見出し画像

桃がある生活。

大事にしていた最後の桃を、今朝、起き抜けに食べたのは、今日から里帰りをするからだ。

ちょっと熟した桃ならば、皮をきれいにむいてカットされたものより、最後にわざと手で割いたほうが好きだ。そうしたほうが間違いなくジューシーだから。

桃は一目散に食べるがよい。
勢いよくほおばるのがおいしい。

少し時間をおいただけで、びっくりするほど味が落ちる。もちろん、色も黒ずむ。本当にびっくりするから試してほしいくらい。

なによりも好きなのは、むきながら食べること。

大きくしたり、小さくしたり、薄切りスライスにしてみたり、その瞬間、瞬間の気分にあわせてナイフを入れる。小ぶりの真っ赤な皮むきナイフは、まるで桃のためにあるようなカーブをしていていまや大変よき相棒、桃専用ナイフである。

桃の産地の人はかたいうちに食べるらしい、と知ったのは、だいぶ大人になってからだった。

桃がコリコリした食感であることに驚いたとともに、そのあまさに「熟す」という概念がひっくり返った。もぎたて、とれたてでしか味わえないおいしさ、フルーツも野菜も地産地消にはかなわない。

「冷やしすぎは禁物」と教えてもらったのもこのとき。朝食べようと思ったら、眠る直前に冷蔵庫へ入れること。本当は数時間前がベストだが「7時間睡眠死守」を生活のめあてに掲げるわたしにとってはこれが最善だ。

翌朝の小さなしあわせを仕込んでから眠りにつくのは、わたしの特技のひとつ。2023年の夏の朝は、大いに桃とともにあった。

朝の日差しが気持ちいい部屋に住んでいることもあり、わたしのカメラロールには桃の写真がいっぱいだ。

「近所の八百屋さんでおいしそうな桃を見つけたから」といただいた桃。

たしか今年の初桃。

打ち合わせへいったら、デザイナーさんがアシスタントさんからおすそわけいただいたものを、さらにおすそわけいただいた桃。

幸せの連鎖!


そしてある日、突然山梨から届いた桃!!!

いい香りすぎてしばらく目を閉じた。

送り主は、いつもお世話になっている山梨出身の方。夏のフルーツが大好きで毎年、同じ農家さんにおねがいして送ってもらっているとのこと。

この季節のためにダイエットをし、あとは気にせずに浴びるように桃を食べるらしい。桃は3回に分けて送ってもらい、毎日食べる。桃の季節が終わったら、巨峰。巨峰の季節がおわったら、シャインマスカット。

「一生懸命育ててくれた農家さんに感謝しながら食べる。ぜいたくなのはわかっているけれど、夏のいちばんの楽しみなんです。またこの季節がきたぞ、って」

ああ、すごくいいな、と思った。

どこに価値をおくか、は本当に人それぞれで、いい車に乗っているから、お金持ちなわけでもなくて、旅によく出かけるから、余裕があるわけでもなくて、個人が大切にしていること、大事なことは、こうして三者三様であってほしいし、それを尊重しあえる世界こそが豊かだと思う。

その存在を介し、おいしさだけでなく、すてきなルーティンまで知れて、もう本当に今年は桃たちに感謝したい気持ち。

桃のことばかり考えて近所を散歩していたら、ある日、八百屋さんからふわっと甘い香りがただよってきて、思わず吸い込まれて小ぶりの桃をみっつ手に取った。

すぐにひとつ食べて、あとふたつ。

いただいてばかりの桃だったけれど、うちからいなくなるのがさみしくて、翌日、ポケットに小銭を入れてさらにふたつ買いにいった。

今年は桃が大好きになった一年でした。

もうすぐ桃の季節もおわり、また来年。東京駅を出発して新幹線の中で書きはじめたこのnote、窓の外はちょうど福島でした。そういえば、桃が木になっているところを見たことあったけ?  来年は桃がりをしてみたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?