うちの子バトルSS-7「ツクモド・ヴァーサス・バンブーエルフ」
このSSはファンタシースターオンライン2(©SEGA)の世界での出来事を描写しています。また、バンブーエルフの基本設定についてはこちらをご参照ください。もちろん個体としてはうちのこなので、独自設定があります。
「よっ、ほっ」
ナベリウス、森林の開けた地。
サイバネ化した右腕――モデル名:タロンシュナイデルを用い、手際よくダーカーを斬り殺していく男が居た。
彼の名は九十九堂冷泉分胤。今はアークスだ。
(これで80体目。しかしダーカー因子の変動はいまいち。ってことは、近くに親玉が居やがるな)
九十九堂は周囲の気配を探る。
――やっぱりな、見られている。
「出てこい。相手をしてやる」
その言葉を発するやいなや、ドスドスと林をなぎ倒しながら現れたものは、巨大な蜘蛛型ダーカーだった。
「さて、こいつを倒せば終わりか……ん?」
ダーカーは九十九堂を一瞥もせず、半狂乱で通り過ぎていく。
明らかに、怯えている動きだ。
「俺以外にアークスが来ているのか……?」
オペレータにクエリを投げるが、返答は「ノー」だった。
「とりあえず、始末してから考えるか」
彼は大きく跳躍し……その頂点で、同じく空中からダーカーを狙う女を視た。
◆◆
「アイーッ!」
女は竹槍に全体重を乗せ、落下。過たずコアを貫く。
返り血が顔にかかる。
巨大な蜘蛛は赤黒い粒子と変じ、霧散する。
不快だった。突いても殺しても疼きが収まらず、より強くなっていく。
「ハァーッ……!」
残心。
幸いにも、殺せるやつは山ほどいる。
片っ端から殺して、全て殺せばどうにかなるだろうか?
普段なら、我が朋友たるララモイが戦略を考えてくれる。
だが、今は私一人だ。私一人でどうにかせねばならない。
……六間後ろに、誰かが居る。
殺すのだ、そいつも。
◆◆
「誰だ」
女が振り返る。
筋骨隆々の肉体に、竹でできた鎧。左目は竹でできた眼帯で覆われ。そして、血に塗れ黒く変色した竹槍を携えている。
九十九堂は、ひと目で幾度も戦闘を繰り返してきた猛者だと理解する。
「どうも、竹の戦士。俺は九十九堂と言う」
彼はあくまでフレンドリーに接するが。
「弱者に名乗る名などなし」
取り付く島もなし。
(オペレータ。こいつ、会話はできるみたいだぜ)
……返答は「参考人を預かっている。しかし、ダーカー汚染が激しいため交渉は不可能と推測。至急応援を送るが、単独で対処する場合はなるべく殺害せず無力化せよ」であった。
「冥神への祈りは済んだか、ヒューマン」
女は竹槍を持ち、構える。
「悪いが死ぬ気はねえ。待っててくれてありがとよ」
九十九堂も構える。
戦が、始まった。
先に仕掛けたのは竹槍の女。中段、上段の重い突きを、トライナイトのサイバネ右腕でずらす。下段の薙ぎ払いを飛んでかわし、次ぐ回転蹴りを蹴り返して飛ぶ。
飛びながらサイバネ右腕から牽制の銃撃を行うも、全て竹槍に捌き切られる。
恐ろしい動体視力であった。
「バンブー使いから間合いを取るとはナメてやがるなァ!」
女は右手で印を組み、詠唱する。
「アイーッヤッ!」
そして、右足を振り上げ地面を踏みつけると、彼女のバンブー魔術が発動、足元から二本の竹が急成長し、槍めいて九十九堂を狙う!
「嘘だろ!?」
九十九堂は驚愕するも、サイバネアイで竹の軌道を予測。生身の左手でそのうちの一本を掴み、女の方向に加速を掛けて急襲する!
