日本人はビジネスや市場経済に疎い
公民科の授業や実践について、教員向けに記事を書いています。授業づくりの視点を提供したいと思いはじめました。
高校の公民科には政治・経済という授業がある。中学校の社会科には公民的分野がある。意外にも経済や経営について学ぶ機会は少ない。高校の商業科に行くまでビジネスについて学ぶ機会はない。
農業や漁業を社会科で扱うが、儲けるしくみについては扱わない。高校生に経済を教えようとすると思うことだが、とても基本的なことを知らない。いや学ぶ機会がないのだ。
投資や資金という言葉にはなかなか縁がない。利子や利息も、利益や売り上げも聞いたことはあるけど、しっかり考えたことがない。高校生になって初めてしっかり考えることになる。社会をビジネスや経営という視点から眺めたことがない高校生によく出会う。利益と売り上げの区別ができない生徒は少なくない。
資本主義の市場経済は効率が求められる。競争社会だ。無駄はいらない。コストを意識する。よのなかをよく見れば、そうなっていることに気づける。日本は資本主義国だ。
コンビニやスーパーの陳列棚は、商品でびっしり埋め尽くされている。無駄なスペースは作らない。売れる位置に売れる商品を並べる。高級ブランド店は、ゆったりと商品を並べているが、これは販売する空間自体が商品価値の一部で、ラグジュアリーを演出する欠かせない要素で無駄ではない。商品価格に販売空間やパッケージ、ショップ店員の接客など全ての費用が含まれている。テーマパークも同じだ。どんな商売でも無駄をなくすことが大事だ。
スーパーの陳列棚に空きスペースができたら、何か商品を置いてスペースを有効活用すべきだ。売れない商品が陳列棚を占拠しているなら、商品の入れ替えを考えなきゃいけない。
医療体制の逼迫
病床数の不足
病院にも経営がある。
患者がいない空きベッドは無駄だ。患者が少ないと医師や看護師が余る。ちょうどいい数がある。病院のベッドは満床がいい。経済的に無駄がない状態だ。退院する患者がいれば、すぐに次の患者に来てもらいたい。入院や手術は、予約を途切れず入れたい。そうしないと雇っている医師や看護師はひまになってしまう。病室のベッドが長く埋まらないなら、経営として問題がある。
学校に置き換えてで考えればわかる。新入生が定員に満たないで、1クラス空いたら担任の先生は1人いらない。
ベッドが埋まらないなら何か方法を考える。診療科を見直して、患者が集まるようにする。外科だけじゃなく、脳外科や循環器外科を設置してみる。病室をやめて画像診断の機器を入れて検査室にする。無駄をなくすことが大事だ。
ベッド数に余裕のある病院は、儲かっていない病院です。新型コロナ対策には、感染防止のために対策費用がかかる。医師や看護師だけではなく、他の患者のための対策も必要だ。ベッドが空いているからといって、簡単には受け入れられない。
高校の公民科で市場経済のしくみを扱う。需要と供給は市場で価格によって調整されるが、市場のしくみはうまくはたらかないことがある。市場の失敗という。医療体制の逼迫は、市場の失敗だ。需要はあるが不足する。患者が多くなり病床・ベッドの需要はあるが、入院できない状態になりつつある。
感染症の拡大は予測しにくい。これまでも流行はときどきあった。いつ起こるかわからない。たまにある。ビジネスとして考えると儲けにくい。感染症病棟を整備しても使うのはときどきになる。非常事態には稼働するけど、それ以外はあまり使わないなら、無駄だという経営判断をしてしまう。
商品価格は材料費だけじゃない。
高校生に商品の値段は何で決まるかを考えてもらうと、材料費、原材料代と答える。次いで人件費が出てくる。その次が出てこない。
設備投資
漁業を行うには漁船がいる。農業を行うにはトラクターや温室がいる。商店を営むなら、テナント料や家賃がいる。冷蔵庫やレジ、厨房機器、陳列棚、内装など設備がいる。
設備投資はすぐに回収できない。長期間かけて少しずつ回収する。設備投資の資金はたいてい借り入れて用意する。儲けて少しずつ返していく。だから経営には見通しや計画が必要だ。感染症患者のための病院を経営するのは難しい。見通しを立てるのが難しい。案外、高校生には資金繰りに困るという話がピンと来ないようだ。商品価格には設備投資を回収するための費用が含まれている。これを気にせずに社会を眺めていては、問題が見えてこない。何で多くの病院が感染症患者の受け入れに慎重なのか。ビジネスの視点も問題を考えるのに役立つ。
医療はビジネスなのか。少なくとも日本の医療は、民間の病院が支えている。国立、公立病院もあるが民間の病院が大きな役割を果たしている。民間の病院は経営が大事だ。医療を安全保障やライフラインとして、政府に責任を求めたくなるが、日本の医療体制は政府の管理下というより、民間の経営者に委ねられている。公務員ではない多くの医療従事者の給料は、公的医療保険を経由しているが、税金ではない。民間の資金だ。
わが国の学習指導要領には、経営やビジネスの視点が欠けている。教員は私立学校でないと、利益やコストを気にせずに働いている。学校は効率やコストと一番無縁かもしれない。経済や経営、ビジネスを学ぶ必要性は高いはずなのに、見過ごされてきている。
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