春秋社 2021年
『頭痛の症状・原因』「くすりと健康の情報局」第一三共ヘルスケア
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/symptom/02_zutsu/
『頭痛 原因別の頭痛タイプを見極めることが大切』「サワイ健康推進課」 沢井製薬HP
https://kenko.sawai.co.jp/healthcare/200909-01.html
「抗うつ剤の頭痛と5つの対策」こころみクリニックHP
https://cocoromi-mental.jp/cocoromi-ms/psychiatry-medicine/antidepressant/headache/
「自律神経失調症」メディカルノート HP
自律神経失調症について | メディカルノート (medicalnote.jp)
「心身症」国立精神・神経医療研究センター HP参照
「心身症とは?定義と種類、原因や代表的な疾患、治療法や日常生活でできる工夫について説明します」りたりこ仕事ナビ HP https://snabi.jp/article/104#85e1c
「慢性疼痛(持続性身体表現性疼痛障害):自律神経機能不全を伴う神経症(8)」川崎メンタルクリニック 院長ブログ
https://kawasaki-mental.com/blog/doctor/468
「専門医が解説する「頭痛」のこと」「頭痛と精神疾患」総監修:竹島 多賀夫 沢井製薬 HP
頭痛と精神疾患|専門医が解説する「頭痛」のこと|サワイの主な中枢神経系用薬|製品情報|沢井製薬 (sawai.co.jp)
「抗うつ剤の頭痛と5つの対策」田町三田こころみクリニック ブログ
「群発頭痛」 Medical Note HP
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