「飛んで火に入る」
女は待ち構え、得物で心臓を狙う!
「夏の虫ィ!」
一閃。
サイバネと竹槍が衝突し……砕けるは、竹槍。
竹槍に練り込まれたダーカー因子が九十九堂のフォトンと交錯し、崩れたのだ。
「まだやるかい」
「クク……ハハハ……!」
竹槍の女は額に手を当て、笑う。
「九十九堂とやら、お前を認めよう。アタシの名はツーズー。バンブーエルフ氏族の騎兵隊長だ」
「大人しくしてもらえるか?」
ツーズーはハッハと笑い、吐き捨てる。
「何を戯けたことを」
「……なに?」
そして彼女はすぐさま後ろを向き……走り出す!
「付いてこい! ここからが本番だ!」
九十九堂は一瞬あっけにとられ、そしてすぐさま追い始める!
(クソ……! 油断した俺がバカだった……!)
彼のサイバネは先の衝突で一部故障。指の開閉機構に竹片が入り込み、拳を握ることができない。
コーティングもズタズタだ。恐らく次は致命的な痛手となる……!
彼らはより深い、より入り組んだ地へと進んでいく。
三分もすれば、九十九堂は“誘導されている”と確信するに至った。
しかし、だからどうだというのだ。
ツーズーを見失い取り逃すことは、何よりも避けたかった。
景色は次第に暗く、重くなっていく。
気づけば、周りは黒く染まった竹林に、紅い空。
その中心で、ツーズーは仁王立ちで待ち受ける。
「AAAAAYYYYYYAAAAAAARRRRRRRRRHHHHHHHHH!!!!!!」
九十九堂を視認するなり、彼女は吼える。
その声量は天を揺るがし、飛ぶ鳥をも落とす。
地面に落ちた鳥はタケノコに突き刺さり、血を吸われ、すぐさま命を失う。
ツーズーは深く息を吐き、槍を頭上で回してから、腰に構える。
対する九十九堂は数回軽くジャンプし、身軽にファイティングポーズを取る。
「「始めようじゃねえか……!」」
今度は両者同時に仕掛ける……!
九十九堂が踏み込み、すくい上げるように腕を振るう。
ツーズーはしゃがんで避け、足元を払う。
九十九堂は自生しているバンブーをもう一方の手で掴み、ポールダンスの要領で一回転。遠心力を掛けた蹴撃を見舞うが、竹槍の軸で防御され、跳ね返される。
「ハイヤッ!」
ツーズーがごく短い詠唱を終え、また地を踏むと、九十九堂の着地点に鋭いタケノコがまきびしめいて現れる。
「読めてたぜ!」
九十九堂はタケノコに向けて徹甲弾を撃ち、反動で位置をずらす。
そのまま柔らかい地面に着地すると、すぐさま速度を上げ、ツーズーの周りを駆け始める……!
(アイツに対して何が有効なんだか分からねえ。色々試すしかねえな……!)
速度が上がる。走りながら、たまに死角から襲いかかる。
五回ほどトライして分かった。少なくとも、完全に防ぐことはできていない……!
(いくら玄人と言えど、認識を上回る速さで一撃離脱されては反撃のしようがないはずだ……!)
実際、理論としてはそう貶されたものではないだろう。
しかし。
「小癪な」
ツーズーは達人であった。戦場で片目を失い、それでもなお戦いを止めぬ猛者であった。
彼女は、イクサバにおいて左目の眼帯を解き、落とす。
眼球はない。ただ、火花が宿っていた。
「戦神よ。今一度加護を与え給え」
そう宣言すると、世界が鈍化した。
九十九堂は、もはや止まって見えるかのようだった。
彼の機械心臓が強く打つ。
何かが来る。
(まさか、一度の戦闘で対応しきったとでも言うのか)
脳内CPUすらも、その恐れと直感が正しいと告げている。
(一旦平地まで誘導を……)
刹那。
一本の竹槍が飛び来たり、右肩を貫通する。
「がッ……!」
腕をもぎ取られた九十九堂は無様に錐揉み回転するが、それも地面から襲いかかるバンブーに背中から縫い留められ、止まってしまう。
戦が止まる。
◆◆
九十九堂は地面に仰向けに「固定」されている。
「なあ九十九堂」
ツーズーは九十九堂の横まで歩き、しゃがみ込む。
「お前、最後に逃げようとしただろ」
無言。
「強いやつだと思ったんだがな。見当違いか」
「なんとでも言えよ、クソ……」
口からサイバネ液を撒き散らしながら、悪態。
「で、どうだ。“まだやるかい”?」
しかしあえて。九十九堂は、笑う。
「……“何を戯けたことを”」
ツーズーは訝しむが。
「な……ぐあッ……!」
彼女は後頭部に強い衝撃を受け、そのまま気を失う。
止めを与えたのは、先の一撃でもぎ取られた後に肘の部分で切り離され、不意打ちの機会を待っていた九十九堂の右前腕だった。
(切り抜けたはいいが……)
あちらの気絶は、持っても二十分。
九十九堂の視界は、レッドアラートで埋め尽くされている。
もはや、意識を失うのも時間の問題だろう。
「こんなトコでダーカー化はしたくねえよなあ」
彼はぼやく。視界が暗くなる。
(死にたくねえ)
意識が、落ちる。
◆◆
「もどー」「つくもどー」
呼びかける声が聞こえる。
「……ハッ!」
目覚めると、すでに夜。浄化された竹林は満月を受け、青白く輝いている。
「小凪葉……?」
「なによ幽霊に会ったみたいな顔して。全部終わったよ」
彼女は腰に手を当て、自慢気にしている。
「……そうだ、ツーズーは」
「そこで応急治療を受けてる。見立てどおり、ダーカーの侵食を受けて凶暴化してただけだよ」
「……そうか」
「なんで嬉しそうなの」
「参考人……というか、要は待ってる人が居るんだってよ。死んでたら寝覚めが悪いし、何より……」
「何より?」
「あいつは俺より遥かに強い。実際、最後の不意打ちがなければ蹂躙だった。もし殺せてたら、大物食いも良いところだろ。俺は程々が良い」
へんなの、と罵られながら今の状態に気づく。
「そういえば、背中から刺さってる竹、そろそろ抜いてくれないか?」
「はいはい……」
◆◆
「……ハッ!」
ツーズーは、無機質な白い部屋のベッドで目覚める。
心を蝕んでいた害意は消え去り、久しぶりに晴れやかだ。
「ツーズー生きてゆ! 目覚めゆ!」
横で手を握っているのは、ポテサラエルフのララモイ。大親友だ。
「……あー」
おはよう。この言葉も、いつぶりだろう。
狂国との戦争が片付いて平和になったある夜、二人で上等な布団に入って寝たまでは覚えている。
目覚めたら、ララモイはあーくすしっぷ(?)という施設に飛ばされ、アタシはなべりうす(?)の竹林に居たということらしい。
「とにかく無事で良かったゆ……!」
「アタシもそう思うよ、ララモイ」
ところで、と切り出す。
「そういや、九十九堂とかいう奴に合わなかったか?」
「ああ、そういや最後に戦ってたゆね」
「あいつの戦闘スタイル、面白かったぜ。今度また戦っ痛てェ!」
握っていた手に、潰されるような勢いで力が込められる。ララモイも大概力が強いのだ。
「言い忘れてたけど、これから一ヶ月は療養ゆ」
「ハァ!? 一ヶ月!? 三日で動けるぜ!?」
「一ヶ月。日程にはこの世界の物理法則の勉強も入ゆ」
「嘘だろ……? また勉強かよ……!」
項垂れるツーズー、肩をぽんぽんと叩くララモイ。
なんだかんだで、こっちも平和である。
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